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16話
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「マルタン伯爵。私から貴方に伝えるべきことがあります」
冷静さを取り戻したリュカ様は、静かに語りだしました。
「まず、手を上げたことについては先ほどの通り謝罪致します。ですが、あの様な状況を作り出した原因は、マリー嬢にあるというのが、父を含めてあの場にいた貴族たちの見解です。父に関してのみ言うのならば、マリー嬢に対して取り立て責任は求めないとの判断です。ですから、謝罪にはお越しにならずとも結構です」
その言葉を聞いて、伯爵とマリー様は、少々安堵の表情を浮かべました。
「ああ、勘違いしない方が宜しいかと。父は謝罪を受けるための時間を割くのが煩わしい、と思っているだけの様ですから。それと、あの場に居た人々の間でマリー嬢の評判は限りなく最悪なものとなりました。近いうちに、その評判は貴族内で広まっていくことでしょう。友好的な関係を今後築けると思わない事ですね。嘘だと思うのならば、今後開催される社交界ないし、催しに参加表明をされるといい。一体どれほどの方から受け入れて貰えるでしょうか」
リュカ様の言葉を聞いて、マリー様は酷く青ざめたお顔をされました。ようやく、自らが起こした行動がどのような結果を、招いたのかを理解できたようですね。
「それと父からの言伝があります。貴方の領土における最高額納税者でもある、ニコラ氏移住の件ですが、我々は正式に受け入れる事としました」
「馬鹿な!そんな事があるわけない」
先ほどまで、小さくなって震えていた伯爵でしたが、この発言で息を吹き返したように大きな声を上げました。
「あり得ない、と考えている方が私には不思議でなりませんね。再三、ニコラ氏は貴方にご相談をしていましたよね。その声を聴かずに、ふんぞり返っていたのです。当然の結果だと思いますが」
わなわなと震える伯爵ですが、突然、妙案を思いついたかの様な表情を浮かべました。
「言っておくが、ニコラが消えたところであの領地は俺のものだ!代わりの人間を探せばいいだけ。そうすれば全て元通りになる!」
その言葉を受けたリュカ様と私は、思わず冷笑を浮かべました。
「成程。それは素晴らしい案ですね」
私がそう言うと、伯爵はニヤリと笑いました。
「そんな人材がいれば、ですが」
「…何だと?」
私は大きくため息を吐きます。
「ですから、あれほど広大な土地を管理、運用できるほどの凄腕の方が、見つかればいいですねという事です。貴方は、ニコラ様の事を侮りすぎです。私も様々な農地を見て回ってきましたが、あんな事が出来る方はそうはいませんよ。あれほどの力量を持つ方が、今まで貴方の下で働いてきた事自体が奇跡だと認識すべきですね」
「黙れ!出まかせを言うなよ。小娘が!」
「それでは黙ることにします。貴方の様な人間は、ご自分で体験される方が骨身に染みるでしょうしね」
そうして私は、リュカ様へとバトンをタッチします。
「伯爵。仮に、ニコラ氏の代わりの方が見つかったところで、新たな販売先を確保するのは、さぞ大変でしょうが頑張ってください」
「そ、それはどういう意味だ!?」
此処に来て、最も優雅な笑みを浮かべるリュカ様。
「此度の騒動の責任を取るために、私とクロエさんは父に処分を言い渡されました。それは、ニコラ氏が我が領土内でも円滑に事業を進められるようにサポートを行うというものです。ニコラ氏が今まで販売してきた先々に対して、我々から購入して貰えるように打診致します。時間が掛かっても、その殆どを切り替えてみせますよ」
「そ、そんなことできるわけ…」
「出来ますよ。我々ならね」
決して強い口調で言ったわけでは無いですが、リュカ様の自信溢れる言葉に対して伯爵は何も言えないようでした。
「それと、これが一番大事な事ですので覚えておいて下さい」
リュカ様は穏やかな笑みから一変して、鋭い眼差しで射貫くように伯爵を見据えました。
「クロエさんにしてきた事は、必ず償わせる。どれだけ時間が掛かっても相応の報いを与える。絶対にだ!」
お気持ちは嬉しいのですが、また拳を振り上げたりしないだろうかと、私は少しだけ不安になりました。
「勿論、法律に則ってですよ。だから、そんな不安そうな顔はしないで下さい」
私に目をやり、リュカ様は申し訳なさそうに笑いました
「さてと、伝える事は伝えましたので、これで失礼致します。行きましょうか、クロエさん」
そうして我々は、顔面蒼白といった2人に背を向けて部屋を後にしました。現在あのお2人には、どのような未来が見えているのでしょうか。非常に興味深いですね。
「予定とは少し変わりましたが、あんな感じでどうでしたか?」
お屋敷の門を出たところで、リュカ様がそのようなことを仰いました。
「ええ。あの人たちの、情けない表情が見れただけでも十分過ぎる収穫です」
「それは良かった。まあ、彼らが今後、どのように動くのか見物ですね。じっくり観察させて貰うとしましょう」
少々悪い顔をするリュカ様を見て、私はクスリと笑いました。
馬車の方を見ると、ナタリーが窓から不安そうな顔を覗かせていました。その不安を取り除くかのように、私は満面の笑みで手を振ります。
「あーすっきりした!」
突然聞こえたその声に驚いて、私はリュカ様を見ました。
「結構いいですね、これ」
彼は悪戯っぽく笑われていました。全くこの方は。
思わず感情が込み上げて、私は声をあげて笑いました。
この瞬間、多くのしがらみから解放されたという、そんな実感が湧いたのです。
これから忙しくなりますね。色々と苦労もするのでしょう。
でも、そんな日々が今は待ち遠しくて仕方ありません。
冷静さを取り戻したリュカ様は、静かに語りだしました。
「まず、手を上げたことについては先ほどの通り謝罪致します。ですが、あの様な状況を作り出した原因は、マリー嬢にあるというのが、父を含めてあの場にいた貴族たちの見解です。父に関してのみ言うのならば、マリー嬢に対して取り立て責任は求めないとの判断です。ですから、謝罪にはお越しにならずとも結構です」
その言葉を聞いて、伯爵とマリー様は、少々安堵の表情を浮かべました。
「ああ、勘違いしない方が宜しいかと。父は謝罪を受けるための時間を割くのが煩わしい、と思っているだけの様ですから。それと、あの場に居た人々の間でマリー嬢の評判は限りなく最悪なものとなりました。近いうちに、その評判は貴族内で広まっていくことでしょう。友好的な関係を今後築けると思わない事ですね。嘘だと思うのならば、今後開催される社交界ないし、催しに参加表明をされるといい。一体どれほどの方から受け入れて貰えるでしょうか」
リュカ様の言葉を聞いて、マリー様は酷く青ざめたお顔をされました。ようやく、自らが起こした行動がどのような結果を、招いたのかを理解できたようですね。
「それと父からの言伝があります。貴方の領土における最高額納税者でもある、ニコラ氏移住の件ですが、我々は正式に受け入れる事としました」
「馬鹿な!そんな事があるわけない」
先ほどまで、小さくなって震えていた伯爵でしたが、この発言で息を吹き返したように大きな声を上げました。
「あり得ない、と考えている方が私には不思議でなりませんね。再三、ニコラ氏は貴方にご相談をしていましたよね。その声を聴かずに、ふんぞり返っていたのです。当然の結果だと思いますが」
わなわなと震える伯爵ですが、突然、妙案を思いついたかの様な表情を浮かべました。
「言っておくが、ニコラが消えたところであの領地は俺のものだ!代わりの人間を探せばいいだけ。そうすれば全て元通りになる!」
その言葉を受けたリュカ様と私は、思わず冷笑を浮かべました。
「成程。それは素晴らしい案ですね」
私がそう言うと、伯爵はニヤリと笑いました。
「そんな人材がいれば、ですが」
「…何だと?」
私は大きくため息を吐きます。
「ですから、あれほど広大な土地を管理、運用できるほどの凄腕の方が、見つかればいいですねという事です。貴方は、ニコラ様の事を侮りすぎです。私も様々な農地を見て回ってきましたが、あんな事が出来る方はそうはいませんよ。あれほどの力量を持つ方が、今まで貴方の下で働いてきた事自体が奇跡だと認識すべきですね」
「黙れ!出まかせを言うなよ。小娘が!」
「それでは黙ることにします。貴方の様な人間は、ご自分で体験される方が骨身に染みるでしょうしね」
そうして私は、リュカ様へとバトンをタッチします。
「伯爵。仮に、ニコラ氏の代わりの方が見つかったところで、新たな販売先を確保するのは、さぞ大変でしょうが頑張ってください」
「そ、それはどういう意味だ!?」
此処に来て、最も優雅な笑みを浮かべるリュカ様。
「此度の騒動の責任を取るために、私とクロエさんは父に処分を言い渡されました。それは、ニコラ氏が我が領土内でも円滑に事業を進められるようにサポートを行うというものです。ニコラ氏が今まで販売してきた先々に対して、我々から購入して貰えるように打診致します。時間が掛かっても、その殆どを切り替えてみせますよ」
「そ、そんなことできるわけ…」
「出来ますよ。我々ならね」
決して強い口調で言ったわけでは無いですが、リュカ様の自信溢れる言葉に対して伯爵は何も言えないようでした。
「それと、これが一番大事な事ですので覚えておいて下さい」
リュカ様は穏やかな笑みから一変して、鋭い眼差しで射貫くように伯爵を見据えました。
「クロエさんにしてきた事は、必ず償わせる。どれだけ時間が掛かっても相応の報いを与える。絶対にだ!」
お気持ちは嬉しいのですが、また拳を振り上げたりしないだろうかと、私は少しだけ不安になりました。
「勿論、法律に則ってですよ。だから、そんな不安そうな顔はしないで下さい」
私に目をやり、リュカ様は申し訳なさそうに笑いました
「さてと、伝える事は伝えましたので、これで失礼致します。行きましょうか、クロエさん」
そうして我々は、顔面蒼白といった2人に背を向けて部屋を後にしました。現在あのお2人には、どのような未来が見えているのでしょうか。非常に興味深いですね。
「予定とは少し変わりましたが、あんな感じでどうでしたか?」
お屋敷の門を出たところで、リュカ様がそのようなことを仰いました。
「ええ。あの人たちの、情けない表情が見れただけでも十分過ぎる収穫です」
「それは良かった。まあ、彼らが今後、どのように動くのか見物ですね。じっくり観察させて貰うとしましょう」
少々悪い顔をするリュカ様を見て、私はクスリと笑いました。
馬車の方を見ると、ナタリーが窓から不安そうな顔を覗かせていました。その不安を取り除くかのように、私は満面の笑みで手を振ります。
「あーすっきりした!」
突然聞こえたその声に驚いて、私はリュカ様を見ました。
「結構いいですね、これ」
彼は悪戯っぽく笑われていました。全くこの方は。
思わず感情が込み上げて、私は声をあげて笑いました。
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でも、そんな日々が今は待ち遠しくて仕方ありません。
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