三首の和歌

斐川 帙

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八、太宰府天満宮

(四)

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 しばらく、二人は言葉を交わす事もなく、二日市駅に着くまで向かいの車窓の風景を眺めるのみだった。二日市駅に着くと、二人は降りて、太宰府線のホームに移動し、列車が来るのを待った。列車はすぐに来た。高校生の集団、十人ばかりと一緒に列車に乗り込んだ。観光客とおぼしき中年女性のグループも後から乗り込んできた。彼女たちは、九州の人間らしく、方言でおしゃべりをしていた。宮本には福岡や佐賀や熊本などの方言の違いはわからなかったから、ただ、九州の方言だろうということしかわからなかったが、周囲がそういう言葉で会話しているのを聞くと、風景が東京郊外と余り変わりがないのに、自分が福岡にいるのだということが肌で実感できるのだった。
 太宰府駅を出ると、すぐに天満宮の参道につきあたった。雪がうっすらと積もった参道の左右には土産物屋が建ち並び、太宰府名物の梅が枝餅を焼く香ばしいにおいが漂っていた。照代は、そのうちの一軒で焼き上がったばかりの梅が枝餅の箱詰めを購入しバッグに入れた。そして、参道をまっすぐに進むと、左に折れて鳥居をくぐり、心字池に懸かる太鼓橋を渡って本殿に向かった。雪は小降りになっていた。
 楼門をくぐると、回廊でぐるりと囲まれた境内に入った。正面に拝殿、その左右に梅が立ち、向かって右側の梅の木は飛び梅と呼ばれていた。祭神である道真公を慕って京から飛んできたという伝説の梅である。
 二人はまっすぐに本殿に向かい参拝を済ますと、おみくじを買った。ふたりとも小吉であった。宮本は、小吉の微妙な意味合いに、よろこんでいいのかがっかりするべきなのか戸惑っていたが、照代の方は、おみくじの紙を用意してある場所に結びつけながら、歌を呟いていた。
 「海ならず ただよふ水の 底までも 清き心は 月ぞ照らさむ」
 「どういう意味?」
 「そうね、心をまっすぐに保てば、いずれ報われるときが来る、ってところかしら。」
 「誰の歌?」
 「この神社の御祭神。」
 「だれだったっけ?」
 「菅原道真よ。」呆れた顔をして照代は言った。
 「ああ、そうか。」
 宮本は、札所の方を見ていた。お守りを買っておくか迷っていた。
 「そういえば、こういう歌もあったわね。
 流れゆく われは水屑みづくとなりはてぬ 君しがらみと なりてとどめよ
 今度、私がいなくなるときは、留めてくれるかしら?」
 驚いて宮本は照代の方を振り返った。思考を照代の言葉の意味するところに持って行くのに手間取って、その言わんとする事を把握できないでいた。その姿が、照代には返答に困って考え込んているように見えた。照代は、寂しそうに笑った。
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