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『第五話・6 : 師の背中へ、届かなかった答え 』
しおりを挟む「……ッ!」
リリアは息を詰め、駆け出す。
血煙と瓦礫の中で、ラムタフのぼろぼろの身体が崩れ落ちていた。
リリアはその身を抱きとめ、胸に引き寄せる。
「ラムタフ……!」
彼の瞳が血に濡れながらわずかに開いた。
震える声で、途切れ途切れに言葉を零す。
「……し、ししょう……俺、やっと……ちょっとは……近づけた……か……?」
リリアは、首を横に振った。
「……違う」
それでも、その手は離さなかった。
(……俺は)
(俺は、この人の“背中”を追い越したかっただけだ)
勝ちたかったわけじゃない。
支配したかったわけでもない。
魔王の力が欲しかったのも、本当は――
(追いつけないのが、怖かっただけだ)
だから、借りた。
だから、なぞった。
だから、自分で生み出すことから逃げた。
その答えに辿り着いた瞬間、
胸の奥で何かが、静かに崩れ落ちた。
(……ああ)
(だから、斬られたのか)
世界が拒んだんじゃない。
剣が選ばなかったんじゃない。
(俺自身が……
最初から、前に進もうとしていなかった)
ラムタフは、かすかに顔を上げた。
すぐ近くに――
リリアがいた。
腕を離さず、ただ、静かに自分を抱きとめている。
その瞳に、一瞬だけ──
弟子だった頃に何度も見た、“あの光”が宿っていた。
沈黙が、二人のあいだに落ちていった。
リリアは、その重さから目を逸らさなかった。
──本当は、言いたいことが山ほどあった。
叱りたかった。
抱き締めたかった。
生きろと、叫びたかった。
けれど、そのすべては喉で折れ、
声になる前に、胸の奥へ沈んでいく。
ただ、腕の中で冷えていく弟子を抱きしめながら、
涙と一緒に、心の底で――
「……バカヤロウ」
そう、呟くしかなかった。
その瞬間、
脳裏に差し込むように、ひとつの光景が蘇る。
「師匠、もう一回だけ!」
幼い声。
拙い詠唱。
弾ける光の火花に、はしゃいでいたあの日の笑顔。
腕の中の重さが、
その記憶だけを――静かに、引き裂いた。
セラフィーは剣を下ろす。
ただ、それ以上は何もできなかった。
(……これは、二人の物語。
世界でさえ、踏み込む資格はない)
ブッくんは墨を垂らし、ページを小さく震わせていた。
「……あかんわ……こんなん……
ワイの黒インク……滲んでもうたやんけ……」
ワン太はリリアの膝元で“ぽふっ”と跳ね、
何も言わずに、尻尾を垂らす。
それだけで、十分だった。
赤光に染まった戦場で、
仲間たちはただ沈黙の中に立ち尽くしていた。
師と弟子の物語が、確かにここで終わったことを――
誰もが、言葉なしに理解していた。
そして、リリアは顔を上げる。
その視線に、もはや憎しみはない。
あるのはただ、
終わらせなければならない者を、終わらせるための目だけだった。
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