人外さんに選ばれたのは私でした ~それでも私は人間です~

こひな

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夢とかゲームとかじゃない世界で『念話』なんて練習するとか思ってもみなかった私。
社長曰く才能ありらしいけど、微妙な気分だ。
だって…実生活じゃ使わない……わけじゃないけど、限定的にしか使えないので、やっぱり嬉しくない。


「渡利様は色々とそつなくこなすタイプかと思われますけれど…」


ちなみに、今は苦手なフランス語の勉強中。
社長はヨーロッパ方面の買い付けの担当だったらしく、来月からの買い付けツアーに向け頑張っている。


「今までその語学力でよくやっていられたな」


数日前までは一言もしゃべらずニコニコしていた妖精さんは現在、机の上…フランス語の教科書の傍で腕を組んで仁王立ちしている。しゃべらなければ可愛いのに……なんて思いながら、思わず唸る……。


「英語はできていたから何とかね……」


掘り出し物を見つけたいのならば、やはり現地の言葉を話せ理解できることが良いには決まっている。
分かってはいるのだけれど、フランス語のあの独特の鼻にかけるような発音がなかなか難しい……。


「リスニングはできてるんだからあとは発音…だな」


溜め息交じりに言われ、ちょっと落ち込む。
これでも割と言語に関しての成績は良かった方だったのだ……前の会社の中では…。
井の中の蛙ってとこなんだろうけどね。


「他の目ぼしい言語はいけんだからフランス語だって大丈夫だろ」


採点の最後にそうひと言言われ、今日の勉強は終了。
午後からは美術館巡りだそうだ。


『色々な物を見ろ、教養を


社員フロアの入り口からよく見える場所に、格言の如く書かれた言葉だ。
入社してまだ数日。まだ数日なのに副社長。
古書店の従業員のつもりで入ったのに、気が付けば勉強の嵐。


ありがたい。
ありがたいのだ。本来ならば。


「入ったの間違いだったかも」


溜め息をつき独り言ちる。




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