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20 礼奈、真由香と対面する ②
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「真由香さん┅┅鹿島さんが今どんな仕事をされているか、ご存じですか?」
「はい┅┅彼のお母様から聞きました。警察官になったと┅┅それ以上のことは知りません」
「そう、彼は今、警視庁のとても神経を使う部署で働いているの┅┅ちょっとしたミスが命取りになるような┅┅だから、彼が悩んでいることが心配だった、仕事に影響しないかと。だから、今回は少し強引だったけど、脅迫したの。命が惜しかったら、すべてを話せって┅┅ふふ┅┅」
真由香は驚いた。優士郎が、そんなに危険と隣り合わせの仕事をしているということ。そして、この世に優士郎を脅迫できる人間がいるということも。
「そうしたら、彼が観念して、一通の手紙を見せてくれたの┅┅」
「あの┅┅それって┅┅」
「そう、あなたの手紙です。だから、わたしは、ここに来ることにしましたの。あなたの気持ちを確かめたかったから」
真由香は手紙を見られた恥ずかしさで赤くなったが、優士郎の命に関わることだと言われたら、恥ずかしいなどとは言っていられない。
「彼は┅┅何と?┅┅」
「ええ┅┅まあ、簡単に言うと、戸惑っています。彼としては、当時、あなたを強引に奪うことはできなかった。あなたの選択を、泣く泣く認めざるを得なかった。そこですべては終わってしまったのです。それなのに、三年後、あなたから会いたいという手紙が来た。しかも、あなたは今、結婚という制約から解放された立場┅┅しかし、娘がいる。正直、あなたが何を考えているのか、分からない、といったところかしら┅┅」
礼奈から、現在の優士郎の気持ちを聞かされて、真由香は予想通りだったので、わずかにほっとした気持ちになった。そして、再び自分の愚かさを思い出して自嘲気味に笑った。
「ふふ┅┅飯田さん、恋をしたことはありますか?」
それは、いきなりだと失礼な質問だったが、ここまで話した後ではむしろ自然な質問として礼奈は受け取った。
「もちろん┅┅片手では足りないくらいはありますが、┅本当に好きになったのは、やっぱり一人だけですね┅┅」
真由香は涙をぽろぽろ落としながら、それを拭おうともせず言葉を続けた。
「わたし、初めてだったんです┅┅中学生の頃から、言い寄ってくる男の人はたくさんいましたが、すぐに相手の嫌なところや下心が見えてきて、一週間以上付き合った人はいなかった┅┅だから、優士郎と出会って付き合い始めても、自然に警戒心が先に出てしまって┅┅
本当に好きになったのに、キスさえ┅┅ふ┅┅ふふ┅┅キスさえさせてあげなかった┅┅うう、う┅┅もったいぶって┅┅本当は怖くて┅┅わたしは┅┅本当は、自分からキスしたかったのに┅┅セックスも┅┅したかったのに┅┅彼は、そんなわたしを大事にしてくれて┅┅手を握るときも許しを求めて┅┅わたしは、なんだかそれで自分の価値が上がったような、いい気になって┅┅ほんと、馬鹿みたい┅┅ふふ、ふ┅┅生まれて初めて自分のすべてを捧げたい人に出会った女の子は、結局、与えたい物を与えられず、それでも愛してくれることに甘えて、それが永遠に続くと信じてしまった┅┅」
目の前にいるのは、まだ過去の闇の中から抜け出せず、むやみに何年も苦しみ続けている少女だった。ただ、人と時が彼女の中を通り過ぎていっただけだ。
(そりゃあ戸惑うよね┅┅彼は現在、彼女は過去の時間を生きているんだから。どちらかが相手の時間に合わせないと、話はすれ違うばかり┅┅)
「つらいことを話してくださって、ありがとう。もう一つ、つらいことを聞くけれど、いいかしら?」
真由香はようやく顔を上げ、ハンカチで涙を拭うと、しっかりと頷いた。
「あなたにとって、紫門龍仁との結婚、そして娘さんの出産は何だったの?」
礼奈の質問は、真由香にとって最大の負い目を抉り出し、同時に彼女を現実の時間に引き戻すためのものだった。
真由香は空間の一点を見つめたまま、しばらくの間じっと考えていた。何度か向き合い、いくつもの答えを導き出し、だが、いまだに納得できる答えを得られていない問題だった。
「┅┅ただし、自分の罪とか、若気の過ちとかいう答えはなしよ。彼のことは考えなくて良いの。自分のことだけ考えるの┅┅自分にとって何だったかを┅┅」
いつしか、礼奈は敬語をやめ、普段の言葉でしゃべっていた。しかし、その言葉が、ごく自然に、すーっと真由香の胸にしみこんでいった。
「┅┅病気┅┅ケガ┅┅入院が必要な┅┅そう、一定期間彼に会えないけど、必ず治るケガ┅┅自分ではそれくらいに考えていた┅┅たいしたことじゃないって┅┅」
その答えが独りよがりで子供っぽいものだということを、真由香は十分分かっていた。だから、答えを言った後、礼奈を見上げる彼女は、叱られた子犬のようだった。
しかし、礼奈は優しく微笑んで頷いた。
「そうなのよね┅┅あなたはそう考えたのよ┅┅紫門のことはどう思っていたの?」
「┅┅初めは憎かった┅┅憎くて殺したいって思った┅┅でも、だんだん、あの人がまるで小さな子供のようだって思えるようになって┅┅少しなら甘えさせてもいいかなって┅┅ほんと、今考えると、自分でもなんて馬鹿なんだろうと思います┅┅優士郎の気持ちを考えたら、わたしを憎むのが当たり前┅┅大事な┅┅処女まで┅┅あの男に与えて┅┅子供まで産んで┅┅」
礼奈があわてて止めようと口を開く前に、真由香は再び涙を溢れさせながら礼奈を見つめて続けた。
「┅┅だから┅┅だから、優士郎に殴って欲しいんです!┅┅ナイフで切り刻んで欲しい┅┅ううう┅┅殺して欲しい┅┅うう、う┅┅」
礼奈も思わず流れ落ちそうになる涙をこらえて、天井をしばらく見つめていた。
「でも┅┅彼が、絶対そうしないってことも┅┅分かっているのよね?┅┅」
顔を手で覆ってうめくように泣きながら、真由香は小さく二度頷いた。
「そっか┅┅結局、カギになるのは┅┅彼の┅┅」
礼奈はそうつぶやくと、立ち上がって向かいの真由香の側に歩み寄った。そして、まだ泣いている真由香の横に座って、優しく彼女の肩を抱いた。
「これは、わたしの個人的な考えなんだけど┅┅」
真由香はようやく涙を拭きながら顔を上げた。礼奈は言葉を続けた。
「┅┅人の愛の形は千差万別ってよく言われるけど┅┅タイプで分けると大きく二つに分かれるって思うの。一つは与えることで満たされる愛、もう一つは奪うことで満たされる愛┅┅人はその両方を持っているんだけど、人によってそのバランスが千差万別で、結果として、カップルの組み合わせ次第でいろいろな愛の形が生まれると、そう考えてる┅┅それでね、あなたたち二人の愛の形を考えてみると┅┅」
礼奈の楽しげな様子に、真由香も思わず引き込まれて注目する。
「はい┅┅彼のお母様から聞きました。警察官になったと┅┅それ以上のことは知りません」
「そう、彼は今、警視庁のとても神経を使う部署で働いているの┅┅ちょっとしたミスが命取りになるような┅┅だから、彼が悩んでいることが心配だった、仕事に影響しないかと。だから、今回は少し強引だったけど、脅迫したの。命が惜しかったら、すべてを話せって┅┅ふふ┅┅」
真由香は驚いた。優士郎が、そんなに危険と隣り合わせの仕事をしているということ。そして、この世に優士郎を脅迫できる人間がいるということも。
「そうしたら、彼が観念して、一通の手紙を見せてくれたの┅┅」
「あの┅┅それって┅┅」
「そう、あなたの手紙です。だから、わたしは、ここに来ることにしましたの。あなたの気持ちを確かめたかったから」
真由香は手紙を見られた恥ずかしさで赤くなったが、優士郎の命に関わることだと言われたら、恥ずかしいなどとは言っていられない。
「彼は┅┅何と?┅┅」
「ええ┅┅まあ、簡単に言うと、戸惑っています。彼としては、当時、あなたを強引に奪うことはできなかった。あなたの選択を、泣く泣く認めざるを得なかった。そこですべては終わってしまったのです。それなのに、三年後、あなたから会いたいという手紙が来た。しかも、あなたは今、結婚という制約から解放された立場┅┅しかし、娘がいる。正直、あなたが何を考えているのか、分からない、といったところかしら┅┅」
礼奈から、現在の優士郎の気持ちを聞かされて、真由香は予想通りだったので、わずかにほっとした気持ちになった。そして、再び自分の愚かさを思い出して自嘲気味に笑った。
「ふふ┅┅飯田さん、恋をしたことはありますか?」
それは、いきなりだと失礼な質問だったが、ここまで話した後ではむしろ自然な質問として礼奈は受け取った。
「もちろん┅┅片手では足りないくらいはありますが、┅本当に好きになったのは、やっぱり一人だけですね┅┅」
真由香は涙をぽろぽろ落としながら、それを拭おうともせず言葉を続けた。
「わたし、初めてだったんです┅┅中学生の頃から、言い寄ってくる男の人はたくさんいましたが、すぐに相手の嫌なところや下心が見えてきて、一週間以上付き合った人はいなかった┅┅だから、優士郎と出会って付き合い始めても、自然に警戒心が先に出てしまって┅┅
本当に好きになったのに、キスさえ┅┅ふ┅┅ふふ┅┅キスさえさせてあげなかった┅┅うう、う┅┅もったいぶって┅┅本当は怖くて┅┅わたしは┅┅本当は、自分からキスしたかったのに┅┅セックスも┅┅したかったのに┅┅彼は、そんなわたしを大事にしてくれて┅┅手を握るときも許しを求めて┅┅わたしは、なんだかそれで自分の価値が上がったような、いい気になって┅┅ほんと、馬鹿みたい┅┅ふふ、ふ┅┅生まれて初めて自分のすべてを捧げたい人に出会った女の子は、結局、与えたい物を与えられず、それでも愛してくれることに甘えて、それが永遠に続くと信じてしまった┅┅」
目の前にいるのは、まだ過去の闇の中から抜け出せず、むやみに何年も苦しみ続けている少女だった。ただ、人と時が彼女の中を通り過ぎていっただけだ。
(そりゃあ戸惑うよね┅┅彼は現在、彼女は過去の時間を生きているんだから。どちらかが相手の時間に合わせないと、話はすれ違うばかり┅┅)
「つらいことを話してくださって、ありがとう。もう一つ、つらいことを聞くけれど、いいかしら?」
真由香はようやく顔を上げ、ハンカチで涙を拭うと、しっかりと頷いた。
「あなたにとって、紫門龍仁との結婚、そして娘さんの出産は何だったの?」
礼奈の質問は、真由香にとって最大の負い目を抉り出し、同時に彼女を現実の時間に引き戻すためのものだった。
真由香は空間の一点を見つめたまま、しばらくの間じっと考えていた。何度か向き合い、いくつもの答えを導き出し、だが、いまだに納得できる答えを得られていない問題だった。
「┅┅ただし、自分の罪とか、若気の過ちとかいう答えはなしよ。彼のことは考えなくて良いの。自分のことだけ考えるの┅┅自分にとって何だったかを┅┅」
いつしか、礼奈は敬語をやめ、普段の言葉でしゃべっていた。しかし、その言葉が、ごく自然に、すーっと真由香の胸にしみこんでいった。
「┅┅病気┅┅ケガ┅┅入院が必要な┅┅そう、一定期間彼に会えないけど、必ず治るケガ┅┅自分ではそれくらいに考えていた┅┅たいしたことじゃないって┅┅」
その答えが独りよがりで子供っぽいものだということを、真由香は十分分かっていた。だから、答えを言った後、礼奈を見上げる彼女は、叱られた子犬のようだった。
しかし、礼奈は優しく微笑んで頷いた。
「そうなのよね┅┅あなたはそう考えたのよ┅┅紫門のことはどう思っていたの?」
「┅┅初めは憎かった┅┅憎くて殺したいって思った┅┅でも、だんだん、あの人がまるで小さな子供のようだって思えるようになって┅┅少しなら甘えさせてもいいかなって┅┅ほんと、今考えると、自分でもなんて馬鹿なんだろうと思います┅┅優士郎の気持ちを考えたら、わたしを憎むのが当たり前┅┅大事な┅┅処女まで┅┅あの男に与えて┅┅子供まで産んで┅┅」
礼奈があわてて止めようと口を開く前に、真由香は再び涙を溢れさせながら礼奈を見つめて続けた。
「┅┅だから┅┅だから、優士郎に殴って欲しいんです!┅┅ナイフで切り刻んで欲しい┅┅ううう┅┅殺して欲しい┅┅うう、う┅┅」
礼奈も思わず流れ落ちそうになる涙をこらえて、天井をしばらく見つめていた。
「でも┅┅彼が、絶対そうしないってことも┅┅分かっているのよね?┅┅」
顔を手で覆ってうめくように泣きながら、真由香は小さく二度頷いた。
「そっか┅┅結局、カギになるのは┅┅彼の┅┅」
礼奈はそうつぶやくと、立ち上がって向かいの真由香の側に歩み寄った。そして、まだ泣いている真由香の横に座って、優しく彼女の肩を抱いた。
「これは、わたしの個人的な考えなんだけど┅┅」
真由香はようやく涙を拭きながら顔を上げた。礼奈は言葉を続けた。
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