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13話
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マリー様のお屋敷に着くと、私とリュカ様はその門を叩きました。
中から出てきた使用人の方に通して頂き、客間の一つへと案内されました。ここで、マルタン伯爵とマリー様が来るのを待つようにとの事です。
ほどなくして、お2人は我々のいる部屋へとやってきました。
マリー様は、大袈裟なほど大きいガーゼを両頬に張り付けていました。
マルタン伯爵といえば、普段とお変わりなく全身に宝石や貴金属といった装飾品をじゃらじゃらと身に纏っています。私に対して、ゴミを見るかの様に一瞥すると、直ぐにリュカ様の方へと視線を向けました。
「これはこれは、リュカ様。当主のマルタンで御座います。以後お見知りおきを」
深々と頭を下げた伯爵の表情は、厭らしい笑みを浮かべています。何か企んでいるのかしら。
「本日は、急な訪問となり失礼致しました。早速では御座いますが、こういったことは早めに行ったほうが宜しいかと思いまして」
そう言うとリュカ様は、お2人に目を配らせ頭を下げました。私もそれに続き深く頭を下げます。
「この度は、大変申し訳ございませんでした。どうかお許し頂きたく存じます。勿論、マリー様の治療に掛かった代金などは我々がお支払いさせて頂きます。他にも何か御座いましたらどうぞお申し付けください」
「どうぞ、お顔をお上げください」
マルタン伯爵のその声を聞いて、私たちは頭を上げます。その表情からは怒りの感情などは感じ取ることが出来す、寧ろ嬉々としたものにすら見えました。
「いやはや、リュカ様に謝罪をして頂くような事では御座いませんよ。どうせ、そこにいる馬鹿な小娘が先走ったのでしょう」
うんうん、と何かを納得したかのように伯爵は頷いています。そして、言葉を続けました。
「とはいえ、とはいえですよ。ご覧ください。娘のこの痛ましい姿を」
大袈裟に悲壮な表情を浮かべながら、マリー様の頬を優しく撫でる伯爵。
リュカ様は、何かの感情を抑え込むかの様に、ぐっと拳を握り締めたまま無言です。
「マリー様。お怪我の具合は如何でしょうか?」
私の発したその言葉に反応して、マリー様はクワっと目を見開くと勢いそのままに私を睨みつけました。
「見れば分かるでしょう!?本当にどうしようもない愚図ね!」
「あら、それは失礼しました。それだけ大きな声を出せるのでしたら、何も問題はないようですね。安心しました」
ええ。明確に敵意を剥き出しにしましたよ。
「ゴミの分際で、随分とまあ生意気な口を利くようになったな。父親からの罰が堪えていないようだ。改めて、もっときついのを下すように言っておこう」
伯爵は私に対して、ニヤニヤと言いました。
ああ、そうでしたわね。ご説明するのを忘れていました。
「父親?ああ、アントニー子爵の事ですか。それでしたら無駄骨ですよ。私はもう、あの家を捨てた身ですから。従って、貴方達に仕える身でも無いのです」
伯爵とマリー様は、それぞれが驚いたという表情で私を見ています。
話が進まないと思ったからでしょう。リュカ様が促すように言葉を投げかけました。
「…話を戻しましょうか。それで、我々の謝罪を受け入れて下さりますか?」
その言葉で、我に返ったかの様に伯爵は、再び笑みを浮かべるのでした。
「リュカ様。治療費のお申し出、有難く受け取らせて頂きます。しかしですよ、年頃の娘の顔に傷を付けたのです。他にも責任の取り方があるのではないでしょうか?」
目を細め、伯爵に視線を送るリュカ様。
「責任の取り方ですか?失礼、どうにも思いつかないので、教えて頂いても宜しいでしょうか?」
満面の笑みを浮かべたマルタン伯爵は、高らかに言うのでした。
「そんなものは決まっています。我が娘、マリーと結婚するという事ですよ」
中から出てきた使用人の方に通して頂き、客間の一つへと案内されました。ここで、マルタン伯爵とマリー様が来るのを待つようにとの事です。
ほどなくして、お2人は我々のいる部屋へとやってきました。
マリー様は、大袈裟なほど大きいガーゼを両頬に張り付けていました。
マルタン伯爵といえば、普段とお変わりなく全身に宝石や貴金属といった装飾品をじゃらじゃらと身に纏っています。私に対して、ゴミを見るかの様に一瞥すると、直ぐにリュカ様の方へと視線を向けました。
「これはこれは、リュカ様。当主のマルタンで御座います。以後お見知りおきを」
深々と頭を下げた伯爵の表情は、厭らしい笑みを浮かべています。何か企んでいるのかしら。
「本日は、急な訪問となり失礼致しました。早速では御座いますが、こういったことは早めに行ったほうが宜しいかと思いまして」
そう言うとリュカ様は、お2人に目を配らせ頭を下げました。私もそれに続き深く頭を下げます。
「この度は、大変申し訳ございませんでした。どうかお許し頂きたく存じます。勿論、マリー様の治療に掛かった代金などは我々がお支払いさせて頂きます。他にも何か御座いましたらどうぞお申し付けください」
「どうぞ、お顔をお上げください」
マルタン伯爵のその声を聞いて、私たちは頭を上げます。その表情からは怒りの感情などは感じ取ることが出来す、寧ろ嬉々としたものにすら見えました。
「いやはや、リュカ様に謝罪をして頂くような事では御座いませんよ。どうせ、そこにいる馬鹿な小娘が先走ったのでしょう」
うんうん、と何かを納得したかのように伯爵は頷いています。そして、言葉を続けました。
「とはいえ、とはいえですよ。ご覧ください。娘のこの痛ましい姿を」
大袈裟に悲壮な表情を浮かべながら、マリー様の頬を優しく撫でる伯爵。
リュカ様は、何かの感情を抑え込むかの様に、ぐっと拳を握り締めたまま無言です。
「マリー様。お怪我の具合は如何でしょうか?」
私の発したその言葉に反応して、マリー様はクワっと目を見開くと勢いそのままに私を睨みつけました。
「見れば分かるでしょう!?本当にどうしようもない愚図ね!」
「あら、それは失礼しました。それだけ大きな声を出せるのでしたら、何も問題はないようですね。安心しました」
ええ。明確に敵意を剥き出しにしましたよ。
「ゴミの分際で、随分とまあ生意気な口を利くようになったな。父親からの罰が堪えていないようだ。改めて、もっときついのを下すように言っておこう」
伯爵は私に対して、ニヤニヤと言いました。
ああ、そうでしたわね。ご説明するのを忘れていました。
「父親?ああ、アントニー子爵の事ですか。それでしたら無駄骨ですよ。私はもう、あの家を捨てた身ですから。従って、貴方達に仕える身でも無いのです」
伯爵とマリー様は、それぞれが驚いたという表情で私を見ています。
話が進まないと思ったからでしょう。リュカ様が促すように言葉を投げかけました。
「…話を戻しましょうか。それで、我々の謝罪を受け入れて下さりますか?」
その言葉で、我に返ったかの様に伯爵は、再び笑みを浮かべるのでした。
「リュカ様。治療費のお申し出、有難く受け取らせて頂きます。しかしですよ、年頃の娘の顔に傷を付けたのです。他にも責任の取り方があるのではないでしょうか?」
目を細め、伯爵に視線を送るリュカ様。
「責任の取り方ですか?失礼、どうにも思いつかないので、教えて頂いても宜しいでしょうか?」
満面の笑みを浮かべたマルタン伯爵は、高らかに言うのでした。
「そんなものは決まっています。我が娘、マリーと結婚するという事ですよ」
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