生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな

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62 ~予兆~

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「父上、失礼します」


部屋の主の性格が分かりそうな、シンプルで無骨な執務室。
唯一、部屋の一角…カウチとベビーベッドがある場所だけは、義母様おかあさまと生まれたばかりの義弟おとうとの寛ぐ場所らしく、ゆったりとした寛ぎスペースになっている。


「アーサー…すまないな。急に呼び出して…」


当主ならもう少しどっしりと構えておけば良いのにと思いつつ首を振る。


「いえ、本を読んだいただけなので、お気になさらず。それよりも、カール殿下が目を覚まされたと…」


マーキスから聞いた報告と合わせ、シャーロットからの手紙の内容を聞く。

「まだシャーロット嬢からの『連絡』という形だ。アルメニア王国から直接話が来てしまえば断る事は出来ないからな…」


そう言った父上は、腕を組んで考え込んでしまった。時間的に昼食を抜いての話だったので、メイドを呼び急ぎ軽食の準備をさせ、執務室に運び込ませる。
こうでもしないと、父上は昼食を抜くことが多々ある…と、ミーリアも言っていた気がする。
そのミーリアも、先触れの報告では明日屋敷に着くはずだ。
のんびりしているように見えるが、機転の聞く子だ。あの子なら、父上にあんな顔をさせないだろうな…と思いながら、運び込ませた昼食…ミーリア考案のサンドイッチを頂く。


「アルメニア王国から婚約の申し込みがあるだろう…との手紙だった」


ソファーに座り、サンドイッチを手に取る父上。
婚約……ミーリアにか…。


「ですが、カール殿下は無理な婚約は望まずいたのではないですか?昏睡状態だったとはいえ、急に気持ちが変わるなど、早々ないでしょ?」


今まで国交自体が没交渉だったんだ。
無理な婚約を望まない殿下が、会ったことも無いミーリアを望むはずがない…だとすると…。


「シャーロットですか?」


思い当たる人物の名を出す。
ミーリアが魔力過多症で苦しむレオナルド殿下の婚約候補という事は以前から知っていたし、レオナルド殿下の魔力過多症が治ったらしいという事も、多分薄々気付いているはず。


「ああ…手紙で謝罪されたよ。だが問題は…シャーロット嬢がミーリアの名前を出す前に、カール殿下から、ミーリアの話が出たという事だ。『ミーリア嬢を知っているか?』と……」


カール殿下がどこでミーリアの存在を知ったのか…いや…以前から候補には入っていたので、名前は知っていてもおかしくはないか…。


レオナルド殿下の魔力過多症はおそらく完治しているというサイラス殿が言っていた。


それと…先日の我が領地での傍若無人振り…。側近へのあの態度。
王宮には早々に婚約内定辞退の手紙を送った。以前はあんなお方じゃなかったのに。

これが正式決定すれば、ミーリアは全くのフリー…。


ミーリアはモノではない…こういった話が持ち上がるたびいつも思う。


王家・貴族家共に、それぞれ事情があるのは分かるが、それを我が家に押し付けないで欲しいと常々思う。思うが…


「ミーリアの特殊な魔力体質ゆえか……」


意図せず溜息が出てしまう。
政略でもいい、せめて少しでも幸せな環境に…父上と自分ができるのはそれ位しかない事に、また溜息が出た。
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