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事故物件2

来てくれたのか?

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 コツン! コツン! コツン! 

 なんだ?

 結界がパリーン! と音を立てて割れた直後に、周囲から乾いた音が響いたけど……

 スマホのライトを床に向けると、小さな黒い球がいくつも転がっているが、これって!

「魔入さん。腕輪ブレスレットは?」
「え? ああ! お守りが無くなっている」

 どうやら、結界が破れると同時に、その源である腕輪ブレスレットの紐も切れてパワーストーンの球が飛び散ったようだ。

「きゃあ! 拾って! 拾って! ディレクターに怒られちゃう!」
「それどころじゃないでしょ! だから逃げようって言ったのに! 魔入さんは、本当に考え無しなんだから!」
「今はそんな事を言っている場合じゃないでしょ!」
「今言わないでいつ言う……うわ!」

 しまった! 蔦が襲って来ていたんだ!

「うふふふ。やっと出てきたわね。可愛い坊や」
「ひいい!」

 逃げる間もなく、蔦は僕の胴体に絡みつく。

「放せ!」

 蔦を掴んで引きはがそうとするも、今度は左右の腕に蔦が絡みついてくる。

「ああ!」

 左右の足に絡みつかれ、そのまま僕は空中に持ち上げられた。

「うふふ。捕まえたわよ。坊や」

 だめだ! 身動き取れない。

「魔入さん! 助けて!」

 て、思わず言っちゃったけど、あの人が助けになるわけないし……

 案の定、床に散らばったパワーストーンの球を拾うのに忙しくてそれどころじゃないらしい。

 その魔入さんの身体に蔦が絡みつく。

「ちょっ……ちょっと悪霊さん。私、同性には興味ないのですけど……」
「心配ないわ。私にもない。だから、ここから出て行きなさい」
「あーれー!」

 そのまま魔入さんは、玄関から外へ放り出された。

 怪我してなきゃいいけど……

 なんて人の心配している場合じゃないよ!

 蔦がどんどん絡みついてくるし、服の中まで入ってきて気持ち悪い。

 視界もほとんど蔦に遮られてしまった。

 その蔦をかき分け、長い黒髪で顔を覆い隠し、白いワンピースを纏った女が姿を現す。

 悪霊の本体? 

「うふふ。可愛い坊や」

 やだ! 怖い! 来るな!

 蔦に絡まれて身動きの取れない僕の方へ、女は足も動かさないでスーっと寄ってくる。

 長い髪の間から、青白い腕が出てきた。

 何をする気?

 青白い掌が僕の頬に触れた。

 ゾワ! 冷たい!

 氷の様に冷たい掌が、僕の頬から首筋をなで回した。

 あれ? なんか手足から力が抜けていく。

「うふふふ。美味しい」

 こいつ……僕の精気を吸っているんだ!

「うふふ」

 女は髪をかき分け、土気色の肌をした顔を露わにした。

 女が今から何をする気か分からないけど、ろくな事でないのは確か。

 逃げないと……でもどうやって?   

「臨・兵・闘・者・皆・陳・烈・在・前」

 この声は、樒の九字切!

 来てくれたのか。
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