卯の花の門に

まーくん

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 幅約五十メートルの歩道から庭に入る。
 遙か彼方に彼の家が見えた。
 クロ一人のために用意された家だ。

 彼が徒歩であることを感知した自宅の環境維持システム、通称ソラリスは、この十五分あまりで家の中の準備を終わらせていた。
 人間が快適に過ごせるように室温からなにからなにまでである。
 女を連れ込んでもいいようにである。
 ベッドメイキングはパーフェクト。

 ふたり寄り添いながら庭を進んで、ようやく玄関に到着する。
 玄関ドアはマルガレーテにも反応している。
 ナビ端末を通じて、すでにソラリスコントロールに登録済みなのだ。

 玄関から入って中央廊下をそのまま進む。
 アオイでは、もともと靴を脱いで家に入る習慣があったのだが、この百年あまりで自動清掃の技術が向上し、そのまま土足で上がるようになっていた。

 部屋間の移動に数分の時間がかかるということも理由のひとつではある。

 その通り。彼らは確かに家の中に入ったはずなのに、まだ外を歩いているかの風景を感じている。
 空にはふたつの月が輝き、風はそよぎ、草原の中にいくつかの建物が見える。
 それが部屋だ。

 足下は磨き上げられたピカピカの床が、部屋と部屋の間をつないでいる。
 それ以外は夜の草原。

 アオイ国の住宅とは、このような敷地面積を持つ。
 また、家の中に草原を再現するのは、みず領の最新トレンドであった。

 ふたりはピカピカの床を靴のまま進む。
 室内靴という考えも、今はもう存在しない。
 彼らの築いた都市は、非常に清潔に保たれているからだ。

 手を繋いだ男女は、お互いの靴音を聞きながら中央廊下(というピカピカの床)を進み、やがてリビングルーム(とされる建物)の前にたどり着いた。
 室内に入ってクロが壁に手を伸ばす。
 壁は音もなく大きく左右に開き、その中からウォーターポットを取り出した。
 別の壁からはグラスを取り出す。

「はい」

 クロがマルガレーテにグラスを持たせると、ポットから水を注いだ。
 透明で、よく冷えた水であった。
 マルガレーテは一口だけそれを飲むと、近くにあるテーブルの上にグラスを置く。
 その際に、小さな音が鳴った。

 やはり柔らかい味だ。もうずいぶん慣れたとはいえ、今後はこの味で生きていかなくては。と、彼女は考える。

「ありがとう。でも喉の渇きはありません」

 マルガレーテはもじもじして落ち着きのない様子。
 先ほどまでは、いきなり押し倒してきそうな勢いであったが、ちょっと冷静になったのだろうか。

「これから汗かくだろうし」

 クロがそう言うと、マルガレーテは火を吹き出しそうなくらい顔を赤らめた。
 やっぱり、彼の汗も柔らかいのだろうか、と。

「はじめてです」

 消えそうな声でそう告白した。

「うん。まあそうだと思ってた」

 誰が見ても美人ではあるものの、年齢を考えれば出会いの機会は限られていただろうから。

「ヴァージンは喜ばれますか? 重いですか?」
「どっちでもないなあ」

 ソファに座って、クロも少しだけ水を飲んだ。
 ボトルから直接。
 お下品とは思うが、マルガレーテはそんな彼の姿にも強い魅力を感じていた。
 かっこいい……って。
 でも彼は普段そんなことをしない。
 顔には全然表れていないが、彼も恋人とのはじめての夜に動揺していたのだ。

「そんなこと気にしている余裕はないよ」


 今度こそ、ふたりはクロの寝室に進んだ。
 月の光に照らされる。
 夏の夜。
 繁華街では、まだ多くの若者が、こんな夜を友人と楽しんでいる時間かもしれない。
 だけど、クロとマルガレーテはふたりの時間を選んだ。
 ただ一緒に歩いているだけでも幸せを感じるはずなのに、もっともっと求めてしまうのは何故だろうか。
 クロは柔らかな彼女の手を引きながら考える。
 自分はこんなに欲深い人間だったのか。

 責任を押しつける気はないけれど、すべては女性の意思次第かと思う。
 マルガレーテがその気でなければ、ただ手をつないで朝まで一緒にいるだけでもよかった。それでも満足な幸せを感じるはずだ。

 片手で恋人の手を引き、クロは寝室の前に到着した。
 ドアが自動的に開く。
 大きな室内ではあったが、殺風景な部屋だった。
 大きなベッドと、いくつかのテーブルくらいしかない。
 設置箇所が見当たらないが、照明は、夜のイメージが持ち込まれているようで、やや暗めに室内を照らしていた。
 彼らの視力であれば、全く問題がない。ソラリスの用意した演出効果だ。
 マルガレーテが望むのであれば、ネイルの微妙な角度さえ見えるほど、点灯することも可能だ。
 いや、これから下着を脱ぐ女が、そんなこと希望しないけどね。
 でも、隅の隅まで、奥の奥まで見て欲しい気持ちもある。
 自信はある。
 この日のために、すべてを今日のために努力してきたのだから。

 左手奥に扉が見える。きっと洗面室だろう。
 寝室の入口で立ちすくむ彼女をそのままに残して、クロは、テーブルの上に上着と上着のポケットから取り出したナビ端末を置き、ベッドに腰掛けた。

 サイドテーブルの上には、リビングで使用したものとは違うウォーターポットと、ふたつのグラスが生成されていた。
 マルガレーテは鞄をカーペットの上に置く。
 いつものつもりだったのに、乱暴に落としてしまい、ちょっと焦った。

「むさぼりあいます」
「おう、かかってこい」

 マルガレーテの宣言に、クロはベッドに腰掛けたまま応えた。
 恥ずかしくて、でも我慢できなくて、マルガレーテは、いますぐに、自分の男の服を剥ぎ取ってしまいたい衝動にかられる。

 あ、その前に自分が脱がなくては!

「すごく官能的な下着なので、クロくん大興奮ですよ」
「楽しみ」

 そう言ってクロは笑った。
 自分を追い詰めるマルガレーテとは反対で、クロには余裕が生まれる。
 笑う。
 こんなときでもブーツスタイルは譲れないんだ。
 笑う。
 レースアップブーツなんて、俺は脱がせられないぞ。
 こんなことを考えながら、
 笑った。

「用意してきたんだ」と、笑いながらクロが問いかける。

 どんな風に注文したのだろうかと考えると、やっぱり愉快だ。

「姉に相談して決めました」

 まあ学生だって、エロ下着ぐらい用意できるか。
 でも初彼のためにする準備としては、大胆といえる行動だと感じる。
 普段がどのような下着なのかは分からないけど、別に、ありふれた、男が連想できる範囲の下着であったとしてもがっかりなんてしない。
 綿かポリエステルにほころびがあったとしても、失望なんてしない。
 だけど、『着てきた』とアピールするマルガレーテに、クロはそんなこと言わない。
 これは、デリカシーからではなく、彼の、余計なことは言わないという慎重さからくる行動だ。

「あ!」

 捕食獣の如く、巨大な寝室の中央にあるベッドに足を進めていたマルガレーテが、突然声を上げて固まってしまった。

「どうした?」

 驚いたクロが声をかける。
 マルガレーテの表情からはなにも読み取れない。
 経験値の低いクロは、彼女の無表情を“愛想なし”と判断していたが、彼女のそれは防衛本能だったのかもしれない。
 ホントはこんなにも情熱的だし。
 意中の男子以外には口説かれたりなんてしないぞとガードしていただけなのかも。

 でも、今日は緊張していただけかもね。

「こういうとき」

 マルガレーテが、おそるおそるという感じで言葉を実体化させる。

「男性に服を脱がせてもらってからシャワーを浴びるのでしょうか? それともシャワー後に下着で迫るのでしょうか?」

 彼女にとってはとっても重要な問題なのだ。自分で決心して、自分で誘ったのだから。

「オレドーテーナノデワカリマセン」
「うう~」

 自分の中にない、この変なうなり声について、クロは、彼女の遺伝的なルーツが呼び起こしているものなのだろうかと、ヘンテコな感想を持った。
 そして、洗面室の扉を小さく指さす。
 右手と左手の人差し指を、奥の扉に向ける。
 シャワーを促したのだ。
 でも、実際のところ、彼らの肉体は非常に清潔に保たれている。
 自律神経ですら、彼らのテクノロジーはコントロール下にある。

 このまま科学が進めば、やがて興奮すら手に入れて、人間は自動で恋愛する時代に到達するかもしれない。
 マルガレーテにシャワーを勧めながら、クロは思いつく。

 ああ、そうか。と思う。
 だからみんな、まわりくどく詩を書いたり歌ったりするんだ。
 自動的に注入される人間性に抵抗しているんだ。

 でも、すぐに大丈夫だと根拠もなく思う。
 人間の時代は終わるまで人間のもので、飲み込まれたりしない。
 たとえ人間と機械の境界が曖昧になったとしても、目の前の女の子をかわいいと思う気持ちはインジェクションされたものではない。
 自分の中から湧き上がったものだから。
 無から生まれた信用創造だから。
 全自動の人生だなんて、それはアオイの目指す姿ではない。
 もしアオイにオートマティックトランスフュージョンの時代が訪れたなら、それは、西洋の、あの頭の固い国々(連中)の勝利を意味する。
 イデオロギーに決着がついてはいけない。

 マルガレーテの言葉の端々から、シャワーへの渇望があることを察したクロは、彼女をシャワーに促す。
 体を清潔にすること以外に、きっとさまざまなスイッチの切り替えができるのではないかと考えたからである。

 たとえば、
 気持ちの整理とか、
 生活の区切りとか、
 男女の再会とか、
 みそぎのような。
 うまれかわりのような。

「もう全部登録されているから」

 クロは、更衣室のさらに先にある、浴室の設備を含めた家中の機器に対して、マルガレーテに操作権限が付与されていることを伝えた。
 玄関のドアが彼女に反応していたのもそういうことである。

「はい。お借りします……」

 顔真っ赤の無表情女が、両手に鞄を抱えながら洗面室に消える。
 なーんか、意外と素直。
 洗面室の扉が閉まると同時にクロはそのままベッドに背中から倒れ込んだ。
 疲れてなんてない。今日はエアポーターで帰郷しただけのこと。
 好きな女の子と一緒にいるだけだ。
 でも、嬉しいことだ。
 疲れてはいないけど、緊張している。




「うわ……」

 比喩ではなく、ジャングルそのものといった様子の洗面室で、ベッドよりも大きな鏡の前に立ったマルガレーテは、思わずそう呟いた。

「すごいブス」

 鏡に映った自分の姿を見て呆れる。
 せっかく気合い入れて巻いた髪はぼっさぼさだし、つやつや唇からルージュは剥がれてしまっているし、下着は大洪水でべっちょべちょだ。

 こんなになってるなら言ってくれればいいのにと、心の中でクロに八つ当たりするも、自分がその立場ならどうやって伝えればよいのだろうかと悩むほどである。

 アオイでは、もはや化粧の習慣はほぼなくなっていた。
 それに相当する身だしなみは、肉体のコントロールで済まされている。
 非常の多くの人と会わなくてはならない人は一日一回。
 でもそれは極端な例で、通常、一年に一回程度のコントロールで、人は顔を鮮やかに彩っていた。

 実際にコスメを使うのは、マルガレーテのような外国人だけではなかろうか。

 そういえば、さっきクロくんが家紋付きのハンカチで口を拭っていたとき、私のルージュがハンカチに移っていた。
 うわ~、誰とすれ違うこともなかったけど、こんな顔で外を歩いていたんだ。

 マルガレーテは洗面室のテーブル上に荷物を広げながら後悔していた。
 替えの下着である。
 着替えくらい、クロに言えばすぐに用意してくれるだろう。
 あるいはこの家が生み出してくれることも可能だ。

 でも、下着は見せても、下着の好みまでは、まだ知られたくないと思ったのだ。
 そういうのは段階的に知らせていくものかと思う。
 少なくともその時間は、男をつなぎ止めていられるだろうから。
 常に発見を感じてほしいと思う。

 マルガレーテがクロを押し倒すよりも先にシャワーを選んだのは、自分の下着が冷たくなってきているせいだ。
 予備を持ってきてよかったと思う反面、これならわざわざ勝負下着を着てこなくてもよかったじゃないかと思う。
 これは学びだ。つぎか、そのつぎか、彼に下着を脱がせてもらったり、履かせてもらったりするのもいい。

 ブラウスとスカートを脱いで、鏡の前に立つ。
 ランジェリー姿の自分。
 デザインはかわいい……
 でも、やっぱり背伸びしてる気がする。
 胸が大きいからといって、大人の魅力があるわけではない。
 ここまできて考え込んでも仕方ない。
 マルガレーテは気を取り直してさらに脱ぐ。
 ブラとショーツだけ。
 うん。これもかわいい……
 そう思うんだけど、これが男性の好みに合うかは別問題かも。
 布面積の非常に少ないショーツだが、実はジーンズと相性がよくて、普段から着慣れている。
 今日のは特別なんだけどね。
 彼女は全裸になって、男の家で服を脱ぐ意味をかみしめた。


 クロが言ったとおり、この家のすべての設備はマルガレーテのコントロールを受け入れていた。
 鏡の横に視線を移すと、壁が大きく左右に開き洗濯用の口が現れる。
 そこにマルガレーテは戦闘用下着を放り込んだ。
 テクティルというフェムト技術による服を着ているクロなので、この家の洗濯機能は、もしかして初めて使われたのかもしれない。

 マルガレーテが入れた下着は、たぶん入浴を終えた頃には新品のように洗い上がっていることだろう。もしかしたら再合成されているかも。つまり新品だ。

 でも、彼女はそれを、今夜もう一度着るような気持ちではなくなっていた。
 それは次でいいんだと自分に嘘をついた。
 せっかく用意したけど次回にとっておく。
 次回があるんだと思わなければ、泣いちゃいそうだから。




 全裸になって奥に進むと、やがて浴室に入った。
 扉などがあるわけではない。
 景色が変わったのだ。
 洗面室とは違う空調を感じる。
 ここからが浴室だ。
 浴室とはいっても、天井が見えないほど高い。
 そこは熱帯樹林が生い茂る環境であった。
 遙か向こうに大きな滝が見える。
 水の流れる大きな音と、高い湿度。
 その中をてくてくと進む。

 ゆっくりと歩いていると、霧状の肉体洗浄薬が彼女を包み込んだ。
 それだけで、彼女の肉体は完全に清潔なものとなっていた。
 もともと清潔に保たれていたものが、欠点なくぴかぴかである。
 ただ歩いていただけで。

 そのままジャングルを進むと、目の前に大きな楕円形のなにかが現れた。
 巨大の卵を連想させる形をしたもので、不思議なバランスで地面に立っている。
 それは、卵形をした液体の塊であった。

 『レーベンスブルート』

 これこそが、この国の富と権力の象徴であった。
 いまでは人類の生活には欠かせないと言われるほどのものだ。

 生産はアオイでなければできない。
 そして、その正体は、無味無臭の透明な液体である。

 苦手な人がいるとは聞いたことがあるが、それこそ生まれた頃から利用しているマルガレーテには、人類が当たり前に利用する液体だった。

 人間の生命維持に必要な酸素や栄養価だけではなく、不調箇所の改善や、ケガからの回復。さらに、この液体は、中にいる人間を外部環境や衝撃からも守る能力も持っている。
 ちょっと誇張されすぎな表現ではあるが、浸かっていれば老いることすらないと言われるほどのものだった。

 人間の血のように例える人もいたが、マルガレーテは、その意見を耳にした父が『なかなかに適切な表現だ』と笑っていたことを思い出した。
 そもそも“新たな人類の血液”という名前なのだから。
 でも、彼女はそんなことを思ったことはない。実際ただの透明な液体だからだ。

 マルガレーテは迷うことなく卵形の大きな液体の中に足を踏み入れた。
 それは空中に浮かぶ、卵形を維持している液体と表現できる。
 右足から浸かり、全身が飲み込まれる。
 体が少し浮かび上がった。
 飲み込んでしまってもかまわない。
 やがては呼吸が可能になるのだから。
 口の中がこの液体でいっぱいになる。
 肺と共に心も満たされる。

 やっと落ち着いて、これからのことを考えることができるようになった気がした。
 なんでだろう。彼の前では我慢ができなくなる。
 この機会をぜったいに逃したくないという気持ちが溢れてしまう。
 もう我慢なんてできない。 
 彼の前でパンツを脱ぐことなんかに抵抗なんてない。
 私が彼のものになるのではない。
 私が彼に私を奪わせるのだ。
 私を奪ったと感じさせるのだ。
 そう決意する。

 最初に好きになったのは、瞳と髪の色。
 それから、落ち着いた声。
 それから手。大きいのに、女の子みたいに繊細で長い指。

 あの指で、これから触れられるのだ。

 そう考えただけで、心の中のロックコンサートが再開される。
 ステージの上、ギターを持った自分が、激しいエイトビートに揺れる。

 そういえば、彼はなにか楽器できるのかな?

 彼のことだ。きっと『一通りできるよ』とか言いそー
 
 数十秒だけでも十分であった。彼女の肉体はリラックスできていた。
 彼女は、卵形の液体から体を外に出す。
 入ったとき同様、長い足から順番に、液体の中から体を外に出す。
 そのまま彼女は歩き始めた。
 体内に残ったレーベンスブルートが引き上げていく。
 意思があるのかと錯覚してしまうほど自然に体内から流れ出た。
 肺を満たしていた液体は、吐き出すまでもなく、自動的に鼻や口から排出されていった。
 排出された液体は、意思があるかのように卵形の液体に合流する。

 彼女の体はぴかぴかだ。
 心も晴れ晴れだ。

 髪も乾いているし、体に水滴などない。
 彼女が浴室から洗面室に戻ったところ、床から持ち上がってできたテーブルの上に、バスローブが準備されていた。
 ソラリスが用意したのだ。
 サイズもぴったり。
 彼女は呟いた。

「彼にふさわしいですか?」

 すぐに自分と同じ声で返事がかえってくる。

「肉体面、精神面、ともに安定しています」

 正解なんだけど、もうちょっと気を利かせた答えがほしかった。
 彼の好みにあってるよとか、虜にさせますよとか、愛されてますよとか……
 でも、自分の声だというのに、ソラリスのAIエージェント機能が女の声を発したのが気に食わなかった。

「その声はやめてほしい」

 苦笑しながらローブを羽織って寝室に戻る。
 ベッドに仰向けになっていたクロが上半身を起こした。
 上着は脱がれている。きっと部屋にマテリアル合流させたのだろう。
 質量値計算が難しいと思うのに、アオイの科学はすごい。

「今日は自分で脱いじゃいました」
「それはそれでよし、だね」

 クロは立ち上がると、更衣室前のマルガレーテの前にまで進んで、彼女の顔を見た。
 お風呂上がりのほかほか赤くて愛想なし。
 でも、とってもチャーミングだ。

「俺もシャワーしてくるね」
「私はかまいません」
「俺がかまいます」

 はやくはじめようとマルガレーテはせがんだのに、クロはそのまま洗面室に入っていってしまった。

 どうせ汚れてないのに!

 不満を感じてはいたが、もし彼に汚れがあるのであれば、それも味わってみたいと思った。

 はっ!

 テーブルのグラスに水を少し注いで、ぐっと一口で飲んだ。
 いかんいかん。マニアックプレイはもうちょっと慣れてきてから。

 あ、いや。はじめからでもいいかも。
 い、やっぱだめ。慣れてから。
 う、でもなにもわからないうちにするっていうのもいいかも。

 性欲の堂々巡り。
 こういうときは、柔らかい水に助けられるんだな。と、普段なら物足りなく感じる軽さに、救われる心のあり方を感じた。
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