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第4章 見えない心③
しおりを挟む由希子は結局プロジェクトの打ち合わせが長引き、3時間の残業となった。
「あぁ…今日はあまりもので食事作らなくちゃ。」
そう思いながら由希子は帰路に着いた。
『ごめん。今から家に帰るね。』
だけどなかなかLINEは既読にはならない。不思議に思いつつ結局家に着いた21時となっていた。
「ただいまー」
家に帰ると、孝之はスマホで通話しているようだった。
由希子を認めると目で「お帰り」という視線を投げかけてベランダに行ってしまった。
会社の人だろうか?こんな時間に通話は珍しい。
食事の準備をしながら孝之の通話が終わるのを待っていると、孝之は慌てたように玄関に向かっていった。
「孝之、どこいくの?」
「ちょっと…仕事がトラブってて。ちょっと行ってくる」
「この時間から、この格好で?」
「…。」
視線を逸らす孝之を見て、女の勘が働く。自分でも嫌になるくらいだ。
「あの人のところ?」
ショックを受けつつも冷静を装って俯く。無言なのは肯定なのだろう。
「どうして?どうしてあの女性のことばかり構うの?仕事なのは知っているよ。でもこの時間に呼び出すってどういうこと?そんなに急な仕事なの?」
妻である自分とはまともに話すこともなく、しばらく2人で出かけることもない。
そしてキスさえもしばらくしていないのだ。
不安になるなという方がおかしいのではないか。
もしくはもうお互いいなくてもいいような夫婦になってしまったのだろうか。
「ごめん…私、醜いこと言った。仕事、行っていいよ。」
自分で自分が嫌になる。こんな我儘で自分勝手な女もいないだろう。
セックスレスだから愛されてないと思って、一人で焦って、一人で傷ついて、一人で泣いて。
馬鹿みたいだ。自分が滑稽で笑えてくる。
上手く笑えているか、平静な顔ができているか。不安はあったが顔を上げて精一杯の笑顔を取り繕った。
「食事、作っておくから。遅くなるようだったら、連絡頂戴ね」
自分では完璧な笑顔だった。でも由希子の顔を見て、孝之は驚いた表情を浮かべた。
そして、由希子の方に一歩踏み出して、孝之は由希子を抱きしめた。
「…行かない。そんな顔のお前、置いてける訳ないだろ?」
暖かくてそっと目を閉じて貴之の鼓動を感じる。
「ごめんな。不安にさせてる、よな。」
ぽんぽんと由希子の背中を叩く貴之の手は優しかった。
「確かに尾崎…あぁ、この間の後輩社員だけど…初めての営業でナーバスになってて。何とかしてあげたいと思ってる。俺の案件を引き継ぐからな。でも、由希子にそんな顔をさせてまで仕事に行こうとは思わない」
そっと孝之の唇が由希子の額に触れる。そしてゆっくりとその口が重なりあった。
あぁ…例え何があっても乗り越えられるような気がして、由希子はその目を閉じ、孝之の唇を確かめた。
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