追放しなくて結構ですよ。自ら出ていきますので。

華原 ヒカル

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14話

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ああ、そう来ましたか。全く予想していなかった、というわけではありません。しかし、まさかだろうと、我々も話し合いで時間を割かなかった類の切り返しでした。さて、どうしましょうか。

リュカ様に対して、伯爵は言葉を続けました。
「如何ですかな、リュカ様?貴族として、何より紳士としてこれ以上ないくらいの責任の取り方かと思いますが」

笑顔を浮かべつつも、リュカ様の声のトーンが一つ低いそれに変わりました

「成程。私とマリー様が結婚ですか。ところでマリー様。私は貴女を叩いたわけですが、そのような男と一緒になることをお望みですか?」
「ええ。今思えば、あれは私の事を想っての事だったと得心しております。それに、リュカ様は大変お美しいお顔立ちをされていますし。私達とてもお似合いだと思いますの」

何かを考えこむかのように、リュカ様は、片手でご自身の顎を撫でます。
「ふむ。確かに、貴女はとてもお綺麗ですしね。それに責任の取り方という意味合いでは、これ以上はないでしょう」

「それでは!」
パアっとした表情を浮かべるマリー様。
マルタン伯爵もまた、してやった、という表情を浮かべています。


「しかし、性根の腐った阿呆と一生を添い遂げるのは、ごめんです」

一瞬、リュカ様が何を言っているのか理解できないという表情をされましたが、みるみるうちにマルタン伯爵とマリー様のお顔は、怒りで紅潮していきました。

「おい!侯爵家の子息だからといって、何だその言い草は!調子に乗るなよ!」
「その侯爵家に向かって。次期当主の私に向かい、今何か言いましたか?」
たじろぐ伯爵。リュカ様は静かにですが、確実に怒気を孕んだ声を投げつけました。

「では教えて頂けますか?貴方達とゴーティエ家が、家族ぐるみのお付き合いをさせて頂き、どのようなメリットが我々にあるのでしょう?」
リュカ様は、表情こそ笑顔のままですが、その目は非常につまらないものを見るかの様です。

「そ、それは。マリーの様な美しい妻がいれば、それだけで社交界の場でも一目置かれることになる」
「それだけですか?見た目だけで女性を選ぶのならば、私は彼女よりも美しい女性を何人も知っています。私が求める女性というのは、お互いが切磋琢磨して高め合えるような存在です。彼女にそれが出来ると?」
苦虫を噛み潰したような表情をされる伯爵。あら、ご自分の娘の馬鹿さ加減は存じ上げていたのですか。

「もしも本気で私と婚姻関係を結びたいというのならば、それに見合う成果を提示して頂けますか。そうですね。分かりやすく例えるならば、こちらに居るクロエ嬢の様に、私に商いで勝ってみてください。そうなれば、私はマリー嬢を意識せざるをえない」
此処に来てリュカ様の声色は、その怒りを隠そうともしません。

「それと、宜しければそのガーゼを取って、お怪我の状態を見せて頂けませんか?私が結婚して責任を取らなければならない傷が、どれ程のものなのか確認させて下さい」

マリー様を睨みつけるリュカ様。
「い、いえ、そんな。殿方に、こんな顔をお見せするのは恥ずかしいですから」
マリー様は動揺しているようでした。

「構いませんよ」
そう言って、リュカ様はマリー様に近づきました。そして、彼女の頬を覆うガーゼに手を触れると、一気にそれを剥がすのでした。
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