王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako

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王族エリアの迷宮と不意の来客

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各国との会談の予定もすべて終了したこの日、午後からのクラリスの予定はポッカリと空いていた。

テオドールは例の件の調査で多忙を極めており、クラリスは一人、王族図書室で久々の読書に耽っていた。

「いいですか?くれぐれも王族エリアから出ないように!よろしいですね?」

何度も何度もテオドールから念を押され、クラリスは辟易しながら返す。

「そう何度も言わなくても分かるわよ!私を誰だと思ってるの?」

「妃殿下ですから申し上げております!」

相変わらずの小競り合いを終え、クラリスは久しぶりの静寂に包まれた図書室で心を休めることにした。

王族専用の書物が並ぶこの空間は、扉の前に衛兵が整列しているだけで、室内には誰もいない。テオドールですら立ち入ることは許されない。クラリスはズラリと並ぶランズ王国の歴史書を手に取り、時間を忘れて読み耽った。

一冊読み終えると、クラリスは静かに本を閉じ、大切に元の場所に戻す。そして、煩いテオドールの元へ戻ろうと足を運ぶ。

…足が重いわ。

宿敵の待つ執務室へ重い足を進めると、目の前に信じられない光景が映る。

…え?

瞬きを重ねても、その視線の先にはガルフ王国王太子、ミケルの姿があった。

…幻?

頭を振っても、その幻は確実に近づいてくる。クラリスは後退りしつつ瞬きを繰り返すが、

幻ではなかった。

「姫、偶然ですね?」

いや偶然ではないだろう。クラリスは必死に瞬きをするが、どこから見ても間違いなくあのミケルである。

「で、殿下。ここで何を?」

デジャヴかと思いきや、そうではない。この男は懲りずにまた王族エリアに居るのだ。クラリスの心に不安が過る。

…ヤバいわ。またゴシップ誌に…。

辺りをキョロキョロ見渡すクラリスを、ミケルは静かに見つめる。

「アハハハ、姉上。そんなに気にしなくても、もうゴシップ誌には載りませんよ!」

声の主はヨハネスだった。ヨハネスの後ろには側近のアンドラ、さらにその後ろには、あの螺旋階段事件の時に見かけたマリネット公爵令嬢が控えている。

クラリスはその組み合わせに思わず目を見張る。

「よく迷われる王太子殿下だ。」

ヨハネスが呆れたようにミケルを見つめると、ミケルは目を細めてヨハネスを返す。アンドラだけを確認すると、ミケルは指を軽く鳴らした。

すると、瞬時にガルフ王国の騎士たちが整列して室内になだれ込む。クラリスは思わず息を飲む。

「おやおや、これほど多くをお連れになっていたのか…」

呆れた眼差しでミケルを見つめると、彼は軽く笑みを浮かべた。

「こちらも猶予が無いのです。貴方が邪魔をするからです。悪く思わないでください。」

クラリスはまたも己の定めに嘆き、無意識にテオドールの嫌味を思い出す。

「それはこちらのセリフです。貴方方は他国の王宮、しかも王族エリアで剣を抜くということがどういうことか分かっておられますか?」

微動だにしない騎士たちは構えのままヨハネスを見据える。

「例えここでその剣で私を射止めたとしても、さてどうやってここから出るつもりですか?正面からゾロゾロ出て行くおつもりではないでしょう?それとも、このどこの誰かも分からない令嬢の情報だけで動いていたのでは?」

ミケルは眉をぴくりと上げ、マリネットに視線を流す。

「高々、公爵令嬢如きが王宮のカラクリまで知るはずはありません。確かに入口の件は私の不注意で彼女が知ることとなったようですが、一つの通路だけで済むと思いますか?あそこには多数のカラクリがあります。前回のようには出られませんよ。」

クラリスも初耳の話に驚きつつ、ヨハネスを見る。ヨハネスはさらに続ける。

「罠を仕掛けたのです。前回のままのルートにしておいたのは…まさか、またヌケヌケと現れるとは思いませんでしたがね。試しに進んでみるといい。ここから先は迷宮ですよ?」

騎士たちは剣を構えたまま、視線だけをミケルに送り、彼の動きを伺っていた。
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