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第42話 ソロモンの軍団
しおりを挟むーーーシャムシール、アルファス、レライエの《シマー》コンソールを特定。
《シマー》メインサーバーから切り離し、私との接続完了しました。
今後彼等は、《シマー》メインサーバーの干渉を受ける事なく活動可能です。ーーー
[わかった。彼等のデータを全て見せてくれ。]
『見せる』とは言ったが、実際はインストールだ。
嶋はモルテやシャムシール達の大陸での戦闘データを、『アリサ』を経由してインストールさせていた。
モルテ達は最前線で戦っていたが、それはどちらかと言えば人類側に立っての戦闘だった。
韓国軍に対しては兵士への直接攻撃を行っていたが、中国軍に対しては兵士への攻撃を、まったく行っていなかった。
モルテ達だけでなく、他にも人類側への攻撃は行わず、《シマー》軍への攻撃を行っているグループが、多数確認も出来た。
その事について嶋は、モルテ達に質問をした。
「他のPK達と、自分の国が攻撃されてるって気付いたユーザー達ですね。
一応は僕達と連携はしてるチームもいましたが、奴等には本物の軍隊がいて、ほとんどが数に押されて…。」
「君達は、なぜBANされないのだ?」
チート行為やプレイヤー・キラー等、ゲームを楽しむユーザー達への妨害行為を行うユーザーは、運営側から『BAN』と呼ばれるアカウント停止やアカウント消去の制裁をされる場合があるのだが、モルテ達は制裁を受けてはいなかった。
「僕達だけでなくて、他の連中もBANされてませんよ。
理由は僕達もわかりません。」
「君達だけでなく、他のPK達も日本へ来てるのか?」
「来てました。中国、韓国のユーザーもいました。」
[『アリサ』、美保子を呼んでくれ。]
《シマー》がどの様な仕様になっているのか、美保子に詳しく聞く必要があった。
中国での戦闘で味方である《シマー》軍を攻撃してもBANされず、破壊の限りをつくされた朝鮮半島と中国のユーザー達もいたならば、《シマー》コンソール単体を破壊しても、《シマー》軍が消滅しない可能性があるからだ。
それに、たまたま《シマー》コンソールが破壊されなかったとしても、通信手段がない筈だった。
それなのに実体化して現れている。それは《シマー》に何かの秘密がある様に思えていた。
ーーー美保子様は、マスターと同等の天才です。
マスターに隠し事ではなく、天才であるが故に、画期的な発明も御本人には気にもとめない程度の事なのだと推察されます。
マスター自身、同様な事象は多数存在しております。ーーー
[そんな事あるのか?俺にも?]
嶋で言えば、ナノマシンの能力だった。
嶋のナノマシンは人体1体分のナノマシンで、原子力発電機1機の1割もの電力を発電している。確かに戦闘ともなれば、相当量の電力エネルギーを消費してしまうが、通常生活ならば消費量は微々たる物で、例えば嶋1人の発電量では5万世帯程の電力を賄える程の発電力が有った。
電力業界で言えば、世界中の電力会社が倒産してしまうレベルの発明ではあるが、嶋はそれ程の電力を発電しているにも関わらず、『アリサ』から指摘された時も
「あぁ、そうなんだ?」
で終わっていた。嶋はCPU工学以外にまったく興味を示さず、それに付随した発明も、『おまけ』程度にしか考えていなかったし、美保子も同様だった。
程なく美保子も『海岸』に現れ、嶋はモルテ達に紹介した。
「私の妻の美保子です。彼女が《シマー》開発者です。」
モルテ達は驚き過ぎて声も出せなかった。
嶋は美保子にモルテ達の事を説明し、モルテ達がBANされない事と、破壊の限りを尽くされた中国と朝鮮半島のユーザー達が、今も《シマー》にログイン可能な事に関しての理由と可能性を尋ねた。
「ゲームした事ないから、わからないよ…。」
モルテ達は更に驚いた。《シマー》によってゲームの世界は無限に拡がったが、その開発者がゲームをプレイした事が無いのが信じられなかったからだ。
「ただ《シマー》の強度は、外装がチタンだからかな?
強度はかなりあるから、中のCPUが損傷しない限りは、稼働出来ると思う。
通信は…、ニュートリノかな?衛星もケーブルも、電力も無しで稼働してるとしたら、電力を持ったニュートリノが《シマー》を稼働させてるのかも?
稼働してる個体とニュートリノをやり取りして、稼働電力と通信を可能としてるのかも?
まあ、私は物理学はわからないから本当はどうなのか?わからないけどね。
可能性だね!」
「いい加減だな…。」
嶋は呆れて言ったが、美保子も『アリサ』も、嶋の方がいい加減と思っていたが、嶋には言わなかった。
「あの…。」
モルテが申し訳無さ気に、美保子に質問をした。
「ニュートリノとか、《シマー》は通常のCPUじゃないんですか?」
通常のCPUならば、ニュートリノ発生どころか、まったく関係が無い。
「《シマー》単体は、光量子CPUだよ。」
「!オーバーテクノロジーだ!」
大学でCPU工学を学んているモルテからすれば、《シマー》は既に最先端のCPU工学を超越していると理解が出来た。
「存在してるんだから、オーバーテクノロジーじゃないよ?」
確かにそうではあるが、《シマー》もナノマシンも、それが数百年後としても存在してはならないテクノロジーだ。
その存在の為に悪用され、国をも滅ぼす大虐殺が起きてしまった。
「この戦争を、終わらせなければならない。」
嶋の雰囲気に、モルテ達はただ頷くしか出来なかった。
「君達がこの戦争がゲームではなく、現実だと気付いたのは、朝鮮半島後と言う事だが、なぜその後も参加しているんだ?
拒否しようと思えば、出来るんじゃないのか?事実日本では、参加していないユーザーが多い様に感じる。
なぜ自分の意志で不参加を決めないのだ?
それが私には理解出来ない。」
確かにそうだった。
なぜログインするのか?日本の《シマー》ユーザー達の多数は、ゲーム界の境が取り払われてから怪しげな集団が現れてからは、ログインを控えていたユーザーが多い。
真一や夏菜達もログインを控え、様子を見ていた。
自分の意思で不参加を決められる筈だ。
「信じてもらえないかも知れませんが、僕達に自由はありませんでした。
リクルーター、僕達は『リクルーター』と呼んでるんですが、奴等が現れて誘いに乗った時に、新しいオープン・バースに移動させられました。」
「オープン・バース?それは何だい?」
嶋は『オープン・バース』と言う言葉を知らなかった。
「ここの世界みたいな空間です。
メタ・バースとかオープン・ワールド、マルチ・バースとも呼ばれてます。」
嶋はそれらの名称を聞いた事はあったが
「バーチャル空間は、バーチャル空間だ!」
と、受け入れていなかった。
『メタ・バース』と言う言葉と空間が発表された当時、すでに嶋は『アリサ』を構築し、現実以上の仮想空間を実現させていた。
その為、『メタ・バース』のクオリティが余りにも低すぎる事から、古い呼び名ではあるが、『バーチャル空間』以外の名称を受け入れなかったのだ。
だが嶋は今はモルテ達に合わせ、続きを促した。
「奴等のオープン・バースへ入ってから、侵攻が始まると勝手にログインさせられ、侵攻が終わるまでログアウト出来なくなりました。
侵攻開始時に出掛けていても、部屋に戻った瞬間にログインです。」
[最悪だな…。]
ログインを嫌い、自宅にもどらなかったり、自分の部屋でくつろいだり眠る事が出来ない事は、人間にとっては耐え難いストレスになる。
数日ならば外泊も出来るだろうが、長期は経済的にも限界が来てしまう。
「ログインしても、戦場に行かないとかは出来ないのかな?」
自身のサロンや、オープン・バースに居続ける事が出来れば、戦争に参加せずにすむ。
「出来ません。オープン・バースで数時間待機はあったりしますが、侵攻が開始されれば、強制的に戦場に転送されます。
抵抗出来る事と言えば、PKか戦闘には参加せず後方で隠れている事くらいしかありません。」
嶋は美保子を見た。美保子がそんなシステムを組み込む筈がないと思いながらも、確認をする為だった。
美保子も嶋の思考を読み取り、黙って首を振った。
その後すぐにモルテ達に
「私はそんなシステムを組んでいません。
ユーザーの自由を奪って、殺戮に参加させるなんて、そんなシステムはあってはなりません!」
美保子は《シマー》が乗っ取られた事も伝えた。
「野崎…。名前はわかりませんが、確かにリクルーターの集団に日本人が1人いました。
結構な年齢だったと思います。リクルーター達もその日本人の前では敬礼してましたから。」
野崎に間違いなかった。
『アリサ』は、モルテ達の記憶データから日本人の画像を掘り出し、嶋と美保子へ転送した。
その顔はチェンだった。嶋と美保子がインドで『リサシテイション』開発中だった頃、『チェン』と名乗っていた野崎であった。
嶋と美保子は、『チェン』を無能と評価していた。
それは嶋と美保子からの視点であり、インドへ呼ばれた以上は、一般的以上である天才の部類で間違いはなかった。
「インドに呼ばれてた以上は、やはり天才ではあったんだね。」
天才ではあったが、一般的な天才であり文化や文明を変化させてしまう程の天才ではなかった。
なかったが故に、嶋や美保子の発明に嫉妬しながらも、利用する事しか出来なかったのだ。
美保子とアリサが実体化した後のセキュリティーの穴を利用し《シマー》サーバーを掠め取り、その掠め取ったサーバーに嶋の開発したセキュリティー・ウォールでロックを掛ける。
文化文明をも変えてしまう程の嶋と美保子に出会った事によって、それまでの自信は砕け散り、元々が公安警察官と言う人を信用せず、騙し、監視し、ある程度近しくなった者すらをもなんの感情も抱かずに裏切れる捻れた性格が、更に卑屈さを増大させていたのだ。
卑屈な人間が世界をも変え得る文明を手に入れた時に考えつく事は、誰も同じ。
世界征服だった。
だが、1人で世界征服を目指す器量もない野崎は、同じく卑屈な大統領を利用した。
有能な政治家が少ない時代に大統領になったタイラーは、国民から次の時代までの間に合せ大統領と呼ばれていたのだ。
それを気にしていたタイラーに野崎は近付いたのだ。
それからアメリカの敵国への壊滅作戦が始まった。
「最初の内はすべてのゲームユーザーが、同一のオープンバースでプレイ出来るって話だったんだけど…。」
モルテ達は表情を曇らせた。
確かにあらゆるゲームの装備のユーザー達が集まり交流していたが、やはり統一性がないためか混沌と化していった。
やがてその混沌に付け入る様に、『マスター』を名乗る集団が現れた。
「奴等はそのオープン・バースの運営者を名乗り、ユーザー達をまとめ始めたんだ。
特に現実世界に不満や絶望していた人をそそのかして、過激なグループをつくり出したんだ。
現実世界で身体的ハンデキャップを持ち、差別に晒されて来た人達をそそのかし、ロシアや中国に濡れ衣を着せられ政治犯に仕立て上げられた人達を取り込み、従軍によってPTSDを負った兵士達を取り込んで行ったんだ。
僕達は不信感しかなかったんだけど、ある日ゲームの準備が整ったと言われて送り込まれたのが、韓国だったんだ。」
シャムシール達も、苦々しい顔で頷いた。
「現実の韓国を攻めていた事に、僕達は気づけなかった。
現実で人を殺していた事に、気付けなかったんだ!」
『アリサ』や《シマー》の創り出す世界は、現実とまったく見分けが付かず、更にゲーム世界のままで現実世界で活動出来るナノマシンの存在を知らなければ、誰にもそれが現実だとは気付かなかっただろう。
嶋はモルテ達だけでなく、野崎とタイラーに踊らされたユーザー達を被害者として捉え、申し訳なく思っていた。
「ログアウトしてから、韓国の惨事を知ったんだ。
それから僕達は《シマー》をゲームコンソールから外したんだけど…。」
「関係を断つことが、出来なかった?」
嶋の問いに、モルテ達は黙って頷いた。
「ニュートリノとブロックチェーンだね…。」
光量子CPUである《シマー》コンソールからは、常にニュートリノが出入りしている。
そのニュートリノが稼働エネルギー供給と通信を可能とさせていた。
物理学においては、電子ニュートリノにあたるが、理論だけで実際に発見はまだされていなかった。
《シマー》の発生させる電子ニュートリノと嶋のナノマシンがあれば、世界のエネルギー問題やECO問題は、一気に片付いてしまうが、それに気付く前に既に軍事利用されてしまった。
モルテ達は《シマー》に抵抗は試みたが無駄に終わり、強制ログインさせられた挙句、更に強制的に戦場へと送られた。
唯一抵抗出来たのは、プレイヤー・キラーとしての行動だった。
自身も不死の兵であり、同じ《シマー》兵へ攻撃し倒す事も出来た。
ならばモルテ達はプレイヤー・キラーとして、《シマー》兵を攻撃するだけだった。
そんなモルテ達と同じ思いを抱いた者達は、自然とモルテ達と同じく《シマー》兵達への攻撃を始め、やがてお互いに気付き、連携する様になっていった。
「僕達は元々プレイヤー・キラーだったけど、韓国戦からプレイヤー・キラーに転身したユーザーは、たくさんいました。
僕達と連携したユーザーは50人くらいでしたけど、他にも反《シマー》ユーザーの大隊規模のチームが結成されたって、連携したユーザーが言ってました。」
大隊規模ならば約500名程だが、実際の戦闘経験者ならば日本には心強い。
「連携してるユーザーや、その大隊と連絡は取れるのかい?」
「取れます!」
[『アリサ』彼等のナノマシンを。]
モルテ達は嶋のナノマシンを与えられ、嶋と共に現実世界への戦場へ戻り、
美保子もニュートリノ検出へと戻った。
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