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第8章 罠①

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今から1週間ほど前。由希子の住む家の近所のアパートに引っ越し業者が来ていた。大きな荷物はほとんどなく、その量からして1人暮らしの者だろう。特に目立ったことはなかったが、なんとなくそれを見ながら由希子はスーパーに向かおうとした。
その時だった、引っ越しの依頼人の顔をちらりと見て由希子は絶句した。
それは…尾崎だったからだ。バーでちらりと見ただけだったが、由希子は確信した。でもなぜこんなところに引っ越してきたのだろうか。この地域はそこそこ値の張る住宅地で、家賃もそれなりに高い。そして現在の会社からは少し離れているどころか、かなり不便な地域である。
本当は孝之の仕事を考えれば他の好条件の場所はあったのだが、由希子との通勤時間を考慮してここに住んだのだ。
それなのに、わざわざここに引っ越してきたことに、由希子の胸はざわついた。その視線を受けるように尾崎が振り返る。わずかに会釈をされたように感じた。その時由希子は自分が立ち止まって尾崎を見ていたことに気づく。

(偶然?…偶然だよね)

由希子は自分に言い聞かせるようにその場を後にしてスーパーに向かった。
それから一週間が過ぎていた。尾崎のことを孝之にそれとなく聞くと、引っ越してきたことは知っているようだったが、あまり興味もない様子でそれ以上は聞けなかった。いや、孝之はその話は避けているようだった。
由希子は孝之を信じるつもりで孝之の後ろ姿を見つめた。

(本当に…信じていいんだよね)

だが、うつむく由希子の様子を見て席を立つと、由希子をそっと抱きしめた。

「引っ越してきたことは知っていた。でも、もう関わらないよ。だから、安心してほしい。」
「うん」

そのままキスするほどの位置まで顔が近づく。由希子はそれを期待して、そっと目を閉じようとした瞬間、孝之は距離をいた。
キスもしてもらえなかったこともショックだった。そのまま孝之は風呂に入ってしまい、それまでの優しい雰囲気も消えてしまった。
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