犬猿の仲だと思っていたのに、なぜか幼なじみの公爵令息が世話を焼いてくる

風見ゆうみ

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34 退場する子爵令息

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 フェルナンディ卿の声が大きいせいで、店内にいたお客様は驚いて口を閉ざし、私たちに注目している。
 それをわかっていても止められなかった。
 それくらい鬱憤が溜まっていた。

「どうして私があなたを養わないといけないのよ」
「知ってるんだろ? 俺の家の状況を!?」
「今、フレシア様に聞いてるところだったのよ。 というか、こんな所で大声出さないでちょうだい 他のお客様の迷惑になるでしょう」

 どうせ忠告しても無駄だと感じ、場所を移動しようと立ち上がった時だった。
 フェルナンディ卿が店内にいるお客様に向かって大声で叫んだ。

「皆さん、ここにいる女は酷いんです! 俺に捨てられたからと言って、借金取りを使って脅させたり、最終的には僕から愛する人を奪い、家や家族まで奪ったんです!」
「家や家族?」

 愛する人はフレシア様のことで、家は差し押さえられたって言ってたわよね。
 だけど、家族っていうのは、どういうこと?
 子爵に何か遭ったのかしら。

 聞き返した私に、フェルナンディは私の腕を掴んで言う。

「父上は自分に必要なものだけ持って逃げたんだ! 寮で暮らしている俺を置いていったんだよ!」
「そのほうがあなたは楽なんじゃないの!? 寮にいれば、とりあえず寝床はあるし、ご飯だって朝夕は用意してもらえるじゃないの!」
「でも、家族を引き裂いたのはお前だ!」
「どうして私のせいになるのよ!? 家族が引き裂かれることになったのは、あなたのお父様のギャンブル癖のせいでしょう! 人の家族の命を奪った男の息子に言われたくないわ!」

 私はフェルナンディの手を振り払って叫ぶ。
 騒ぎを聞きつけた店長が慌てて、奥から出てくると、私とフェルナンディの間に割って入って言う。

「申し訳ございませんが何も注文されずに、ただ叫ばれるだけでしたら、あなたはお客様ではございません。お引取り願えますか」
「注文!? ああ、注文すればいいんだろう!? こいつのおごりだけどな!」

 フェルナンディ卿が私を指さして叫ぶ。
 私も我慢できなくなってしまい、目を据わらせて店長に話しかける。

「店長、こいつを追い出すのを手伝ってくれません?」
「わかった」

 私と店長がフェルナンディ卿の腕を片方ずつ、掴んだ時だった。
 出入口の扉に付けられたベルの音が聞こえたので振り返ると、こちらを見て動きを止めているミーグスと目が合った。
 ミーグスは視線を動かし、フェルナンディ卿の姿を認めると、ゴミを見ているかのような冷たい目をした。

「フェルナンディ、君は本当に覚えが悪いんだね。昼休みに寮で大人しくしろって伝えたのを、もう忘れたわけか」

 そこまで言ったあと、店内の客の視線が自分に集まっていることに気付き、笑顔で店長に話しかける。

「そこの彼、僕が預かります」
「大丈夫かい?」
「任せてください」

 店長は少し心配そうな顔をしてミーグスに尋ねると、ミーグスは笑顔で頷いた。

「ディラン様! 俺はもう1人になってしまったんです! 家族に見捨てられ、フレシアにも見捨てられ、ビアラにだって相手にされない! こんなに可哀想な俺! 可哀想すぎて、ここまできたら俺はどうしたらいいんですか!」
「どうもこうもないだろ」

 ミーグスは冷たい声で答えると、フェルナンディ卿の所まで歩いてくると、彼の腕を掴んで言う。

「君は1人が嫌みたいだから、人が大勢いる所へ連れて行ってあげるよ」
「大勢いるところ!? 寝食は保証されて、安全なところですか?」
「そうだね」

 律儀に答えを返してやってから、ミーグスは出入り口の扉の前までフェルナンディ卿を引っ張ってくると、店長に話しかける。

「申し訳ありませんが、前回と同じようにミーグス家に店内にいる方の分のお代の請求書をいただけますか。すぐに支払いの手配をしますので」
「しょ、承知しました」
 
 店長が頷いたことを確認すると、ミーグスはフェルナンディ卿を連れて店から出ていこうとする。

「ディラン!」
「君は来なくていい。仕事、頑張って」

 叫んだ私に、ミーグスは手を振ると今度こそ店を出て行った。

 このまま、追いかけても邪魔になるわよね。

 気持ちを切り替えて、店長と一緒に前回と同様にお客様に詫びを入れた。
 その後、店長から飲食代を無料にすることが伝えられた。
 私に対する同情の声も多く、胸を撫で下ろしていると、フレシア様が私に話しかけてきた。

「ディランはホーリルをどうするつもりかしら」
「わかりません。ただ、何か考えがあるんだとは思いますけど」

 首を横に振ると、フレシア様は顎に手を当てて言う。

「もしかしなくても明日から、ホーリルは学園に来ないかもしれないわね」

 フレシア様の意味深な発言を聞いて、私は無言で彼女を見つめた。
 
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