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交流編

(53)混血

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~紗彩目線~


「ちょっと、意味が分かりません」
「そうですか?」


 【他種族間の混血について、あなたはどう思いますか?】

 アルさんは、確かそう言った。

 でも、私にはアルさんが何を言いたかったのかが全く分からなかった。
 いや、別に意味が分からないわけじゃない。
 混血というのは、たぶんハーフのことを言っているんだろう。

 それにしても、ハーフについてどう思うというのはどういう意味なんだろう?
 ハーフは、ハーフでしょう?


「いや、だって混血ってハーフの事でしょう?」
「ああ、すみません。質問が悪かったですね。目の前にハーフがいた場合、あなたはどうしますか?」
「どうしますかって、普通に仲良くしますが」
「…………そうなんですか?」
「はい」


 私がそういえば、アルさんはポカンとした表情を浮かべていた。
 
 何か変なことを言っただろうか?


「他種族間なのに?」


 他種族間のハーフか。

 元の世界のハーフだと目の色や髪の色や肌の色が違うっていうイメージだけど、こっちの世界のハーフってどんな感じだろう?

 というか、どうしてアルさんはこんなに驚いているんだろう?

 この世界で、ハーフっていったいどんな扱いなんだ?

 この世界では、ハーフってあまりいい目で見られないのかな?
 確か、日本でも昔ハーフは扱いが悪かったって何かの本で読んだ気がするし。


「いや、だってハーフって本人にどうこうできるものじゃないでしょう?だから、他人が何か言うものじゃないでしょう」
「そうですねぇ」


 私がそう言えば、アルさんは驚きながらもニコリと笑った。

 その笑顔を見た瞬間、私の選択が悪かったのかと心配してしまった。

 アルさんって、小説の中にいる黒幕というか何を考えているのかわからないみたいな雰囲気が時々あるからちょっと怖い。


「…………何か、まずいこと言ってしまいましたか?」
「いえ…………ただそういう意見もあるのだなと思いまして。ちなみに、理由を聞いてもいいですか?」
「え、さっき言った通りハーフだからって本人にはどうこうできませんし。はっきり言って、本人がどうこうできないことで何か言うのはおかしいと思いますよ。ハーフなんて、性別と同じようなもんですし」
「なるほど」


 頷くアルさんを見て、少し不思議に思う。
 アルさんの表情が少し緩んだ気がしたから。

 でも、見た感じだとアルさん本人はハーフに対して悪い感情を持っているようには見えない。

 雰囲気的にも、どう思っているのかって確認しているような感じだ。
 という事は、もしかしたらこの世界ではハーフの扱いはそこまで悪くないのかもしれない。

 一部にそういう思想があって、アルさんはそれを確認したとか?
 実際、日本とか外国にも一部だけど差別はあるし。


「それにハーフだからって、相手の性格が同じとは限らないでしょう?性格の不一致で好き嫌いが別れるのであれば仕方がないと思いますが、ハーフだからという理由はちょっと意味が分かりません。はっきり言って、ハーフだとか関係なくその人の人柄で判断するべきだと私は思います」


 性格の不一致に関しては、まあ仕方がない気がする。

 私も、時間にルーズな人とか約束を守らない人とか周りの迷惑を考えない人とかは嫌いだ。
 あと、自分の考えを押し付けたり嘘を吹聴する人。

 みんながみんな、仲良しこよしなんてできるはずがない。
 もしそんなことができれば、戦争も喧嘩も虐めも世の中から消えるだろう。

 ただ、女だからとかハーフだからとか肌の色とか、本人がどうにもできないことで相手を否定することはどうかと思う。


「それでは、他種族間の結婚についてはどう思います?」
「本人たちが、納得したり愛し合っているんならいいと思いますよ。誰かを想うのは、その人たちの自由ですし。まあ、想いを相手が嫌がっているのに一方的に押し付けるのはどうかと思いますが。結婚は……まあ本当に愛し合っているのであれば自分たちでなんとかするしかないのでは?」
「周りが反対しても?」
「それについては、本人たちの気持ちだと思います。周りから反対されたからやめようか、っていうのも自由ですし。それでも結婚したい、ていうのも自由ですし。…………まあ、好きになった相手なんていませんけど」


 周りが反対した結果、別れるのも駆け落ちするのも本人たちの事。

 まあ、駆け落ちするんならその後の生活費は自分で稼ぐことになるから、そこらへんはしっかり準備してから駆け落ちしたほうがいいと思うけど。
 住居だって、さすがに野宿は無理だろうし。

 え、夢がない?

 夢とか希望とか持っても、現実は変わるわけじゃないからね。
 はっきり言って、夢とか希望とかにすがっている前に現実をどうにかすることを考えた方が時間の無駄にはならない。

 そう思って遠い目をしていると、アルさんに頭を撫でられた。



「それでも、あなたは考えはとてもいいですよ。…………ええ、本当にとてもいいです」
「そうですかね?」
「どうか、あなたはそのままでいてくださいね」
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