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ヤツは本当に来るのだろうか?
今回入手予定の古書は、本来ならば僕の一族の手元になければいけない本だ。
いつの間にか本家の蔵からなくなっていた本には、僕の一族の秘匿する事実の一部が書かれている。
もちろん、それ単独では読み解けないものではあるのだけれど、手元に取り戻せるのならばそれに越した事はないので、もののついでに何か手掛かりがないか…蔵から消えていた事が判明してから以降ずっと探していた。
つい数か月前、どの傘下にも入らず単独で長くこの人間の地で生きる者の手にあると知った。
そして…伝手の伝手の伝手を辿ると言う、厄介なやり方で、ようやくヤツと会う手筈が整った。
ツヅキが心配するのも分かるのだけれど、この機会を逃してしまえば後がないような気がしたので、どうにかこうにか『取引場所の移動をしない、取引後に必ず合流する』という条件をつけて、自分から離れた場所で待機するよう言いくるめた。
「何事もなく終わればそれでいいのだけれど…」
そう独り言ちた時、誰もいなかったはずの突き当りの壁際から声が聞こえた。
「何事もなく?何かある予定なのかしら?」
何故か振り向くのを躊躇ってしまいそうになる冷たい女の声。
気を抜くと力が抜けてしまいそうな足にもう一度力を籠め、思い切り振り向くと…そこには壁から半分浮き出たような髪の長い女が立っていた。
「あら…見ちゃったのね。この姿見ちゃったからには記憶を消さないといけないわね」
こいつはこうやって理由を付けて、相手の記憶を喰って生きてきたのだろう。
記憶を糧に生きる者。古くからこの地にいる妖怪とは違う存在。
人間でいうところの悪魔だった。
「一応ね、約束は守るわよ。この古書だったかしら?」
胸元から取り出した本を僕に投げ渡し、引き換えとなる物を要求する。
交換条件で要求されたのは、記憶が入った水晶玉だった。
「早くそれをこちらに。それはあなた達が持っていても何の役にも立たない物だわ」
どういう過程でこの水晶玉ができるのか…僕には判らない物だったけれど、彼女がこれを要求するのだから、悪魔的な何かなのか、糧としての物かどちらかなのだろう。
「知りたそうだから教えてあげるわ。この水晶玉は私達の同族の記憶。半永久的に生きる私達でも死ぬことはあるの。まぁ…でも、この子はまだ良かったのかもしれないわね。記憶があるから、私であれば戻してあげられるし……でも…少し位意趣返ししてもいいわよね?」
冷たい目で僕を見据え指先で空に何かを描く。
「あなたの記憶を頂くわ。美味しそうだから。恨むなら…そうね、あなたの傍に仕える者を恨みなさい」
それが僕の記憶する最後の言葉だった。
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