3 / 10
3.バグる距離感
しおりを挟む「お風呂気持ちよかったです」
「それはよかった!」
「天音?」
「な、何?」
「何故こちらを見てくれないのですか?」
「な、何故って…それは!!」
ペタペタと近付いてくる足音に比例して私の心臓が早鐘を打つ。
「天音、こっちを見てください」
「!!!」
耳元に息を吹きかけるように囁くオーくんの声は甘ったるく、またしても顔に熱が集まる。
「天音」
「わっ、わかった!!降参!見るからそれやめて!!」
私の反応が面白かったのかクスクスと笑うオーくん。
絶対下には視線を向けないでいようと、意を決して振り返れば、
「あれ?裸じゃない」
「ふふ、裸じゃなくて残念でしたか?」
「んなわけっ!!!」
お風呂に入る前とは別の、ただ軽装になったオーくんの姿がそこにはあった。
どこから用意したのか聞きたい気持ちはあったけど、それより髪の毛からポタポタと落ちる水滴の方が気になってしまった。
「魔法か妖術なのか知らないけど、服が用意できるなら髪の毛くらいしっかり乾かしなよ。ドライヤーあったでしょ?」
「ふむ、ドライヤーとは?」
そうだ、お風呂沸かせられないんだったこの人…。
「そこで座って待ってて」
「む?」
私は脱衣所からドライヤーを持ってくると、近くのコンセントに繋げてオーくんの後ろに立った。
「熱かったら言ってね」
「?」
電源を入れると温風がオーくんの髪を揺らす。少し躊躇いがちに髪の毛を触ると感嘆の声が聞こえた。
「おお…これは気持ちいいですね」
「熱くない??」
「熱くありませんよ」
傷みのない綺麗な髪に羨ましいと思いつつ、頭頂部から少し横の位置にある角に目線がいく。
(これって触って大丈夫なやつ??)
角自体はもう乾いているが、根元付近はまだ乾いておらず、どうしようか考えあぐねる。
(とりあえずあまり当たらないように…慎重に…)
つむじから前髪にかけて、それから横にゆっくりと温風を当てていく。
剥き出しではあるが、やはり人には存在しない角はあまり触らない方がいいだろうと思い慎重に乾かしていたが不意に手が当たってしまう。
「んっ…」
「ごめん、当たらないように気をつけていたんだけど」
「いえ大丈夫ですよ…むしろ…」
僅かに漏れるオーくんの吐息にどきりと心臓が跳ねる。嫌でも意識してしまう。
(意識するな私!!!!!!!相手はオーくん!私のバッグにぶら下がってた鬼のストラップ!!!)
最後の方は声が小さくて聞き取れなかったが、特に問題はないのか静かに座ってなされるがままだ。
あれをトラブルと形容するかはさておき、綺麗に乾いたオーくんの頭には天使の輪っか。
「髪の毛綺麗だよね。乾かしてる時も思ったけどサラサラだし」
「ありがとうございます。でも天音の髪の毛も綺麗ですよ」
顔をこちらに向け、私の頭を優しく撫でるオーくん。その手は縋りたくなるくらいには大きく温かった。
自分がそんな事を無意識に考えている事に恥ずかしくなり咄嗟に距離を取る。
「あっ、あのですねオーくん、実は次の問題がありまして、」
「何でしょう?」
「うちにはベッドが一つしかありません!」
「一緒に寝ればいいのでは?」
だよね、何となくそう来ると思ってました。この数時間で彼の何かを掴んできたように感じた私は深く溜息をついた。
「あのね、オーくん…」
「なんて嘘ですよ、私はソファで寝ますから」
「んん?」
「ほら、今日は疲れたでしょう?ですから早く寝ましょう」
突然聞き分けが良くなったかと思えば、私を寝室に促すオーくんに私は聞かずにはいられなかった。
「怪しい…何か企んでる?」
「いえ、何も?」
「…」
じとりと見る私の目を見て、オーくんは何故か顎に手を当て何かを考えだした。
もしかして、私の考えすぎなのかと怪しんでしまったオーくんに謝ろうとしたら彼は口元に笑みを浮かべていた。
「天音」
「ん?」
「おやすみなさい」
「??!!!!?!」
ちゅっと響くリップ音。それは唇ではなかったが限りなく唇に近いところで…
「おおおおおやすみ!!!!」
本日2度目のキスを頂いた私の心臓は爆発寸前で、ニコニコと手を振るオーくんを直視できず寝室に直行した。
(距離感おかしくないか!!?!あれが普通なの?!!?私が知らないだけ?!!!)
ベッドに潜っても暫く心臓の鼓動が落ち着くことはなく、もちろん眠ることもできなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
6
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる