上 下
16 / 29

第6章 秘密①

しおりを挟む
土曜日の朝、由希子はいつものように朝食を作っていると、孝之がのっそりと起きてきた。

「今日は仕事か?」
「うん。せっかくの休みなのにごめんね」
「いや…。それより体大丈夫か?」

由希子の健康を心配してくれる孝之の気遣いに、由希子は少し心が温かくなった。

「大丈夫だよ。それに明日は休みが取れそうなの。プロジェクトもその課題がクリアできたら順調に進めるし。もうちょっとの辛抱かな」
「分かった。明日休めるなら、少し出かけるか?」

久しぶりに夫婦で過ごす時間がとれることに、由希子は心躍らせた。嬉しくてついつい頬をゆるんでしまう。

「顔緩みすぎだ」
「だって…嬉しいから」

孝之の大きな手がくしゃくしゃと由希子の頭をなでる。少し幸せな気分で由希子は休日出勤に臨むのだった。





システム部担当以外に出勤していないと思っていたが、オフィスに入ると人がいた。

「あれ??南くん?」
「あぁ…由希子。どうしたんだい?」
「それはこっちのセリフだよ。休日出勤?」
「うん。研究データがそろったからその分析に。」
「そうなんだ、研究熱心だね。」

由希子が南の席に行って他愛無い会話をする。その時、南が由希子の顔をじっと見つめた。

「どうしたの?」
「なにかいいことあった?」
「え?…どうして?」

突然の指摘に由希子はうろたえた。なぜ南はそんなことを言うのだろうか?
すると南は微笑んで答えた。

「だって…顔が緩んでいるから。久しぶりにそんな表情みたなって思って。」

南の指摘に思わず赤くなる。

「そんなに顔に出てる?」
「うん。最近は仕事で少し疲れているようだったし、何か眉間にしわを寄せて難しい顔をしたり。あとちょっと落ち込んでいたり」

そういえば孝之がバーで後輩とキスしているところを目撃したとき、南が慰めてくれていたことを思い出す。

「この間は変なところ見せてごめん。実は明日久しぶりにデートなの」
「デート?旦那さんと?良かったね」

その“良かったね”は、旦那と仲直りできたことなのか、それともデートできることなのか。それとも両方なのかはわかないが、南が安堵したような表情をしていた。
その時、由希子のLINEにメッセージが入る。

『ごめん。今日はちょっと出かけてくる』
『仕事?』
『同僚と3人で飲んでくる。仕事頑張れよ』
『了解』

手早くLINEを返信する。

「旦那さんから?」
「うん。私も仕事頑張んなきゃ」
「そうだね。明日は出勤しないように。でも無理しないように」
「ありがとう!じゃあ、私仕事に戻るね」
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

婚約者の義妹に結婚を大反対されています

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:49,424pt お気に入り:4,903

どうやら、我慢する必要はなかったみたいです。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:96,547pt お気に入り:3,588

【R-18】愛妻家の上司にキスしてみたら釣れてしまった件について

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:81

あなたの愛なんて信じない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:103,377pt お気に入り:3,285

処理中です...