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72 トーマ、特別任務を受ける 1
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「ああ、間違いない。俺は一度だけ、スタンビートに出くわしたことがある。ラマータの街から少し北に行ったブロフォスという小さな町に護衛依頼で訪れた時の話だ。
そこの街のギルマスに頼み込まれてな、護衛依頼を他のパーティーに譲って、特別任務を受けたんだ。北方の森から今まで見たことがない魔物が頻繁に出てくるようになったので、原因を探ってほしい、という依頼だ。
それで、俺はその森を調査した。そして、森の奥でダンジョンを見つけたんだ……」
「ダンジョンですか」
「ああ、まだ知られていなかったダンジョンだ。そして、魔物たちは、そのダンジョンから次々に外へ出てきていたのだ」
「では、今回も、〈魔の森〉にダンジョンがあると……?」
俺の問いに、ウェイドさんはしっかりと頷いた。
「ああ、まず間違いない。しかも、俺が経験した時より、明らかに規模が大きい。魔物も強い奴が多い。奴らが森の許容量を超えて外に向かい始めたら、大変なことになる」
「このことは、もう領主や近隣の街には知らせてあるんですか?」
「それがね、簡単にはいかないんだよ……」
今度は副ギルド長のバークさんが、ため息交じりに言った。
「……スタンビートとなれば、領軍を動かす必要があります。大規模なものならば近隣の領軍、さらには国軍を動員することになるかもしれない。そんな重大案件が、もし早とちりや間違った情報だったとしたら、どうなると思いますか?」
「ああ、なるほど……間違いでした、スミマセン、では済まないですね」
「そういうことだ……」
ウェイドさんは頷くと、ぐいと身を乗り出して続けた。
「……まず、調査をしなければならんのだが、〈魔の森〉を調査できるBランク以上のパーティーは数えるほどしかおらん。だから、王都のギルド本部にも応援依頼をして、調査をしてくれるパーティーを募集したんだ……だが、どいつもこいつも、途中で引き返してきやがる……」
「えっ、Bランクでしょう?何があったんですか?それに、Aランクのパーティーは来ていないのですか?」
ウェイドさんもバークさんも、苦々しい表情で首を振った。
「Bランクの奴らは、自分たちの力ではとうてい奥までは進めない、と言ってな……Aランクパーティーも一組、調査に入ったんだが、難易度に比べて報酬が安すぎると、こちらも依頼未達成で罰金を払って王都に帰っていきやがった……」
「なるほど、思った以上に森の中は危険な状況のようですね」
ウェイドさんもバークさんも、同時に頷きながら期待のこもった目で俺を見つめた。
「このタイミングで、お前が帰って来てくれたのは、ギルド、いやこの国にとって幸いだった……」
(いや、そんな大げさな。でも、まあ、お二人が何を言いたいのかは分かりますよ)
『マスターにとっては、そんなに難しい仕事ではないでしょう。なんなら、魔物を全部消滅させてしまう方が早いかもですね』
(おい、さすがにそれは疲れるから嫌だぞ。俺は楽しくのんびりした人生を送ると決めているんだ)
「頼む、トーマ……〈魔の森〉の調査、引き受けてくれんか?」
俺がナビと話をしてぼーっとしていると、ウェイドさんがテーブルの上に両手をついて、頭を下げながらそう言った。
「ああ、はい、いいですよ」
俺ははっと我に返って、頷いた。
「そ、そうか、感謝する。報酬は、なるべく納得できるような……」
「あ、いいえ、お金はいりません。その代わり、もし、ダンジョンが見つかったら、その管理を俺に任せてもらえませんか?」
俺の頭の中には、ある一つの構想が浮かんでいた。
「なっ……」
「っ……」
俺の予想外の提案に、ウェイドさんもバークさんも絶句して、口をぽかんと開けたまましばらく俺を見つめていた。
すぐに我に返ったバークさんが、困ったような顔でこう言った。
「ええっと、トーマ君、実はね、新しいダンジョンが見つかったら、その権利は領主のものになる決まりなんだよ……」
「そうですか……じゃあ、領主様と交渉しますので、仲介をしてもらえませんか?」
ギルド長と副ギルド長は顔を見合わせていたが、やがてギルド長のウェイドさんが、肚を決めたように俺に向かって言った。
「よし、分かった。俺が責任を持って間に入ると約束しよう」
俺はにっこり笑って立ち上がり、手を差し出した。
ウェイドさんも立ち上がって、俺の手をしっかりと握りしめた。
「じゃあ、今から準備をして、午後からさっそく調査を始めます」
「うむ、頼んだぞ。正式な依頼書を作っておくから、後でバークから受け取ってくれ」
「分かりました」
「トーマ君、今回もポピィ君と二人で行くのかい?」
俺は少し考えてから首を振った。
「いや、今回は俺一人でやります。隠密行動は、一人の方が楽ですから」
「うん、その方がいいかもね。じゃあ、そのように手続きをしておくよ」
俺は頷くと、二人と別れてギルドを後にした。
♢♢♢
ギルドを出た俺は、左手の手首に装着した腕輪を見てにやにやしながら、《木漏れ日亭》に帰っていった。
俺が思いついたアイデアというのは、例のドーラの街のダンジョンマスターであるルーシーに、新しいダンジョンも管理してもらおう、というものであった。
今、ドーラの街のダンジョンは、適当に難しく、適当にお宝や収入が手に入るダンジョンとして、獣人国の冒険者たちに大人気らしい。俺の希望に沿うように、ルーシーが調整をしてくれているおかげである。
ただ、その見返りとして、街の住人や冒険者たちから《ダンジョンの女神様》として、祭られ、彼女がたまに街に遊びに出ていくと、彼女の好きな甘いものや酒などを我先にご馳走してくれると大喜びしていたのだ。
今回、もしダンジョンが見つかったら、最奥のダンジョンコアをルーシーの管理下に置く方法を考えてみよう。それが無理なら、俺がコアをテイムした後、ルーシーに従うよう命令すればよい。
『マスターには、たびたび驚かされてきましたが、どこからそんな突飛なアイデアを思いつくのですか?』
ナビが呆れたような声で尋ねた。
(うーん、そう言われてもなぁ……まあ、だいたいにおいて、目の前に課題や障害があったら、どうすれば楽しく解決できるか、という方向に考える努力はしているよ)
俺はニコニコと、遠くにそびえる《世界樹の子ども》を見つめながら答えた。
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