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安藤さんが病室に入ってきた。

「また、食事残してる、ちゃんと食べないと栄養取れないよ」

「そうですね、最上さんは忙しいんでしょうか」

「ああ、外科は病院の中心だからな、最上は一流の外科医だからな」

「私は最上さんにとってお荷物ですよね」

「そんなことはないよ」

「だって、私は最上さんに一週間も会えないと寂しいのに、最上さんは平気なんですもん」

契約上の妻が必要なんだ、それなら私じゃなくてもいいよね。

私はすごくお金がかかるし、これ以上迷惑はかけられない。

でも、自分に言い聞かせても、最上さんに会いたい気持ちは誤魔化すことは出来なかった。

やはりその日の夜も俺は梨花の元へは行けなかった。

疲れがピークを超えていた。

マンションへ戻ると、瑞穂が俺のマンションの前にいた。

「どうしたんだ、瑞穂」

「丈一郎さん」

瑞穂は俺の姿を確認すると、駆け寄って俺に抱きついてきた。

「おい、瑞穂、俺はもうお前を愛することは出来ない」




「分かっています、だから最後に少しだけ、抱きしめてください、お願い」

そう言って、瑞穂は俺の背中に手を回してギュッと俺を抱きしめた。

その頃、安藤の病院では梨花の姿が見えなくなり、病院は大騒ぎだった。

「いたか」

「いいえ」

「いつから梨花はいないんだ」

「夕食は半分くらい食べて、食器を下げる時はいました」

梨花、何を考えている、まさか最上に会いに行ったのか。

同じ頃、私は最上さんにどうしても会いたくてマンションに向かっていた。

きっと、疲れて寝ちゃって気づいたら朝になっていたってことだよね。

絶対に最上さんだって私に会いたいって思ってくれているよね。

私は気持ちを前向きに保っていた。まさかそんな気持ちが無惨にも音を立てて崩れてしまうなんて……

最上さんのマンションに到着すると、私の目に飛び込んできたのは、最上さんと瑞穂さんが抱き合っている姿だった。

嘘だよね、一週間来られなかったのは、忙しいからではなくて、瑞穂さんとよりが戻ったから……




やっぱり、そうなんだ、そうだよね。

私は身体の力が抜ける感じを味わった。

そして気を失い倒れてしまった。

静まり返ったその場所でバタンと何かが倒れた音が響き渡った。

俺は瑞穂の身体を引き離し、その音の方へ確認するため向かった。

我が目を疑った、そこには梨花が倒れていた。

「梨花、梨花」

俺は脈を確認して、救急車を呼んだ。

梨花がどうしてここにいるんだ。

俺は瑞穂を置き去りにして、安藤の病院へ向かうように救急隊員に指示をした。

「俺は最上総合病院の外科医最上丈一郎だ、この患者は最上梨花、俺の妻だ、安藤内科クリニックに入院中だったため、安藤内科クリニックへ向かってくれ」

「かしこまりました」

救急車は安藤内科クリニックへ向かった。

救急車が安藤内科クリニックへ到着すると、安藤はすぐに梨花を処置室へ運び、

診察を始めた。

俺は待合室で待機するしか出来なかった。

静寂の中、時計の針の時刻を刻む音だけが響いていた。
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