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第2章 kinds
kinds『K』『I』
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高校生活においてもっとも重要なものは、やはり人間関係であろう。良き人間関係を築けたのならこの3年間は充実した日々を送れるだろう。逆に得られた人間関係が悪いものであるならこの3年安定した生活は保証できない。
「ねえー、そこの君。消しゴムとってくんない?」
椅子を引いて床を見てみるとビーズのようなものでキラキラ飾った青い消しゴムが落ちていた。俺は拾って持ち主の方へ投げた。
「おー、さんきゅー」
持ち主は、片手で消しゴムを取ると授業に戻った。だが、引き出しの中でスマホを扱っているあたり真面目に授業を受けているとは思えない。
この俗に言う『ギャル』である、消しゴムの持ち主の、名前は蒼井琴美。入学初日からこの風格が伴っている。なにしろ、俺の名前を覚えていないくらいだ。入学から1週間しか経っておらず接触する機会もなかったので無理もないことかもしれない。
1週間という期間は生徒の気を緩めるのには十分だった。
先日まで目を爛々と輝かせて授業を受けていた人の中にも、すでに窓の外を眺め、楽しそうな体育の授業を見る者もいる。蒼井のように授業中は使用してはいけないはずの携帯電話を扱う者も出てきた。1週間でこの現状とは先が知れない。
「酷いものね…」
授業が終わると音無が独り言のように呟いた。
「高校ってこんな感じじゃないの?まあ、授業を聞かないのは確かに悪い事だとは思うけど」
小学、中学と流石に携帯電話や化粧などを授業中に使っている人こそいなかったが、その代わり騒いだり、寝たりする人はいた。高校とで何が変わったのかと言われれば、ほんの少しの程度の差なのだろう。
「ええ、そうなのかもしれないわね。それにしてもまた『kinds』ね…」
「カインズ?」
「そう、中学校のときに『kinds』と呼ばれるグループがあったのよ。このクラスでは蒼井さんと、黒島さんがそうね」
黒島さんとは誰だったかと音無に確認してみると指を指した。その指の指す方を見てみると黒い髪留めを付けた女子がいた。
「別にあの子の態度が悪かったようには見えなかったけど」
「あら、誰がkindsの授業態度が悪いと言ったの?」
「そうだな、誰も言ってなかったな。それじゃあそのkindsがどうかしたのか?」
「仲のいいグループなんだけど、中学の頃結構問題を起こしてたのよ」
「へえ、それはまた何をしたんだ」
学生の起こす問題なんざたかがしれている。万引きやらいじめやら、容易に想像できる。
「恐喝よ、それも集団で」
これを聞いて思った。ほら、やっぱり大したことないのだ、と。いじめられるのが怖いのならば逃げればよいだけだ。嫌なら早く縁を切ってしまえば良いのだと、そう思っている。
「そうか、情報ありがとな。あまり関係を持たないようにするよ」
「そういうわけで言ったんじゃないけど…。まあ、気を付けなさい」
気を付けて関係を持たないようにするんじゃないんだ。気を散らしていれば、関係なんて持ちようがないんだ。
黒島郁美。その容姿は音無にも劣らない。だが、どこか幼さを感じさせる音無と異なり、彼女は大人びた雰囲気を漂わせている。最初はチラと確認するためだけに見るつもりであったのだが、見入ってしまいそうだった。
彼女が中学校で問題を起こしていたとは考えにくいのだが事実なのだろう。誰しもが裏の顔というものを秘めているのだ。ましてや黒島の大人びた仮面の下にはどれほどの顔があるのかは計り知れない。
やはり他人は怖い。底が知れない、未知というものは怖いものだ。
「ねえー、そこの君。消しゴムとってくんない?」
椅子を引いて床を見てみるとビーズのようなものでキラキラ飾った青い消しゴムが落ちていた。俺は拾って持ち主の方へ投げた。
「おー、さんきゅー」
持ち主は、片手で消しゴムを取ると授業に戻った。だが、引き出しの中でスマホを扱っているあたり真面目に授業を受けているとは思えない。
この俗に言う『ギャル』である、消しゴムの持ち主の、名前は蒼井琴美。入学初日からこの風格が伴っている。なにしろ、俺の名前を覚えていないくらいだ。入学から1週間しか経っておらず接触する機会もなかったので無理もないことかもしれない。
1週間という期間は生徒の気を緩めるのには十分だった。
先日まで目を爛々と輝かせて授業を受けていた人の中にも、すでに窓の外を眺め、楽しそうな体育の授業を見る者もいる。蒼井のように授業中は使用してはいけないはずの携帯電話を扱う者も出てきた。1週間でこの現状とは先が知れない。
「酷いものね…」
授業が終わると音無が独り言のように呟いた。
「高校ってこんな感じじゃないの?まあ、授業を聞かないのは確かに悪い事だとは思うけど」
小学、中学と流石に携帯電話や化粧などを授業中に使っている人こそいなかったが、その代わり騒いだり、寝たりする人はいた。高校とで何が変わったのかと言われれば、ほんの少しの程度の差なのだろう。
「ええ、そうなのかもしれないわね。それにしてもまた『kinds』ね…」
「カインズ?」
「そう、中学校のときに『kinds』と呼ばれるグループがあったのよ。このクラスでは蒼井さんと、黒島さんがそうね」
黒島さんとは誰だったかと音無に確認してみると指を指した。その指の指す方を見てみると黒い髪留めを付けた女子がいた。
「別にあの子の態度が悪かったようには見えなかったけど」
「あら、誰がkindsの授業態度が悪いと言ったの?」
「そうだな、誰も言ってなかったな。それじゃあそのkindsがどうかしたのか?」
「仲のいいグループなんだけど、中学の頃結構問題を起こしてたのよ」
「へえ、それはまた何をしたんだ」
学生の起こす問題なんざたかがしれている。万引きやらいじめやら、容易に想像できる。
「恐喝よ、それも集団で」
これを聞いて思った。ほら、やっぱり大したことないのだ、と。いじめられるのが怖いのならば逃げればよいだけだ。嫌なら早く縁を切ってしまえば良いのだと、そう思っている。
「そうか、情報ありがとな。あまり関係を持たないようにするよ」
「そういうわけで言ったんじゃないけど…。まあ、気を付けなさい」
気を付けて関係を持たないようにするんじゃないんだ。気を散らしていれば、関係なんて持ちようがないんだ。
黒島郁美。その容姿は音無にも劣らない。だが、どこか幼さを感じさせる音無と異なり、彼女は大人びた雰囲気を漂わせている。最初はチラと確認するためだけに見るつもりであったのだが、見入ってしまいそうだった。
彼女が中学校で問題を起こしていたとは考えにくいのだが事実なのだろう。誰しもが裏の顔というものを秘めているのだ。ましてや黒島の大人びた仮面の下にはどれほどの顔があるのかは計り知れない。
やはり他人は怖い。底が知れない、未知というものは怖いものだ。
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