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第十三章 亜紀を襲った病魔

昏睡状態の亜紀

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その夜、亜紀は嬉しくて、俺が渡したニューヨークのガイドブックを枕元に置いたまま寝入ってしまった。

それを目の当たりにした刈谷はすぐに俺が亜紀に会いに来ていると察しがついたのだ。

次の日、同じ時間に亜紀の病室に行った。

いないはずの刈谷が俺を待ち構えていた。

「この泥棒猫が、人のいない隙に卑怯だぞ」

俺は思いっきり殴られた。

「やめて、秀、理樹さん、大丈夫ですか」

亜紀はベッドから立ち上がり、俺を庇ってくれた。

その瞬間、ぐらっと目眩がして倒れた。

「亜紀、おい、亜紀、しっかりしろ」

俺はナースコールを押した。

すぐに三船が駆けつけて、亜紀の処置をしてくれた。

亜紀はしばらく絶対安静の状態になった。

「東條くん、血が出てるわよ、何があったの」

「あいつに殴られた」

「まさか、手を出していないわよね」

「何もしてねえよ」

三船は俺の手当てをしてくれた。

「亜紀の気持ちがわかったんだ」

「あ、そう」

「何を怒ってるんだよ」

「わかんない、なんか気分悪い」

「大丈夫か」

「東條くん、その優しさがいけないんだと思うよ、愛理さんだって、その気になったんじゃないの?」

三船が怒っている理由は、俺にはわかっていた。

大学時代、俺は三船から告白された。

俺は真央が好きだったから答えはノーだったのだが、それから必要以上に三船を誘った。

俺は友達として失いたくなかった。

でも、三船にこの時も懇々と怒られた。

「東條くん、もういいから、その優しさがいけないんだよ、私は振られたんだよね、強く突き放さないと、女は期待しちゃうんだからね」

「でも、俺にとって三船は大事な友達だから」

三船は大学を中退し、看護の専門学校へ行った。

「あの時も俺はお前に叱られたな」

「知らない、覚えてない」

「気をつけるよ、亜紀は大丈夫か」

三船は大きく深呼吸をして、看護師の顔に戻った。

「大丈夫よ、でも今は絶対安静だから、自宅で待機してて、何かあったら連絡するから」

「ここにいさせてくれ」

「わかった、じゃ、ここで待機してて」

病院の夜は静かで、恐怖を感じた。

朝の光が差し込んで、夜が明けた。

亜紀はまだ目を覚まさなかった。


刈谷は一晩警察にお世話になり、厳重注意を受けて、病院へ戻れたのは夕方だった。

その間、亜紀は病室に戻れたが、意識は回復しなかった。

俺は亜紀のベッドの傍で、亜紀の手を握っていた。

「亜紀、早く目を覚ませ、退院したら一緒にニューヨークへ行くんだろ、その前に結婚しような、夫婦としてニューヨークへ行くんだもんな」

俺は亜紀の側を片時も離れず寄り添っていた。

刈谷は既に俺と亜紀の間に入り込める余地がないことを悟った。

病室のドアに背を向けてその場を立ち去った。

「亜紀、覚えているか、初めて会ったニューヨークの街並みはすごく綺麗で、忘れられない景色だったよな」

「亜紀、俺を置いて行くなよ、俺、亜紀にまで置いて行かれたらどうすればいいんだ」

俺の願いは聞き入れられなかったように、亜紀はずっと眠ったままだった。


真央、亜紀を連れて行かないでくれ、俺、また一人になっちまうよ。

俺は亜紀が目を覚ますまでずっと亜紀の側を離れなかった。
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