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しおりを挟む扉の隙間からは海水が染み出している。
クロの顔は、自分の唾液か彼女の愛液かわからないほど濡れてしまっていた。
焦って指を入れたりはしない。
彼女の固い扉が、かんぬきを開く瞬間を待っていた。
マルガレーテはというと、そんなクロの気持ちとはうらはらに、すぐにでも彼の破城槌で、彼女の守りを無理矢理にでも突破してほしいと願っていた。
何度も繰り返される絶頂に翻弄されてはいるが、はじめから破瓜の痛みなんて覚悟の上なのだ。
自分の体でクロに気持ちよくなって欲しい。
クロのものとなったのだと証明させたい。
そんな考えで、彼との夜に臨んでいるのだ。
それは自分が彼をつかみ取ることだ。
彼を腹の上から逃げ出せないようにする。
マルガレーテは、自分の手足が八本になった浅い夢を見た。
クロは液体まみれの顔を彼女の股間から離すとそのまま彼女に覆い被さった。
いよいよか……
数分前のにクロと同じことを考えた。
しかしクロは、先ほどのマルガレーテの行動をなぞり、彼女の扉の溝に、自分の棒の腹部分を乗せて、ゆっくりと前後し始めた。
彼の愛しいペニスから与えられる陰核への刺激に翻弄される。
視界の端にチカチカとした光がいくつも浮かんだ。
目から火花が飛ぶとはこのことか。
彼女の勘違いだ。視界にそのような変化は現れていない。
たぶんあまりの気持ちよさに、脳の下した処理を正しく認識できていないのだろう。
目から火花は飛び出していない。
彼の波に溺れていく……が、正しい認識だ。
彼のペニスは前後に揺れているだけ。
しかし、潤滑水は満ち足りている。
丸太を使ってサーフィンしているように思える。
彼自身はほぼ感覚のない部位である。
もどかしさはあるけれど、体の下にいる同級生が、全身を使って刺激の内容を教えてくれていることには満足だ。
シーツを掴む手のひらに、もっともっと力が込められる。
開いた口からは、大きな呼吸とあえぎ声が漏れる。
もう体と心の両方から、彼を受け入れているというのに、なぜか『いやだいやだ』と言ってしまう。
ほんとはもっと肯定する言葉を言いたい。彼に拒絶の意思と捉えられたら一生後悔するに決まっている。
でも彼は分かってくれているようだ。
さっき彼に確認してもらった、処女膜とかいう名前の、そんなカーテン、もう私の部屋にはいらない。
いつ彼が訪問しても、すぐにわかるように、窓から彼の姿だけを見えるようにしておきたい。
いつも自然体なのに冷静。なんだか悟ったかのような寒色の瞳。優しい髪の色。
いつも教室で横から見ていた。
友達と談笑したり、休憩時間にバスケをしたりしている時以外は、つまらなさそうにしている。
でも、それは世の中の全部に関心を持つことはできないという悲しみからだったんだね。
世界の全部の事実の中でも、自分の手のひらで拾えるのはごくわずか。
だからガラスの窓から外を見ていたんだね。
だったら私もカーテンを捨てる。
あなたの人生の例え一瞬だとしても、私の持つ全部で慰めを与えたい。
世界を知って、憧れても、そのすべてを拾うことはできない。そんな悲しみを知るだけ。
クラスのロールプレイで、私にそんなことを語ってくれたことがあった。
三角錐を上から見て、四角形だと表現することは嘘ではない……
世界が全部他人事なのだとしたら、人生は暇つぶしなのかな……
たぶん自分でも意識していなかったんだろうけど、ふと気持ちを吐露してくれた。
私はずっとあなたを目で追っていた。
でも、私のその憧れは恋に変わったんだ。
あなたの慰めになりたい。
なんだっていい、なんでもするし、してあげたい。
だから一緒にいさせて欲しい。
ずっと横で見つめていさせて欲しい。
「クロくん……」
「?」
彼女の懇願する声。
「噛ませてください……」
クロはその言葉に、表情を緩めて返事をした。
はなから彼女の望みを断るつもりはない。
マルガレーテは、上気した顔で彼の肩に噛みついた。
ふたりは、ベッドの上で抱き合っている。
マルガレーテの上に彼が覆い被さるように。
彼は筋骨隆々と表現するようながっちりとした体つきではない。
しかし、無駄な部分はなく、非常にスマートだ。
もっともっとぎゅっとしてほしいのに。
彼女は自分の胸を邪魔だと思った。
ふたりが溶け合えないのは、間に邪魔者がいるからかとさえ思ってしまう。
マルガレーテは、同級生女子と比べて、自分の胸が大きめであることを自覚している。
だが、外見は、アオイでは二の次三の次に評価される要素に過ぎない。
女性の胸が大きくても小さくても、そこで値踏みされるようなことはない。
状況に合わせて、どれだけ適切な判断ができるのか。
求められる資質はこれに限る。
法によって、ほぼ完全な選択の自由が保証されているこの国に於いて、家門の為になにができるのか。これこそが評価の対象となる。
誰ひとりとして疑問を持たないが、社会関係を考察する上で最大の矛盾だ。
これこそが、クロが、『すべてを拾うことはできない』と理解してしまった理由ではなかろうか。
無制限の自由は、最大限の制限を押しつけてくる。
では、愛は?
外国にルーツを持つ自分が、クロのためにできることはなんだろうか。
それを探すために、ずっと幼い頃から勉強していたのかもしれない。
幸いなことに学ぶための環境は充分に与えられていた。
そもそもアオイの教育水準は世界トップレベルと言えるし、なによりも両親の力添えがありがたかった。
多忙ではあるものの、父母自身の能力の高さ、そして国際的なアカデミアへのコネクション。
彼らはともに高名な学者でありながら、柔軟さを持ち合わせている最高の教師であり、彼らを通じて世界の頭脳と議論できる機会が与えられたのは大きい。
この経験は、きっとクロのために役立てることができる。
彼女は、破瓜の直前にして、生涯の痛みに耐えると腹をくくるほかなかった。
将来は愛人でもパートナーでもいい。
彼のために、ファミリーに貢献できる自分でいる。
そんなことを決意しながら、マルガレーテはクロの肩に噛みついた。
はじめにクロが噛んでもよいと言ったのはどのような理由からであろうか。
単なる性行為の一環であろうか。
そのような刺激に興奮する人なのであろうか。
なんだってかまわない。
いま自分は、自分のために、自分の意思で彼の肩に噛みついたのだ。
顎に強く強く力を入れる。
彼は相当痛いはずなのに何も言わない。
ふと口を外すと、真っ赤な自分の歯形が彼のスリムな肩に残っていた。
彼を見ると、やさしく自分を見つめている。
恥ずかしい。顔から火が出そう。
痛いと言って怒ったり愚痴ったりしない。
私のするがままにさせていた。
マルガレーテは、そのまま照れ隠しに、もう一度彼の肩に噛みついた。
もっともっと深く傷つける。
流石アオイ国の人間。苦痛への耐性が非常に高い。
優れた肉体と、それをコントロールする研ぎ澄まされた精神の持ち主たちだ。
なんて関心しながら、もう一度顎に力を込めた。
心では納得した行為なのに、体が拒絶し始める。
彼を傷つけるものは、たとえ自分であっても許せない。
そのように体が判断して、涙が流れてしまった。
噛んだり吸ったり。彼の血がにじみ出たのか、かすかな鉄さびの味が口に広がる。
彼のものはなんでもほしい。
口を離すと、見事に血のにじんだ噛み跡が彼の肩に残っていた。
「これは、私の“借り”です」
マルガレーテは、目の前数センチメートルにある、彼の瞳にそう言った。
「この借りを、私の全部で返済します」
その言葉を聞いて、こんな状況であるのに彼は微笑んだ。
「じゃあ、これから君の処女膜を傷つける、俺は何を支払えばいいのかな?」
なんと麗しい声。
マルガレーテは、彼の唇を求めた。
しかし彼は、
涙の跡とか、鼻先とか、まぶたの上とか、髪の毛とか、
次々に口付けする。
いじわるだ。
彼は強く否定していたが、やっぱり女泣かせの才能を感じる。
いままで、数え切れないほどの女性と夜を共にしてきたと言っても信じられる。
むしろ、そのほうが自然だと思うくらいだ。
そのようなことを考えながら、マルガレーテは、自分の腹の上にある固いものに熱を感じていた。
サーチすると、体温は自分の膣内よりも低い。
当たり前か。外部に露出している器官なんだから。
でも、ぐっちゃぐちゃのどっろどろにされているマルガレーテの意識は、なぜか彼の性器を熱いと感じとっていた。
『ああ、私は彼をほしがっているのかな』とか思う。
彼のために性的刺激は一切断ってきた。
ぜんぶのはじめてをクロにあげたかったので、どんなに彼のことを思って心が高まっても、自分で慰めたりしなかった。
それなのに、いま、彼が欲しいと願うのは、自分の本質なのであろうか。
でも、今日のために性欲を全部抑えてきたのは間違いとは思えない。
自分の性器に触れるのも、見るのも、口付けするのも、味わうのも、全部彼が最初。
こんなに嬉しいことはない。
ずっと子供の頃からこの日を待っていた。
今日のために生きてきたし、努力してきたのだ。
「その痛みは、“借り”ではなく、“施し”です」
マルガレーテは素直に言ってしまう。
「あれ、そういうのが好み?」
「いいえ。クロくんの望みであれば、どんな行為でもお付き合いしますという意味です」
「そういうのはないなぁ。好きな女性とふれあって、一緒に高まっていければそれでいい」
クロの方も、マルガレーテにつられて本音を言ってしまう。
普段なら、もうちょっと考えた上で発言するのだが、さすがにクロも、女の子とはじめて過ごす夜にうなされているのか。
それとも彼女だから言ってしまえるのか。
そうだな。
恋愛を楽しんだり、権謀術数に明け暮れるほど、命の危機と縁遠い生活をしているアオイの民ではあるが、そんな中であっても、自分は好きな女性と一緒にいたいと思うし、本当の気持ちに触れることを許してしまえるほどの女性でなければ意味がない。
「施しをください……」
すぐに、はっとした表情となる。
言ってしまってから、マルガレーテは自分の言葉に気付いのだ。
あまりにもストレートに喉が発音してしまった。
いろいろなボディコミュニケーションを考えてきたというのに、上手にできない。
恋愛はプラン通り実行できるものではないことがわかった。
無意識層接続がなかった時代、遠方通信技術のなかった時代、手紙が人間の足で運ばなくてはならなかった時代。
人々はどんな風に恋を成就させてきたのか。
まったく想像ができない。
「もっと深めたいのです。どうすればよいでしょうか?」
恥ずかしさを紛らわすためか、もう恥ずかしいものはないという気持ちからか、マルガレーテはクロに聞いてみた。
たぶん死ぬ瞬間まで理性はある。こんな状態でも言っていいことと配慮の必要な言葉は区別できる。
マルガレーテは、こんな興奮した状態でも、誰かを傷付けることのない言葉を使用可能だ。
クロは満足だ。理想の女性像だったからだ。
一朝一夕に得られる態度ではない。
「見つめ合って」
「見つめ合って……」
「『好きです』と言う」
「好きです! 大好きです!!」
至近距離だし、寝転がっているわけだし、そんな大声は出せない。
でも、とても強いニュアンスの含んだ発音だった。
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