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ぼくたちのためのレシピノート
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その時、彼の連れの女性からいい匂いがしたことを覚えている。彼女の趣味はアロマで、その匂いがジャスミンだと知ったのはもっとあとのことだ。
その時はただ、女性というのはずいぶんいい匂いがするものだと驚き、また、そんな匂いをいつも嗅いでいられる星野響はなんて恵まれた男だろうと思った。
共通点がいくら多くても、相違点がこれじゃあ、神様も不公平すぎるというものだ。といっても、この世界が不公平にできているということはもうずっと前から知っている。そのことでなんだかんだ言われても神様も困るだろう。公平とか不公平とか、幸せとか不幸せとか、そういうことはあまり考えないほうがいい。考えてもどうせ無駄だし虚しくなるだけだから。
それでもやはり、目の前に幸せそうな人たちが現れると心は揺れる。どうして自分はあんなふうになれないんだろうと、悲しくなる。
もう二人に会いたくなかったので、部屋に帰るとすぐに着替えて近所の図書館に行った。
職場の図書館よりもこぢんまりとしていて蔵書も少ないけれど、そのぶん、利用者も少なくて落ち着けるところが気に入っている。
図書館は開いたばかりで、まだ空いていた。しかし、他に行き場がない人々が既に大きな荷物を床に置いて椅子に陣取っている。
まだ小さい頃、ぼくは彼らと自分は違うと思っていた。
でも今は違う。一人暮らしを始めてから考えが変わった。
病気になったり、働けなくなったりしたらどうなるだろう。ぼくにだって、誰にだって、家を失う可能性はある。だから、ぼくたちと彼らは違わない。
そして、誰にとっても、雨風と暑さ寒さをしのげる図書館という場所は必要だ。これまでも、これから先もずっと。
大きなテーブルで本を読み始めると、しばらくして隣に座っていた男性が、「ねえ」と声をかけてきた。
「何か書くもの持ってない?」
彼は手ぶらで来たようで、荷物を持っていなかった。三十代だろうか。上下ジャージ姿だが顔立ちは整っており、人懐っこいくしゃっとした笑顔が印象的だ。
平日の午前中にこの格好で図書館にいるなんて、どんな仕事をしてるんだろう。あるいはしていないんだろうか。
ぼくはリュックサックからペンケースを取り出した。
「ボールペンでいいですか?」
「うん、いいよ」
彼はボールペンを受け取るとにっこり笑った。
「メモ用紙とかもある?」
ぼくはメモ帳を取り出して一枚破り、テーブルに置く。彼はそれを持って腰をあげた。
「ちょっと借りるね」
彼はスマートフォンを握って小走りに図書館から出ていって、十分ぐらいたってから戻ってきた。
「ありがと」
そう礼を言ってきた彼は、軽い足取りで立ち去った。ボールペンは返ってこなかった。
その日、ぼくが言葉を交わしたのは、星野響と新木ゆりとボールペンを貸した男だけだった。大学では誰とも話さなかった。
学校で誰とも話さないのには慣れている。
中学生の頃から、ぼくには友達というものがいない。
別にいじめられていたわけではない。ただ、孤立していた。勉強もできたし、スポーツもそこそこできた。でも、人とコミュニケーションをとることが苦手だった。自分から話しかけることができないし、話しかけられても黙り込んでしまって会話にならない。
そのうちぼくは人と向き合うことを諦めてしまったし、周囲の人々もぼくを放っておくことにしたみたいだった。
いじめられなかったのは、ぼくが授業のノートを代償なしにみんなに貸してあげたからだろう。会話をする必要はなかった。
「今川、英語のノート見せて」
そう言われれば、黙ってノートを差し出した。
ぼくのノートは宿題をしていない男子生徒や女子生徒たちの手に渡り、彼らのノートに写された。
そういうのが、中学、高校と続いて、そして大学でも繰り返されている。
「嫌じゃないの?」
男子生徒にノートを貸したぼくに、そう訊ねた女の子が過去に一人だけいた。
中学三年生の時のクラスメイトの佐々木清香だ。
ぼくが無言で首を横に振ると、彼女は大人びた静かな表情でただじっとぼくを見つめた。そして、ポケットから何かを取り出してぼくの机の上において立ち去った。
それはキャラメルだった。
ぼくはその時だけなんだか泣きそうになって、誰かに奪われないようにすぐに手に取ってポケットにしまった。
そのキャラメルは食べることができなかった。大事に、お守りのようにいつも学生服のポケットに入れたままにしておいた。
しかし、いつの間にかなくなってしまった。なくなったことに気づいた時はとても悲しかった。
それからというもの、ぼくの好物はキャラメルになった。
今でもキャラメルをいつも、いくつかポケットにしのばせている。
孤独を感じると、ぼくはポケットに手を入れて、それをぎゅっと握りしめる。
新木ゆりがぼくの部屋のドアを激しく叩いたのは、それから数日後の日曜日の午後三時過ぎだった。
「すみません! すみません!」
めちゃくちゃに叩かれているドアの音と取り乱した女性の声に、ぼくの心臓はぎゅっと縮み上がった。
その時ぼくは、ラジオを流しながら、スパークスの『きみに読む物語』を読んでいた。
「今川さん! ゆりです! 助けてください!」
ゆり。新木ゆり。
以前会った彼女の、清楚でおとなしそうな外見からは想像がつかないほどの大声だった。
助けて、という言葉に、本を放り出して、足をもつれさせながら玄関に向かった。
ドアを開けると、ピンク色のカーディガンにデニムパンツ姿の彼女が床にしゃがみこんでいた。
一瞬、星野響に暴力でもふるわれて助けを求めてきたのかと思ったぼくは、隣のドアにさっと視線をやった。
「響が出てこないんです」
「……え」
「昨日の夜から電話に出ないし、今も部屋の中にいるはずなのに開けてくれないんです」
状況がのみこめなかった。
星野響と昨夜から連絡がとれない……ということは、何か問題なのだろうか。こんなに取り乱すぐらいに。
彼女は立ち上がり、ぼくの手首を掴んだ。驚くほど強い力だった。
「大家さん……の電話番号、教えてください。鍵、開けてもらわないと」
「……え」
そんなこと、していいのか?
「はやく!」
彼女が声を荒らげた時、かちゃりと隣のドアが開いて、星野響が顔を出した。
彼はこちらを見て、呑気に手を振った。
気がつくと、新木ゆりは瞬間移動したみたいに既に彼の腕のなかにいた。
「ごめん」
星野響はそう謝った。
「大丈夫?」
彼女は胸にすがりつきながら彼を見上げている。
「寝てた」
「本当に? 寝てただけ?」
「本当だよ」
あくびをした星野響がよろけて、彼女が支えきれずに二人はアパートの廊下に倒れ込んだ。顔だけこちらに向けた彼は笑いながら口を開く。
「めまい……寝過ぎ」
手を貸さないわけにはいかなかった。ふらふらしている星野響に肩を貸して、彼の部屋の中に入る。
風がすっと耳の横を通った。白いカーテンが風を抱いて大きく翻っている。大きな観葉植物の葉も揺れている。小鳥のオブジェが本棚のあちこちで囀っていた。聴こえない声で。
物は少ないが殺風景ではなく、温かみのあるいい部屋であることは、ぼくにもわかった。
壁には無数の写真が貼られていた。風景や人、花やオブジェ……すべて彼が撮影したのだろう。ゆりさんの写真もあった。
風邪? 熱は? 一応薬飲んでおいたら?
などという二人の会話がきれぎれに聞こえてくる。二人は小声で話をしていた。
「じゃあぼくはこれで……」
ぼくが退散しようとすると、また瞬間移動したかのように、今度はぼくの横に彼女がいた。
「お騒がせしてしまってすみません。お詫びにお茶を飲んでいってください」
「いやそんな……」
「響、この前のクッキーまだあるよね?」
「あるよ。食器棚の一番上見て」
「オッケー」
早くこの場から立ち去りたいぼくを引き止めて、電気ケトルにお水を入れているゆりさんが、「座っててください」と笑った。
ゆり、という綺麗な響きの名前があまりにも彼女に似合っていたので、自然と心の中で下の名前で呼んでいた。ぼくにしてみれば、極めて珍しいことだ。
ぼくは彼女に返す言葉が見つからず、しかたなくローテーブルの前に腰をおろした。
星野響はベッドに横になって目を閉じている。そしてそのまま口笛を吹き始めた。聴いたことのないメロディだ。それにあわせてゆりさんも綺麗な口笛を吹いた。
二人の美しい口笛の音で室内が満たされる。二匹のカナリアが部屋にいるみたいに。
観葉植物をぼんやり見ていると、「ブーゲンビリアです」と口笛をやめたゆりさんが言った。
「引っ越し祝いにわたしがプレゼントしたんです」
ブーゲンビリアという、鮮やかな濃いピンクの花のような葉が印象的な植物は、部屋をとても華やかに彩っている。それは、二人の幸せな関係を象徴しているようにぼくには見えた。
彼女は皿に黄色いペーパーナプキンを敷いて、その上に桜の形をしたクッキーを綺麗に並べてローテーブルに置く。それから、透明のお茶を出してくれた。底に何か沈んでいる。
「それは桜の花です。桜茶っていうんですよ」
塩漬けした桜の花を使っているらしい。だからほんのりしょっぱい味がするのか。
こんな洒落たものを飲むのは初めてだった。とても上品なものを飲んでいる気がする。もちろん、おいしい。
クッキーを齧ると、懐かしい味がした。
「それ、彼女の手作りなんです」
と星野響がゆりさんを見ながら言った。
道理で懐かしい味がするわけだ。母親が昔作ってくれたクッキーと同じ味がする。見た目はこちらのほうがずっと洗練されているけれど。
若い女性が作ったお菓子を食べるのは生まれて初めてだったことを思い出して、噛みしめるようにして食べた。
そんなぼくを見ながら、「お花見はしました?」とゆりさんが訊ねてきた。
ぼくは首を横に振った。桜は見たが、お花見はしていない。一緒にお花見をする人がいない。
「じゃあ、しましょうよ」
ゆりさんはそう言うけど、既に近所の桜は咲き終わり、葉桜になっている。そんなぼくの心の声が聞こえたかのように、彼女は微笑んだ。
「葉桜だっていいじゃないですか。桜は桜です」
「桜は桜か。名言だね」
そう星野響が頷いた。
「いつにしましょうか?」
ゆりさんは卓上カレンダーを見て言う。
葉桜見物に行くことに決まってしまったのか?
「今夜は?」
ゆりさんが星野響に訊ねた。
「響の具合がいいなら」
「いいよ。今夜は今川さんも仕事ないですよね」
彼はぼくのシフトをチェックしてるのか。
ぼくの驚きをよそに、二人はどんどん話を進めていく。
「何か食べ物、用意しないとね。何がいいかな」
そう言う星野響の顔色はいつの間にかよくなっている。なんだかとても楽しそうだ。
どうせなら恋人と二人きりで行けばいいのに。
こんなお邪魔虫がついていくのに、どうしてそんなふうに笑っていられるんだろう。
「ハンバーガー」
ゆりさんがぴっと人差し指を天に向けて、にっこりしながらそう言うと、星野響は苦笑いを浮かべた。
「またそれ?」
やれやれといった表情で彼はぼくに説明する。
「ゆりの得意料理なんです」
そうなんですか、とぼくはもごもごと小声で言った。
「まあ、外でも食べやすいし、ハンバーガーでいいか」
「何その言い方。わたしのハンバーガーは手作りだから貴重なんだよ」
ゆりさんは口をとがらせて星野響に異を唱え、それからぼくに向かってにっこり笑ってみせた。赤面しそうだったので慌ててぼくは俯いた。
材料を買ってくると言ってゆりさんが部屋を出て行くと、部屋はしんと静まりかえる。
しばらくしてそっと星野響の様子を見たら、口をわずかに開いて寝息をたてていた。
ぼくは何をするでもなく、そっと膝を抱えた。本棚の小鳥を見つめていると、さっきの二人の口笛が耳の奥で甦り、頭の中で流れ始めた。
2 きつねうどん
なんでここにいるんだろう。
大学にいる時、ふと気づくと自問自答している。
親が大学には行けと言ったので、文学部を選んだ。
本が好きで、他のことには興味がないから。
一応、司書資格がとれる大学を選んだ。それぐらいだろうか、大学に求めたものは。
だから、大学のどの講義もぼくには退屈で、無意味で、時間の無駄に思える。
でも欠席することはない。
昔からの癖のようなもので、出席だけはきちんとする。ノートも綺麗に全部とる。
お喋りしたり、スマートフォンをいじったりして授業をきちんと聞かない生徒は、大体後ろの席に陣取る。
だからぼくは、隣に誰もいない前のほうの席をいつも選んで座っている。
真面目に授業を聞き、ノートをとるぼくのことは、後ろにいる不真面目な学生たちの目に当然留まることになる。
だからいつも、試験前になると、
「ノート、コピーさせてくれない?」
と彼らから頼まれる。
たいてい数人でやってくるのだが、彼らだけでなく、おそらくぼくが知らない他の学生たちの間でもぼくのノートはコピーされていることだろう。
高校までと違って、彼らの顔と名前が一致していて毎日教室で顔を合わせるわけではないから、ノートごと貸してしまえば、いつ帰ってくるかわかったものではない。
試験前に、一生懸命とった自分のノートが紛失するという悪夢だけは防がなくてはならなかった。
だから、ぼくのノートをコピーさせてくれと、大学に入ってから初めて頼まれた時、ぼくはコピー機まで彼らについていって、終わるとすぐにノートを返してもらった。
コピーしている間、彼らは特にぼくに礼を言うでもなく、気を使って話しかけてくるでもなく、自分たちの内輪の会話で盛り上がって完全にぼくを無視していた。まったく一言も話しかけずに。
そういう扱いをしてもいい人間、と彼らに判断を下されたのだろう。
これまでだってずっとそうだったから、特別腹は立たなかった。ただ、ぼくにとってはなんの得もなく、無意味で、気まずく、時間の無駄だった。
きっとこの様子を目にした学生たちには、ぼくはばかみたいに見えたことだろう。
加えて、彼らは急ぎもせずに、仲間たちとのお喋りに夢中で、だらだらと時間を気にせずにコピーした。
すぐそばで、彼らのコピーが終わるのをじっと待っているぼくのことなんて、微塵も気にかけていない様子だ。
腹は立たなくても、さすがにうんざりした。
こんなことはもうたくさんだ。
そう思ったぼくは、次の試験前には、試験範囲のノートのコピーを事前に自分でコピーして、クリップでまとめて用意しておいた。
そして、(おそらく)前と同じ学生たちが、
「ノート、コピーさせてくんない?」
と当然の権利みたいな顔つきで、へらへら笑いながら言ってくると、用意しておいたノートのコピーの束をリュックサックから取り出した。
「あなたのお名前を訊いてもいいですか?」
ぼくはノートをコピーさせてくれと言った男子学生に訊ねる。
「え? あ……タガワだけど」
その男子学生は、ぼくの手に握られているコピーの束に目を奪われながらぼそっと答えた。
タガワ。
「下の名前もいいですか?」
「ヨウジ。タガワヨウジ」
タガワヨウジ。
頭の中で繰り返す。
「これがノートのコピーです。返さなくていいですから、これを皆さんでコピーしてください」
彼のすぐ後ろでスマートフォン片手にお喋りしている男女たちをちらっと見ながら言うと、タガワヨウジは頷いた。
「あんがと。用意いいね。助かる」
彼はコピーの束を手にすると、もうぼくに用はないというように、さよならも言わずにさっさと連れの友達と立ち去った。
自分の名前を訊かれたら、普通はなぜ名前を訊かれたのか気になるだろう。でも、彼は理由を訊ねることなく、簡単に名前を教えてくれた。そしてぼくの名前は訊ねなかった。
とにかくノートが手に入ればそれでいいわけだ。
それに、別に名前なんてぼくに知られてもなんの害もないと、一瞬で判断したに違いない。
ぼくは彼らがいなくなると、メモ帳に、
『ノートのコピー→フランス文学のタガワヨウジ』
と書いた。
フランス文学の講義で一緒のタガワヨウジにノートのコピーを渡したことが、これでいつでも確認できる。
その翌週のフランス文学の授業が終わると、今度は別の学生がぼくのところに来て、
「あのあのー、よかったら、ノート貸してくれませんかぁ?」
と言ってきた。
声の主はえらく短いスカートを穿いた髪の長い女子学生だった。
ぼくはさっと講義室の後ろのほうを見まわして、ある場所を指差した。
そこにはタガワヨウジとその仲間たちがいた。
「あそこに、タガワヨウジという人がいるんで、その人からノートのコピーを受け取ってください」
そう、ぼくはその女子学生に言った。
「え……タガ……」
「タガワ、ヨウジ。ぼくのノートをコピーしたものを彼に渡したので、説明すれば伝わると思います」
女子学生は一瞬、きょとんとした表情を浮かべた。
「……え、あぁ、そうなんですね。わ……かりました。ありがとです」
彼女は面白いものでも見るような目つきでぼくの顔をじいっと見てから、にこっと八重歯を見せて笑った。そして、小走りでタガワヨウジたちがいる方へ行った。
すぐに立ち去ろうと思ったけれど、やっぱり気になって、彼女がタガワヨウジに話しかけるのを見守った。
彼女がタガワヨウジに話しかけて、振り返ってぼくを指差した。
タガワヨウジは目を細めて、『は?』とでも言いたげな顔をした。
ぼくも、は? と思った。
まさか、もうぼくの顔を忘れたのか?
けれど、しばらくしてから、『ああ』というような表情をタガワヨウジは浮かべて、笑顔でべらべらと彼女と喋り始めた。
彼はちらちらと、短いスカートから伸びている彼女の足を見ていた。
和気藹々とした雰囲気の彼らを見て、ノートのコピーは無事に彼女の手に渡るだろうと判断すると、ぼくはそっと講義室をあとにした。
その時はただ、女性というのはずいぶんいい匂いがするものだと驚き、また、そんな匂いをいつも嗅いでいられる星野響はなんて恵まれた男だろうと思った。
共通点がいくら多くても、相違点がこれじゃあ、神様も不公平すぎるというものだ。といっても、この世界が不公平にできているということはもうずっと前から知っている。そのことでなんだかんだ言われても神様も困るだろう。公平とか不公平とか、幸せとか不幸せとか、そういうことはあまり考えないほうがいい。考えてもどうせ無駄だし虚しくなるだけだから。
それでもやはり、目の前に幸せそうな人たちが現れると心は揺れる。どうして自分はあんなふうになれないんだろうと、悲しくなる。
もう二人に会いたくなかったので、部屋に帰るとすぐに着替えて近所の図書館に行った。
職場の図書館よりもこぢんまりとしていて蔵書も少ないけれど、そのぶん、利用者も少なくて落ち着けるところが気に入っている。
図書館は開いたばかりで、まだ空いていた。しかし、他に行き場がない人々が既に大きな荷物を床に置いて椅子に陣取っている。
まだ小さい頃、ぼくは彼らと自分は違うと思っていた。
でも今は違う。一人暮らしを始めてから考えが変わった。
病気になったり、働けなくなったりしたらどうなるだろう。ぼくにだって、誰にだって、家を失う可能性はある。だから、ぼくたちと彼らは違わない。
そして、誰にとっても、雨風と暑さ寒さをしのげる図書館という場所は必要だ。これまでも、これから先もずっと。
大きなテーブルで本を読み始めると、しばらくして隣に座っていた男性が、「ねえ」と声をかけてきた。
「何か書くもの持ってない?」
彼は手ぶらで来たようで、荷物を持っていなかった。三十代だろうか。上下ジャージ姿だが顔立ちは整っており、人懐っこいくしゃっとした笑顔が印象的だ。
平日の午前中にこの格好で図書館にいるなんて、どんな仕事をしてるんだろう。あるいはしていないんだろうか。
ぼくはリュックサックからペンケースを取り出した。
「ボールペンでいいですか?」
「うん、いいよ」
彼はボールペンを受け取るとにっこり笑った。
「メモ用紙とかもある?」
ぼくはメモ帳を取り出して一枚破り、テーブルに置く。彼はそれを持って腰をあげた。
「ちょっと借りるね」
彼はスマートフォンを握って小走りに図書館から出ていって、十分ぐらいたってから戻ってきた。
「ありがと」
そう礼を言ってきた彼は、軽い足取りで立ち去った。ボールペンは返ってこなかった。
その日、ぼくが言葉を交わしたのは、星野響と新木ゆりとボールペンを貸した男だけだった。大学では誰とも話さなかった。
学校で誰とも話さないのには慣れている。
中学生の頃から、ぼくには友達というものがいない。
別にいじめられていたわけではない。ただ、孤立していた。勉強もできたし、スポーツもそこそこできた。でも、人とコミュニケーションをとることが苦手だった。自分から話しかけることができないし、話しかけられても黙り込んでしまって会話にならない。
そのうちぼくは人と向き合うことを諦めてしまったし、周囲の人々もぼくを放っておくことにしたみたいだった。
いじめられなかったのは、ぼくが授業のノートを代償なしにみんなに貸してあげたからだろう。会話をする必要はなかった。
「今川、英語のノート見せて」
そう言われれば、黙ってノートを差し出した。
ぼくのノートは宿題をしていない男子生徒や女子生徒たちの手に渡り、彼らのノートに写された。
そういうのが、中学、高校と続いて、そして大学でも繰り返されている。
「嫌じゃないの?」
男子生徒にノートを貸したぼくに、そう訊ねた女の子が過去に一人だけいた。
中学三年生の時のクラスメイトの佐々木清香だ。
ぼくが無言で首を横に振ると、彼女は大人びた静かな表情でただじっとぼくを見つめた。そして、ポケットから何かを取り出してぼくの机の上において立ち去った。
それはキャラメルだった。
ぼくはその時だけなんだか泣きそうになって、誰かに奪われないようにすぐに手に取ってポケットにしまった。
そのキャラメルは食べることができなかった。大事に、お守りのようにいつも学生服のポケットに入れたままにしておいた。
しかし、いつの間にかなくなってしまった。なくなったことに気づいた時はとても悲しかった。
それからというもの、ぼくの好物はキャラメルになった。
今でもキャラメルをいつも、いくつかポケットにしのばせている。
孤独を感じると、ぼくはポケットに手を入れて、それをぎゅっと握りしめる。
新木ゆりがぼくの部屋のドアを激しく叩いたのは、それから数日後の日曜日の午後三時過ぎだった。
「すみません! すみません!」
めちゃくちゃに叩かれているドアの音と取り乱した女性の声に、ぼくの心臓はぎゅっと縮み上がった。
その時ぼくは、ラジオを流しながら、スパークスの『きみに読む物語』を読んでいた。
「今川さん! ゆりです! 助けてください!」
ゆり。新木ゆり。
以前会った彼女の、清楚でおとなしそうな外見からは想像がつかないほどの大声だった。
助けて、という言葉に、本を放り出して、足をもつれさせながら玄関に向かった。
ドアを開けると、ピンク色のカーディガンにデニムパンツ姿の彼女が床にしゃがみこんでいた。
一瞬、星野響に暴力でもふるわれて助けを求めてきたのかと思ったぼくは、隣のドアにさっと視線をやった。
「響が出てこないんです」
「……え」
「昨日の夜から電話に出ないし、今も部屋の中にいるはずなのに開けてくれないんです」
状況がのみこめなかった。
星野響と昨夜から連絡がとれない……ということは、何か問題なのだろうか。こんなに取り乱すぐらいに。
彼女は立ち上がり、ぼくの手首を掴んだ。驚くほど強い力だった。
「大家さん……の電話番号、教えてください。鍵、開けてもらわないと」
「……え」
そんなこと、していいのか?
「はやく!」
彼女が声を荒らげた時、かちゃりと隣のドアが開いて、星野響が顔を出した。
彼はこちらを見て、呑気に手を振った。
気がつくと、新木ゆりは瞬間移動したみたいに既に彼の腕のなかにいた。
「ごめん」
星野響はそう謝った。
「大丈夫?」
彼女は胸にすがりつきながら彼を見上げている。
「寝てた」
「本当に? 寝てただけ?」
「本当だよ」
あくびをした星野響がよろけて、彼女が支えきれずに二人はアパートの廊下に倒れ込んだ。顔だけこちらに向けた彼は笑いながら口を開く。
「めまい……寝過ぎ」
手を貸さないわけにはいかなかった。ふらふらしている星野響に肩を貸して、彼の部屋の中に入る。
風がすっと耳の横を通った。白いカーテンが風を抱いて大きく翻っている。大きな観葉植物の葉も揺れている。小鳥のオブジェが本棚のあちこちで囀っていた。聴こえない声で。
物は少ないが殺風景ではなく、温かみのあるいい部屋であることは、ぼくにもわかった。
壁には無数の写真が貼られていた。風景や人、花やオブジェ……すべて彼が撮影したのだろう。ゆりさんの写真もあった。
風邪? 熱は? 一応薬飲んでおいたら?
などという二人の会話がきれぎれに聞こえてくる。二人は小声で話をしていた。
「じゃあぼくはこれで……」
ぼくが退散しようとすると、また瞬間移動したかのように、今度はぼくの横に彼女がいた。
「お騒がせしてしまってすみません。お詫びにお茶を飲んでいってください」
「いやそんな……」
「響、この前のクッキーまだあるよね?」
「あるよ。食器棚の一番上見て」
「オッケー」
早くこの場から立ち去りたいぼくを引き止めて、電気ケトルにお水を入れているゆりさんが、「座っててください」と笑った。
ゆり、という綺麗な響きの名前があまりにも彼女に似合っていたので、自然と心の中で下の名前で呼んでいた。ぼくにしてみれば、極めて珍しいことだ。
ぼくは彼女に返す言葉が見つからず、しかたなくローテーブルの前に腰をおろした。
星野響はベッドに横になって目を閉じている。そしてそのまま口笛を吹き始めた。聴いたことのないメロディだ。それにあわせてゆりさんも綺麗な口笛を吹いた。
二人の美しい口笛の音で室内が満たされる。二匹のカナリアが部屋にいるみたいに。
観葉植物をぼんやり見ていると、「ブーゲンビリアです」と口笛をやめたゆりさんが言った。
「引っ越し祝いにわたしがプレゼントしたんです」
ブーゲンビリアという、鮮やかな濃いピンクの花のような葉が印象的な植物は、部屋をとても華やかに彩っている。それは、二人の幸せな関係を象徴しているようにぼくには見えた。
彼女は皿に黄色いペーパーナプキンを敷いて、その上に桜の形をしたクッキーを綺麗に並べてローテーブルに置く。それから、透明のお茶を出してくれた。底に何か沈んでいる。
「それは桜の花です。桜茶っていうんですよ」
塩漬けした桜の花を使っているらしい。だからほんのりしょっぱい味がするのか。
こんな洒落たものを飲むのは初めてだった。とても上品なものを飲んでいる気がする。もちろん、おいしい。
クッキーを齧ると、懐かしい味がした。
「それ、彼女の手作りなんです」
と星野響がゆりさんを見ながら言った。
道理で懐かしい味がするわけだ。母親が昔作ってくれたクッキーと同じ味がする。見た目はこちらのほうがずっと洗練されているけれど。
若い女性が作ったお菓子を食べるのは生まれて初めてだったことを思い出して、噛みしめるようにして食べた。
そんなぼくを見ながら、「お花見はしました?」とゆりさんが訊ねてきた。
ぼくは首を横に振った。桜は見たが、お花見はしていない。一緒にお花見をする人がいない。
「じゃあ、しましょうよ」
ゆりさんはそう言うけど、既に近所の桜は咲き終わり、葉桜になっている。そんなぼくの心の声が聞こえたかのように、彼女は微笑んだ。
「葉桜だっていいじゃないですか。桜は桜です」
「桜は桜か。名言だね」
そう星野響が頷いた。
「いつにしましょうか?」
ゆりさんは卓上カレンダーを見て言う。
葉桜見物に行くことに決まってしまったのか?
「今夜は?」
ゆりさんが星野響に訊ねた。
「響の具合がいいなら」
「いいよ。今夜は今川さんも仕事ないですよね」
彼はぼくのシフトをチェックしてるのか。
ぼくの驚きをよそに、二人はどんどん話を進めていく。
「何か食べ物、用意しないとね。何がいいかな」
そう言う星野響の顔色はいつの間にかよくなっている。なんだかとても楽しそうだ。
どうせなら恋人と二人きりで行けばいいのに。
こんなお邪魔虫がついていくのに、どうしてそんなふうに笑っていられるんだろう。
「ハンバーガー」
ゆりさんがぴっと人差し指を天に向けて、にっこりしながらそう言うと、星野響は苦笑いを浮かべた。
「またそれ?」
やれやれといった表情で彼はぼくに説明する。
「ゆりの得意料理なんです」
そうなんですか、とぼくはもごもごと小声で言った。
「まあ、外でも食べやすいし、ハンバーガーでいいか」
「何その言い方。わたしのハンバーガーは手作りだから貴重なんだよ」
ゆりさんは口をとがらせて星野響に異を唱え、それからぼくに向かってにっこり笑ってみせた。赤面しそうだったので慌ててぼくは俯いた。
材料を買ってくると言ってゆりさんが部屋を出て行くと、部屋はしんと静まりかえる。
しばらくしてそっと星野響の様子を見たら、口をわずかに開いて寝息をたてていた。
ぼくは何をするでもなく、そっと膝を抱えた。本棚の小鳥を見つめていると、さっきの二人の口笛が耳の奥で甦り、頭の中で流れ始めた。
2 きつねうどん
なんでここにいるんだろう。
大学にいる時、ふと気づくと自問自答している。
親が大学には行けと言ったので、文学部を選んだ。
本が好きで、他のことには興味がないから。
一応、司書資格がとれる大学を選んだ。それぐらいだろうか、大学に求めたものは。
だから、大学のどの講義もぼくには退屈で、無意味で、時間の無駄に思える。
でも欠席することはない。
昔からの癖のようなもので、出席だけはきちんとする。ノートも綺麗に全部とる。
お喋りしたり、スマートフォンをいじったりして授業をきちんと聞かない生徒は、大体後ろの席に陣取る。
だからぼくは、隣に誰もいない前のほうの席をいつも選んで座っている。
真面目に授業を聞き、ノートをとるぼくのことは、後ろにいる不真面目な学生たちの目に当然留まることになる。
だからいつも、試験前になると、
「ノート、コピーさせてくれない?」
と彼らから頼まれる。
たいてい数人でやってくるのだが、彼らだけでなく、おそらくぼくが知らない他の学生たちの間でもぼくのノートはコピーされていることだろう。
高校までと違って、彼らの顔と名前が一致していて毎日教室で顔を合わせるわけではないから、ノートごと貸してしまえば、いつ帰ってくるかわかったものではない。
試験前に、一生懸命とった自分のノートが紛失するという悪夢だけは防がなくてはならなかった。
だから、ぼくのノートをコピーさせてくれと、大学に入ってから初めて頼まれた時、ぼくはコピー機まで彼らについていって、終わるとすぐにノートを返してもらった。
コピーしている間、彼らは特にぼくに礼を言うでもなく、気を使って話しかけてくるでもなく、自分たちの内輪の会話で盛り上がって完全にぼくを無視していた。まったく一言も話しかけずに。
そういう扱いをしてもいい人間、と彼らに判断を下されたのだろう。
これまでだってずっとそうだったから、特別腹は立たなかった。ただ、ぼくにとってはなんの得もなく、無意味で、気まずく、時間の無駄だった。
きっとこの様子を目にした学生たちには、ぼくはばかみたいに見えたことだろう。
加えて、彼らは急ぎもせずに、仲間たちとのお喋りに夢中で、だらだらと時間を気にせずにコピーした。
すぐそばで、彼らのコピーが終わるのをじっと待っているぼくのことなんて、微塵も気にかけていない様子だ。
腹は立たなくても、さすがにうんざりした。
こんなことはもうたくさんだ。
そう思ったぼくは、次の試験前には、試験範囲のノートのコピーを事前に自分でコピーして、クリップでまとめて用意しておいた。
そして、(おそらく)前と同じ学生たちが、
「ノート、コピーさせてくんない?」
と当然の権利みたいな顔つきで、へらへら笑いながら言ってくると、用意しておいたノートのコピーの束をリュックサックから取り出した。
「あなたのお名前を訊いてもいいですか?」
ぼくはノートをコピーさせてくれと言った男子学生に訊ねる。
「え? あ……タガワだけど」
その男子学生は、ぼくの手に握られているコピーの束に目を奪われながらぼそっと答えた。
タガワ。
「下の名前もいいですか?」
「ヨウジ。タガワヨウジ」
タガワヨウジ。
頭の中で繰り返す。
「これがノートのコピーです。返さなくていいですから、これを皆さんでコピーしてください」
彼のすぐ後ろでスマートフォン片手にお喋りしている男女たちをちらっと見ながら言うと、タガワヨウジは頷いた。
「あんがと。用意いいね。助かる」
彼はコピーの束を手にすると、もうぼくに用はないというように、さよならも言わずにさっさと連れの友達と立ち去った。
自分の名前を訊かれたら、普通はなぜ名前を訊かれたのか気になるだろう。でも、彼は理由を訊ねることなく、簡単に名前を教えてくれた。そしてぼくの名前は訊ねなかった。
とにかくノートが手に入ればそれでいいわけだ。
それに、別に名前なんてぼくに知られてもなんの害もないと、一瞬で判断したに違いない。
ぼくは彼らがいなくなると、メモ帳に、
『ノートのコピー→フランス文学のタガワヨウジ』
と書いた。
フランス文学の講義で一緒のタガワヨウジにノートのコピーを渡したことが、これでいつでも確認できる。
その翌週のフランス文学の授業が終わると、今度は別の学生がぼくのところに来て、
「あのあのー、よかったら、ノート貸してくれませんかぁ?」
と言ってきた。
声の主はえらく短いスカートを穿いた髪の長い女子学生だった。
ぼくはさっと講義室の後ろのほうを見まわして、ある場所を指差した。
そこにはタガワヨウジとその仲間たちがいた。
「あそこに、タガワヨウジという人がいるんで、その人からノートのコピーを受け取ってください」
そう、ぼくはその女子学生に言った。
「え……タガ……」
「タガワ、ヨウジ。ぼくのノートをコピーしたものを彼に渡したので、説明すれば伝わると思います」
女子学生は一瞬、きょとんとした表情を浮かべた。
「……え、あぁ、そうなんですね。わ……かりました。ありがとです」
彼女は面白いものでも見るような目つきでぼくの顔をじいっと見てから、にこっと八重歯を見せて笑った。そして、小走りでタガワヨウジたちがいる方へ行った。
すぐに立ち去ろうと思ったけれど、やっぱり気になって、彼女がタガワヨウジに話しかけるのを見守った。
彼女がタガワヨウジに話しかけて、振り返ってぼくを指差した。
タガワヨウジは目を細めて、『は?』とでも言いたげな顔をした。
ぼくも、は? と思った。
まさか、もうぼくの顔を忘れたのか?
けれど、しばらくしてから、『ああ』というような表情をタガワヨウジは浮かべて、笑顔でべらべらと彼女と喋り始めた。
彼はちらちらと、短いスカートから伸びている彼女の足を見ていた。
和気藹々とした雰囲気の彼らを見て、ノートのコピーは無事に彼女の手に渡るだろうと判断すると、ぼくはそっと講義室をあとにした。
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