51 / 85
王族エリアの迷宮と不意の来客
しおりを挟む
各国との会談の予定もすべて終了したこの日、午後からのクラリスの予定はポッカリと空いていた。
テオドールは例の件の調査で多忙を極めており、クラリスは一人、王族図書室で久々の読書に耽っていた。
「いいですか?くれぐれも王族エリアから出ないように!よろしいですね?」
何度も何度もテオドールから念を押され、クラリスは辟易しながら返す。
「そう何度も言わなくても分かるわよ!私を誰だと思ってるの?」
「妃殿下ですから申し上げております!」
相変わらずの小競り合いを終え、クラリスは久しぶりの静寂に包まれた図書室で心を休めることにした。
王族専用の書物が並ぶこの空間は、扉の前に衛兵が整列しているだけで、室内には誰もいない。テオドールですら立ち入ることは許されない。クラリスはズラリと並ぶランズ王国の歴史書を手に取り、時間を忘れて読み耽った。
一冊読み終えると、クラリスは静かに本を閉じ、大切に元の場所に戻す。そして、煩いテオドールの元へ戻ろうと足を運ぶ。
…足が重いわ。
宿敵の待つ執務室へ重い足を進めると、目の前に信じられない光景が映る。
…え?
瞬きを重ねても、その視線の先にはガルフ王国王太子、ミケルの姿があった。
…幻?
頭を振っても、その幻は確実に近づいてくる。クラリスは後退りしつつ瞬きを繰り返すが、
幻ではなかった。
「姫、偶然ですね?」
いや偶然ではないだろう。クラリスは必死に瞬きをするが、どこから見ても間違いなくあのミケルである。
「で、殿下。ここで何を?」
デジャヴかと思いきや、そうではない。この男は懲りずにまた王族エリアに居るのだ。クラリスの心に不安が過る。
…ヤバいわ。またゴシップ誌に…。
辺りをキョロキョロ見渡すクラリスを、ミケルは静かに見つめる。
「アハハハ、姉上。そんなに気にしなくても、もうゴシップ誌には載りませんよ!」
声の主はヨハネスだった。ヨハネスの後ろには側近のアンドラ、さらにその後ろには、あの螺旋階段事件の時に見かけたマリネット公爵令嬢が控えている。
クラリスはその組み合わせに思わず目を見張る。
「よく迷われる王太子殿下だ。」
ヨハネスが呆れたようにミケルを見つめると、ミケルは目を細めてヨハネスを返す。アンドラだけを確認すると、ミケルは指を軽く鳴らした。
すると、瞬時にガルフ王国の騎士たちが整列して室内になだれ込む。クラリスは思わず息を飲む。
「おやおや、これほど多くをお連れになっていたのか…」
呆れた眼差しでミケルを見つめると、彼は軽く笑みを浮かべた。
「こちらも猶予が無いのです。貴方が邪魔をするからです。悪く思わないでください。」
クラリスはまたも己の定めに嘆き、無意識にテオドールの嫌味を思い出す。
「それはこちらのセリフです。貴方方は他国の王宮、しかも王族エリアで剣を抜くということがどういうことか分かっておられますか?」
微動だにしない騎士たちは構えのままヨハネスを見据える。
「例えここでその剣で私を射止めたとしても、さてどうやってここから出るつもりですか?正面からゾロゾロ出て行くおつもりではないでしょう?それとも、このどこの誰かも分からない令嬢の情報だけで動いていたのでは?」
ミケルは眉をぴくりと上げ、マリネットに視線を流す。
「高々、公爵令嬢如きが王宮のカラクリまで知るはずはありません。確かに入口の件は私の不注意で彼女が知ることとなったようですが、一つの通路だけで済むと思いますか?あそこには多数のカラクリがあります。前回のようには出られませんよ。」
クラリスも初耳の話に驚きつつ、ヨハネスを見る。ヨハネスはさらに続ける。
「罠を仕掛けたのです。前回のままのルートにしておいたのは…まさか、またヌケヌケと現れるとは思いませんでしたがね。試しに進んでみるといい。ここから先は迷宮ですよ?」
騎士たちは剣を構えたまま、視線だけをミケルに送り、彼の動きを伺っていた。
テオドールは例の件の調査で多忙を極めており、クラリスは一人、王族図書室で久々の読書に耽っていた。
「いいですか?くれぐれも王族エリアから出ないように!よろしいですね?」
何度も何度もテオドールから念を押され、クラリスは辟易しながら返す。
「そう何度も言わなくても分かるわよ!私を誰だと思ってるの?」
「妃殿下ですから申し上げております!」
相変わらずの小競り合いを終え、クラリスは久しぶりの静寂に包まれた図書室で心を休めることにした。
王族専用の書物が並ぶこの空間は、扉の前に衛兵が整列しているだけで、室内には誰もいない。テオドールですら立ち入ることは許されない。クラリスはズラリと並ぶランズ王国の歴史書を手に取り、時間を忘れて読み耽った。
一冊読み終えると、クラリスは静かに本を閉じ、大切に元の場所に戻す。そして、煩いテオドールの元へ戻ろうと足を運ぶ。
…足が重いわ。
宿敵の待つ執務室へ重い足を進めると、目の前に信じられない光景が映る。
…え?
瞬きを重ねても、その視線の先にはガルフ王国王太子、ミケルの姿があった。
…幻?
頭を振っても、その幻は確実に近づいてくる。クラリスは後退りしつつ瞬きを繰り返すが、
幻ではなかった。
「姫、偶然ですね?」
いや偶然ではないだろう。クラリスは必死に瞬きをするが、どこから見ても間違いなくあのミケルである。
「で、殿下。ここで何を?」
デジャヴかと思いきや、そうではない。この男は懲りずにまた王族エリアに居るのだ。クラリスの心に不安が過る。
…ヤバいわ。またゴシップ誌に…。
辺りをキョロキョロ見渡すクラリスを、ミケルは静かに見つめる。
「アハハハ、姉上。そんなに気にしなくても、もうゴシップ誌には載りませんよ!」
声の主はヨハネスだった。ヨハネスの後ろには側近のアンドラ、さらにその後ろには、あの螺旋階段事件の時に見かけたマリネット公爵令嬢が控えている。
クラリスはその組み合わせに思わず目を見張る。
「よく迷われる王太子殿下だ。」
ヨハネスが呆れたようにミケルを見つめると、ミケルは目を細めてヨハネスを返す。アンドラだけを確認すると、ミケルは指を軽く鳴らした。
すると、瞬時にガルフ王国の騎士たちが整列して室内になだれ込む。クラリスは思わず息を飲む。
「おやおや、これほど多くをお連れになっていたのか…」
呆れた眼差しでミケルを見つめると、彼は軽く笑みを浮かべた。
「こちらも猶予が無いのです。貴方が邪魔をするからです。悪く思わないでください。」
クラリスはまたも己の定めに嘆き、無意識にテオドールの嫌味を思い出す。
「それはこちらのセリフです。貴方方は他国の王宮、しかも王族エリアで剣を抜くということがどういうことか分かっておられますか?」
微動だにしない騎士たちは構えのままヨハネスを見据える。
「例えここでその剣で私を射止めたとしても、さてどうやってここから出るつもりですか?正面からゾロゾロ出て行くおつもりではないでしょう?それとも、このどこの誰かも分からない令嬢の情報だけで動いていたのでは?」
ミケルは眉をぴくりと上げ、マリネットに視線を流す。
「高々、公爵令嬢如きが王宮のカラクリまで知るはずはありません。確かに入口の件は私の不注意で彼女が知ることとなったようですが、一つの通路だけで済むと思いますか?あそこには多数のカラクリがあります。前回のようには出られませんよ。」
クラリスも初耳の話に驚きつつ、ヨハネスを見る。ヨハネスはさらに続ける。
「罠を仕掛けたのです。前回のままのルートにしておいたのは…まさか、またヌケヌケと現れるとは思いませんでしたがね。試しに進んでみるといい。ここから先は迷宮ですよ?」
騎士たちは剣を構えたまま、視線だけをミケルに送り、彼の動きを伺っていた。
0
あなたにおすすめの小説
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。
ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない
咲桜りおな
恋愛
愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。
自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。
どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。
それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。
嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。
悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!
そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。
【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
【完結】婚約を解消されたら、自由と笑い声と隣国王子がついてきました
ふじの
恋愛
「君を傷つけたくはない。だから、これは“円満な婚約解消”とする。」
公爵家に居場所のないリシェルはどうにか婚約者の王太子レオナルトとの関係を築こうと心を砕いてきた。しかし義母や義妹によって、その婚約者の立場さえを奪われたリシェル。居場所をなくしたはずの彼女に手を差し伸べたのは、隣国の第二王子アレクだった。
留学先のアレクの国で自分らしさを取り戻したリシェルは、アレクへの想いを自覚し、二人の距離が縮まってきた。しかしその矢先、ユリウスやレティシアというライバルの登場や政治的思惑に振り回されてすれ違ってしまう。結ばれる未来のために、リシェルとアレクは奔走する。
※ヒロインが危機的状況に陥りますが、ハッピーエンドです。
【完結】
公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる
夏菜しの
恋愛
十七歳の時、生涯初めての恋をした。
燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。
しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。
あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。
気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。
コンコン。
今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。
さてと、どうしようかしら?
※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。
やっかいな幼なじみは御免です!
ゆきな
恋愛
有名な3人組がいた。
アリス・マイヤーズ子爵令嬢に、マーティ・エドウィン男爵令息、それからシェイマス・パウエル伯爵令息である。
整った顔立ちに、豊かな金髪の彼らは幼なじみ。
いつも皆の注目の的だった。
ネリー・ディアス伯爵令嬢ももちろん、遠巻きに彼らを見ていた側だったのだが、ある日突然マーティとの婚約が決まってしまう。
それからアリスとシェイマスの婚約も。
家の為の政略結婚だと割り切って、適度に仲良くなればいい、と思っていたネリーだったが……
「ねえねえ、マーティ!聞いてるー?」
マーティといると必ず割り込んでくるアリスのせいで、積もり積もっていくイライラ。
「そんなにイチャイチャしたいなら、あなた達が婚約すれば良かったじゃない!」
なんて、口には出さないけど……はあ……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる