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間章 I
選択
しおりを挟む「どちらにしますか」
俺は真剣に考えている。
俺の楽を取るのかはたまた、己の成長に繋げるのか、
遂に俺の選択肢は決まった。
やっぱり戦場ではチャンスを逃すのはいけないと考えてカインを退場する事にした。
「分かりました
では明日、朝の8時から残り4人で始めます」
「悪いな……明日も付き合わせて」
「いえいえ、これは命令ですので」
「本当っ私を倒してくれれば、明日からは休憩だったのに!
でも本番はここから、逃げんなよ」
ピムスが俺に向かって挑発的な態度を取る。
2人は調子に乗らないと死ぬ生物なのかってくらい人を煽る。これのどこがルイスに気に入られたのかさっぱりわからない。
「とは言え、飯なしはキツイな……
ベットは使えるけど、水だけじゃ早く終わらせんと持たないな」
その予感は想像よりも早く的中する事になる。
あれ……
全くだ。
全く攻撃が上手くいかない。
集中出来ていない、攻撃が丸見えで動きも遅い。
俺は間違いなく体力が回復していない。
前よりも2人に煽られる。しかも煽られて自分が返せる言葉もない。昨日までの自信は完全に消えていた。
それなら、ピムスを退場させておけばよかった。
「くそ、これはかなりまずいな」
まず俺が動けない、足の速い2人のスピードにはまず追いつけないしメリムもまだ何もしている様子はない。
「狙うなら、やっぱ動きが遅いハインからだな」
それでも俺よりは速い。
でもハインもストロングポイントの感知は俺の不調によって実質無いものだ。
今日は何とかハインだけでも倒そう。
昼過ぎても全然上手くいかなかった。
入学を来年に控えているのに、この体たらく。
俺は自分が本当に何も出来ないと言う事を思い知った。
1発でも当てれば良い。
そんな俺の為にあるようなルールでも俺は満足に戦えることが出来ない。
そんな自分が情け無くて、それでもハインにはあと少しで届きそうだった。
「追いつける……よし」
この距離なら今の俺の力でも確実に攻撃を当てることができる。
「今日はこれで満足……だ」
俺が攻撃を放とうとした瞬間、アルマーが果敢に俺の近くに来て、トンッと俺を少し押した。
少しだけ照準がズレる。
追尾は弾速も遅くなるし、集中も必要となる。
だが、そこの甘えが仇となった。
周りに集中出来ていなかった。
俺は目の前のたった1人の事だけしか見えていなかった。
「にっ どうだあ!見たか!カイン!
これがカインに出来るのかあ」
「凄いですね、流石は体力バカです」
「何?何だとお……」
アルマーはいつもとは違う、煽りの無い素直な笑顔で喜んだ
俺だけは地面に打ちひしがれていた。
(絶好のチャンスを逃した……もう駄目だ終わらない)
目の前に見えた一筋の光は一瞬にして暗闇へと飲み込まれていった。
俺はひどく絶望する。
それに、追い打ちをするかのように強めの雨が降ってくる。
「皆んな雨が強くなって来ました、一刻も早く戻って来て下さい」
カインがそう言うと、皆んなは続々と家に入るが俺だけは逆に家から遠ざかっていく。
「どうしたのですか、風邪をひいてしまいますよ」
恐らく皆んなには風邪をひいた事で看病してもらって回復する作戦だと思ったのだろう。
でも俺はそんな事ではなかった。
今は少しだけ、この雨に浸ろうと思った。
この雨は俺の感情だ。
昨日は雲一つない快晴だった。
今日は朝は晴れ、けれど昼を過ぎるごとに少しずつ雲が暗くなっていった。
雨に打たれ冷静になって、出た答えは開き直りだった。
本当に情けない───
「どう考えたって1人で6人なんて無理だったんだよ
2人倒せただけ十分……俺にしては上出来
……じゃねえんだよ」
じゃあ戦場でも俺は敵を倒せないからって放置するのか?
そして、街に被害をもたらすと言うのか。
それを俺は俺のせいじゃないと見ないふりをするのか?
全部俺が引き起こした事なのに?
「いや、でもそれとこれは違うよな、
これはルイスが始めた事だし
俺、巻き込まれだよ…」
俺は少しずつ考えをいい方向に変えてしまう。
俺は昔からよく考える人だって言われるけど、そりゃ全部が全部って訳じゃあ無いけど、大体は俺の都合のいい事を想像して勝手に自己満足してるだけの夢想男だ。
「変わらないな……俺は、強くなったと思ってもまた次の壁にぶち当たったらすぐに昔に戻る。
結局人は簡単には変われない、その時の覚悟では俺の長年かけて積み重なった負債はなくならないんだ」
俺はやっぱ、1人で自分の好きな事して、死んだらリセット、それが俺にとっての幸せだったのかもしれない。
「本当に風邪をひいてしまいますよ
せめて雨を凌ぐくらいして下さい」
そう言って、カインは俺のそばに来て、魔法で雨宿りをする。
カインは近くで見ると本当に美しい。
白い髪の毛が肩にかかって、部屋着も埃汚れ一つのない美しさを保っている。
これで強くて、礼儀正しいなんて……
「どうして、俺にそこまで優しくしてくれるんですか
ここにいる人は皆んなルイスの事が好きなんじゃないんですか?」
その質問には少し戸惑いながらも少し納得した様子で続ける。
「アルマーや他の大体の方はそうですね……」
その言い方だと違う人もいるのか。
それはルイスが少し可哀想かもしれん。
「私は、弱き人を助けるのが強き者の役割だと、両親に言われて育って来ましたので、フェル様はその理念からは逸れる方ですので、
ですが、私が友人に騙されて殺されそうになった時に助けてくれたのです。
その時に、代わりとして俺のそばにいて欲しいと言われたので、
フェル様の事を好いていると言うよりかはもっと知りたいと言う感情が強いですね」
逆パターンだった。
ルイスの方が好きなのかもしれない。
でもルイスを知ってしまったら、カインは離れてしまうかもしれない。
「変わってる人ですね」
「いろんな人に仲良くなるとよく言われます
ちょっと想像してた人と違ったと」
正直俺もその中の1人である。
彼女は誰かを守る為には自分が完璧であれば良いと考えていた。それが強き者のの役目だとずっと信じ続けていたから。
その為に誰に対しても真摯に対応をする。
飽きない探究心も頷ける。
だが、俺は完璧である必要はないと思う。
「これはさ、俺の人生論だけど…」
「何でしょうか」
「もう少し気楽にした方がいいと思うよ、1人で全てを抱えるのはさやっぱり辛いんだよ
俺もさっきまで1人にしてくれって思ったけど、カインさんが来てくれて、すごく嬉しかった
だから、人はさ、1人でやるには限界があるんだ」
「何を言ってるんですか、1人がいいと言ったのはあなたの方では無いのですか?」
図星だ。
助けに来てくれたのに、この話をするのはなんか変だけど何か変わるきっかけになるかもしれない。
でも俺はやっぱり1人は駄目だ。
仲間が欲しい。
対等と呼べる仲間が欲しい。
「違ったら悪いんだけど、さっきの死にかけた話、友人じゃないでしょ」
「どうして……」
「分かるんだよね、何でだろうね
周りは見えないけど、本心じゃない嘘ってのは分かるもんなんだよね
依頼詐欺、合ってるでしょ」
依頼詐欺、これは新たな世界で一番長く生きた世界でよく合った事だ。
女性冒険者を招待し、待ち伏せをして誘拐。
そして、人身売買。
無駄にこれまでの人生を過ごした訳じゃない。
「優しくするのも、義務感でやってるならもう戻って大丈夫です。その優しさは自分も人も傷つけてしまうかもしれないですから」
「ありがとうございます
では、私は戻ります
出来れば早く戻って下さい
後、特訓は今日で終わりです、フェル様が明日の早朝に帰ってくるので」
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