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『第五話・5 : 世界に還る魔法』
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リリアは息を呑み、剣を握り直す。
(……おいおい、マジでやめろって……!制御できてねぇだろ、それ!)
(……これ以上は、術者ごと潰れるぞ……!)
紅の奔流は術者自身をも侵し始める。
肉体からは紅霧めいた靄が立ち昇り、世界を呑むはずの術が術者そのものを喰らっていく。
――まるで、
『お前は世界を壊す資格がない』と、
術そのものに裁かれているかのように。
だがラムタフは笑っていた。
「はは……ははは……ッ! 見ろよ師匠……! これが……俺の、力……! 師を超える力だ……!」
その笑みは、崩壊の淵に立たされた狂気のものだった。
紅光がさらに膨張し、もはや術ではなく――
“結果”として、ラムタフ自身の身体を蝕み始める─
リリアが剣を握りしめ、必死に叫ぶ。
「やめろ、ラムタフ!!
それは力じゃない!!
血界系は――完成してない。
制御できないまま踏み込めば、
術じゃなく、ただの自殺だ!!
今すぐ止めろ!!
それ以上行けば――
戻る場所が、なくなる!!」
だが、ラムタフは耳を貸さなかった。
「制御……?
そんなものが必要だって言うのか?」
血走った目が、歪んで笑う。
「笑わせるなよ、師匠。
力が絶対なら――制御なんて、いらねぇ」
紅と黒が入り混じる魔力が、身体の内側で唸りを上げる。
「俺には……デモリオンがいる。
世界の外側の“本物”が、ここにある」
声が裂ける。
「理屈も禁忌も関係ねぇ!!
力があるなら――
世界は、従うしかないんだ!!」
紅の陣環は悲鳴のように脈動を速め、大地を何度も叩きつけた。
ひとつ、またひとつと紋様が砕け、
裂け目から血色の光が這い出していく。
それはもはや魔法陣ではない。
大地そのものが――
内側から裂け、出血しているかのようだった。
ラムタフは笑った。
だが、その喉から漏れた音は、笑いというにはあまりに濁っていた。
「ハ……ハハ……ッ……!
ど、どうだ……師よォ……ッ……!」
口元から、赤黒い血が垂れる。
それでも、視線だけは歪んだまま輝いている。
「もう……あなたの知る……俺じゃ……ねぇ……!
こ、これが……俺の……」
息が詰まり、声が途切れる。
それでもラムタフは、肺の底を引き裂くように言葉を押し出した。
「――真の……最強魔法だァァ……ッ!!」
(クソッ……あれはダメだ!)
リリアの思考が、刃より先に走る。
(そもそも――依代が足りない! あれじゃ……)
踏み込みながら、叫ぶ。
「バカッ!!
それは──オリジナルですらない!!
未完成の、ただの自爆装置だ!!」
紅の渦が、答えの代わりに唸りを上げた。
制御を失った光が反転し、引き寄せられるように、すべての魔力が“術者自身”へと跳ね返り始める。
「やめろ、ラムタフッ!!
今止めなきゃ――お前が喰われる!!」
魔法陣が、悲鳴を上げた。
陣を構成していた紋様が次々と砕け、緋色の奔流が、逃げ場を失ったままラムタフの身体を包み込む。
骨が鳴り、血が蒸発し、
声にならない音が、喉の奥で弾ける。
それでも――
その中心で、ラムタフは笑っていた。
歪んだ笑みのまま、
震える声を、血と一緒に吐き出す。
「師匠……!
受け取れ……これが俺の“答え”だ……!」
魔力が、完全に反転する。
「――《血界反響陣(ブラッド・リゾナンス)》ッ!!!」
ラムタフの絶叫と共に、紅蓮の靄が夜空を引き裂き、朱光が戦場すべてを塗り潰す。
轟音が遅れて落ち、衝撃波が大地を叩き割り、砦の残骸が吹き飛んだ。
砕けた紋の残滓は、無数の矢となって四方へ散る。
だが、そのすべてが――
ひとつの意志に引き寄せられる。
深紅の閃光が束ねられ、
獣が獲物に跳びかかる瞬間のように――
一直線に、リリアへと殺到した。
紅の奔流が、空気を引き裂きながら迫る。
それはもはや“魔法”ではない。
喰らい尽くすための、衝動そのものだった。
リリアは剣を握り直し、深く息を吸った。
詠唱は、短い。
だが――一切の揺れがなかった。
「……世界よ」
その声に、夜が応える。
「在るべき流れに、還れ」
白金の光が、剣身から静かに滲み出す。
術式は展開しない。
陣も、紋も、魔力の奔流もない。
ただひとつ、
“世界が是とした結果”だけが、そこに生まれた。
「――《カリンダム・ヴィンセント》」
名を告げた瞬間、白金の光は境界となった。
リリアは、剣を下ろしたまま一歩踏み出した。
刹那、
白金の光が、彼女の足元から静かに立ち上がる。
それは防壁ではない。
拒絶でも、逃避でもない。
――“世界に還す”ための制圧。
紅の奔流は、触れた瞬間に軌道を失い、白金の光に噛み砕かれ、引き剥がされ、反転したまま――魔法陣の中心へと押し戻された。
紅の攻撃魔法は、触れた途端に形を失う。
砕けたのではない。
打ち消されたのでもない。
行き場を失い、あるべき場所へ――還された。
一瞬の静寂ののち、反転した魔力は、逃げ場をなくし、血界反響陣そのものへと雪崩れ込む。
その光景を、崩れゆく陣の中心で、ラムタフは見ていた。
「……ああ……
それだ……
俺が……“なれなかった”……魔法……」
その言葉が、彼の中で“答え”になった瞬間だった。
視界が、赤と白に溶けていく。
彼は――笑ったのかもしれない。
次の刹那。
円環が崩れ、紋様は逆流し、ラムタフの全身から血飛沫が噴き上がる。
骨が軋み、肉が裂け、肉体そのものが――術の燃料として引き剥がされていく。
「ぐっ……は、はは……これが……俺の……」
言葉は、最後まで形にならなかった。
陣は内側から爆ぜた。
「……っ!?」
ラムタフの身体が、びくりと跳ねる。
跳ね返った魔力は、もはや術ではなかった。
暴走した“答えの残骸”が、逃げ場を失い、術者自身へと雪崩れ込む。
その瞬間、ラムタフの身体は、内側から崩れ始めた。
血が噴き、骨が砕け、紅晶は悲鳴を上げて粉砕される。
叫びは、音になる前に引き裂かれた。
――そして。
術者の命が完全に途切れた、その刹那。
暴走していた魔力は、行き場という概念を失い、
悲鳴のような余韻だけを残して、霧のように霧散した。
そこに残ったのは、焼け焦げた大地と、血の匂いと――
誰にも完成させられなかった“禁忌”の、空虚な残骸だけだった。
(……おいおい、マジでやめろって……!制御できてねぇだろ、それ!)
(……これ以上は、術者ごと潰れるぞ……!)
紅の奔流は術者自身をも侵し始める。
肉体からは紅霧めいた靄が立ち昇り、世界を呑むはずの術が術者そのものを喰らっていく。
――まるで、
『お前は世界を壊す資格がない』と、
術そのものに裁かれているかのように。
だがラムタフは笑っていた。
「はは……ははは……ッ! 見ろよ師匠……! これが……俺の、力……! 師を超える力だ……!」
その笑みは、崩壊の淵に立たされた狂気のものだった。
紅光がさらに膨張し、もはや術ではなく――
“結果”として、ラムタフ自身の身体を蝕み始める─
リリアが剣を握りしめ、必死に叫ぶ。
「やめろ、ラムタフ!!
それは力じゃない!!
血界系は――完成してない。
制御できないまま踏み込めば、
術じゃなく、ただの自殺だ!!
今すぐ止めろ!!
それ以上行けば――
戻る場所が、なくなる!!」
だが、ラムタフは耳を貸さなかった。
「制御……?
そんなものが必要だって言うのか?」
血走った目が、歪んで笑う。
「笑わせるなよ、師匠。
力が絶対なら――制御なんて、いらねぇ」
紅と黒が入り混じる魔力が、身体の内側で唸りを上げる。
「俺には……デモリオンがいる。
世界の外側の“本物”が、ここにある」
声が裂ける。
「理屈も禁忌も関係ねぇ!!
力があるなら――
世界は、従うしかないんだ!!」
紅の陣環は悲鳴のように脈動を速め、大地を何度も叩きつけた。
ひとつ、またひとつと紋様が砕け、
裂け目から血色の光が這い出していく。
それはもはや魔法陣ではない。
大地そのものが――
内側から裂け、出血しているかのようだった。
ラムタフは笑った。
だが、その喉から漏れた音は、笑いというにはあまりに濁っていた。
「ハ……ハハ……ッ……!
ど、どうだ……師よォ……ッ……!」
口元から、赤黒い血が垂れる。
それでも、視線だけは歪んだまま輝いている。
「もう……あなたの知る……俺じゃ……ねぇ……!
こ、これが……俺の……」
息が詰まり、声が途切れる。
それでもラムタフは、肺の底を引き裂くように言葉を押し出した。
「――真の……最強魔法だァァ……ッ!!」
(クソッ……あれはダメだ!)
リリアの思考が、刃より先に走る。
(そもそも――依代が足りない! あれじゃ……)
踏み込みながら、叫ぶ。
「バカッ!!
それは──オリジナルですらない!!
未完成の、ただの自爆装置だ!!」
紅の渦が、答えの代わりに唸りを上げた。
制御を失った光が反転し、引き寄せられるように、すべての魔力が“術者自身”へと跳ね返り始める。
「やめろ、ラムタフッ!!
今止めなきゃ――お前が喰われる!!」
魔法陣が、悲鳴を上げた。
陣を構成していた紋様が次々と砕け、緋色の奔流が、逃げ場を失ったままラムタフの身体を包み込む。
骨が鳴り、血が蒸発し、
声にならない音が、喉の奥で弾ける。
それでも――
その中心で、ラムタフは笑っていた。
歪んだ笑みのまま、
震える声を、血と一緒に吐き出す。
「師匠……!
受け取れ……これが俺の“答え”だ……!」
魔力が、完全に反転する。
「――《血界反響陣(ブラッド・リゾナンス)》ッ!!!」
ラムタフの絶叫と共に、紅蓮の靄が夜空を引き裂き、朱光が戦場すべてを塗り潰す。
轟音が遅れて落ち、衝撃波が大地を叩き割り、砦の残骸が吹き飛んだ。
砕けた紋の残滓は、無数の矢となって四方へ散る。
だが、そのすべてが――
ひとつの意志に引き寄せられる。
深紅の閃光が束ねられ、
獣が獲物に跳びかかる瞬間のように――
一直線に、リリアへと殺到した。
紅の奔流が、空気を引き裂きながら迫る。
それはもはや“魔法”ではない。
喰らい尽くすための、衝動そのものだった。
リリアは剣を握り直し、深く息を吸った。
詠唱は、短い。
だが――一切の揺れがなかった。
「……世界よ」
その声に、夜が応える。
「在るべき流れに、還れ」
白金の光が、剣身から静かに滲み出す。
術式は展開しない。
陣も、紋も、魔力の奔流もない。
ただひとつ、
“世界が是とした結果”だけが、そこに生まれた。
「――《カリンダム・ヴィンセント》」
名を告げた瞬間、白金の光は境界となった。
リリアは、剣を下ろしたまま一歩踏み出した。
刹那、
白金の光が、彼女の足元から静かに立ち上がる。
それは防壁ではない。
拒絶でも、逃避でもない。
――“世界に還す”ための制圧。
紅の奔流は、触れた瞬間に軌道を失い、白金の光に噛み砕かれ、引き剥がされ、反転したまま――魔法陣の中心へと押し戻された。
紅の攻撃魔法は、触れた途端に形を失う。
砕けたのではない。
打ち消されたのでもない。
行き場を失い、あるべき場所へ――還された。
一瞬の静寂ののち、反転した魔力は、逃げ場をなくし、血界反響陣そのものへと雪崩れ込む。
その光景を、崩れゆく陣の中心で、ラムタフは見ていた。
「……ああ……
それだ……
俺が……“なれなかった”……魔法……」
その言葉が、彼の中で“答え”になった瞬間だった。
視界が、赤と白に溶けていく。
彼は――笑ったのかもしれない。
次の刹那。
円環が崩れ、紋様は逆流し、ラムタフの全身から血飛沫が噴き上がる。
骨が軋み、肉が裂け、肉体そのものが――術の燃料として引き剥がされていく。
「ぐっ……は、はは……これが……俺の……」
言葉は、最後まで形にならなかった。
陣は内側から爆ぜた。
「……っ!?」
ラムタフの身体が、びくりと跳ねる。
跳ね返った魔力は、もはや術ではなかった。
暴走した“答えの残骸”が、逃げ場を失い、術者自身へと雪崩れ込む。
その瞬間、ラムタフの身体は、内側から崩れ始めた。
血が噴き、骨が砕け、紅晶は悲鳴を上げて粉砕される。
叫びは、音になる前に引き裂かれた。
――そして。
術者の命が完全に途切れた、その刹那。
暴走していた魔力は、行き場という概念を失い、
悲鳴のような余韻だけを残して、霧のように霧散した。
そこに残ったのは、焼け焦げた大地と、血の匂いと――
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