魔王様は社畜Subを寵愛したい

朔灯まい

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1.目が覚めたらオークションの商品でした

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「ーーっい、ろ…」
「…」

 うるさいな。昨日も残業でろくに寝れてないんだ。少しは寝かせてくれ。

「もう一発殴られたくないなら起きろ」
「っ?!」

 はっきりと耳に響く野太い声と、突如腹に襲う鈍い痛みに脳が覚醒する。
 ぼやける視界に映る見知らぬ牛の面を被った男。
 仮装?…それに誰だ?俺はわけもわからず呆然とすることしかできない。

「行くぞ」
「?!」

 そんな俺を構うことなく、耳元でじゃらりと何か音を立てたかと思うと体がぐいっと無理やり引っ張り上げられる。
 半強引に立たされ、首元から垂れ下がる鎖が男の手元まで伸びていることに気付く。
 俺は首輪をつけられているのか…?!
 驚いている俺の事なんかどうでもいいのか、容赦なくグイグイと鎖を引っ張り、歩けと無言の圧をかけてくる。

「はっ、??」
「そんなんじゃ、貰い手なんていやしねぇな」
「貰い…手?」

 掠れてはいたがこの静寂。俺の声は聞こえているだろうに、返事はせずスタスタと歩き出す男。
 もちろん、鎖は持ったままなのでそれに引っ張られる形で俺もついて行くしかなかった。
 ご丁寧に腕もしっかりと手錠で拘束されており、理解できない現状も相まって抵抗する気すらおきない。
 おまけに起きた時から頭も痛いし、先程恐らく蹴られたであろう腹の痛みもあって、気分は最悪だった。
 どこに連れて行かれているのかも分からず、何とか転ばないように歩いていると、どこからか声が聞こえてくる。

「ーィリ…クシ…!!」
「お、始まったな」

 声の方に進んでいるのか、どんどん声は大きくなっていく。

「さあ、ガラフィリアでも珍しいピクシー!!1000万からスタートします!」
「1100!」
「1500!!!」
「…2000!」

 …俺自身にその経験はないが、聞こえてくる内容がオークションだと言うことは理解できる。
 が、何を競り合っている?

「…ピクシー?」

 聞き慣れない単語に思わず足が止まった。
 ピクシー、それから、何て言った?ガラフィリア?俺が知らないだけの単語か?
 考えるだけで頭が痛くなってくる。

「おい、止まるな」
「うっ」

 首輪を引っ張られ、また歩き出す。
 痛む頭で必死に考える。
 そもそも、一体此処はどこだ?俺は仕事を終えて、帰宅していたはず。
 終電に間に合わず徒歩で歩いて帰っていて…それから…、それから…?
 思い出そうとして、思い出せない事に気付くと同時に、腹に鈍い痛みが走る。

「いっ、!?」
「…ったく、いい加減にしろよ、おい」

 低く重たい声と、眉間に皺を寄せてギロリと睨みつける瞳に背筋が凍る。
 殴られたせいもあってか、体から力が抜けて立っていられずその場に座り込んでしまう。
 そんな俺の様子に、一瞬ぽかんとした表情をした男だったが、徐々に口角が上がっていく。

「グレアが効いた…?……お前、Subか!!!」
「…?」
「こりゃいい!!思わぬ収穫だ」
「…さ、ぶ?」

 俺を見下ろす男は満面の笑みを浮かべていて、その笑いにすら恐怖を感じてバクバクと心臓が激しく脈打つ。

「ちょっとは値が付きそうだな!」

 男の口ぶりで、考えないようにしていた答えにいやでも辿り着く。
 ここは人身売買会場で、俺は今から売られる。
 ろくでもない状況は間違いないはず、今すぐ逃げ出さないと…。
 そうわかっているはずなのに男への恐怖からか体の力は抜けて行くばかりで、指先一つまともに動かせない。
 このまま死ぬんじゃないか、そう思うくらい気分は最悪で、意識を保つ方が難しかった。
 目が覚めたら知らない場所で、突然の暴力。よく分からない言葉を投げつけられ、挙げ句の果てに今から俺は売られてしまう。
 間宮蒼介25歳。今まで生きてきた人生の中で、最悪の出来事なのは間違いない。
 暗転する視界の中で願う、夢であってほしい。


 そんな俺の想いは、次に目を覚ました時に粉々に打ち砕かれる。


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