鏡結び物語

無限飛行

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鏡の舞▪その七 (鏡結び物語)

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舞 視点

ピーポー、ピーポー、ピーポー、ピーポー


救急車の音…?
何か、うるさい。


『はい、そうです、急患です。はい、患者は16歳の女子高生。腹に鋭利な刃物による傷。はい、はい、かなり出血をしてます。第三病棟のICU?、分かりました。直ぐ向かいます!』


う、なんか胸が痛い、苦しい。
一体、何が起きているの?
あ、でも、急に眠くなってきた。
なんか、考えがまとまらない。
ああ、眠い、寒い。

『舞ーっ、しっかりして、舞ーっ!!』

ん、千鶴?
ごめん、千鶴。
なんか、凄い…眠い…よ。
眠い、眠い。

『舞ーーっ!』

眠い……


◆◇◇◇◇


ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ
シュゴーッ、シュゴーッ、シュゴーッ

う、何か、明るい?
あ、う、まぶし!
ここは何処なの?

おかしい。

私、祖父のガレージにいた筈なんだけど、ん?何か、身体じゅうが痛い、胸が苦しい。

それに何?お腹に包帯が巻いてあって、腕に幾つも点滴だ?!
「う、だ、誰か、ああ」

ガタッ
「舞さん!?」
「あ、?」
女性看護師さん?

「!、先生、先生!舞さんが、舞さんが目を覚ましました!、先生っ!」
う、頭、ガンガンする。
一体、何なの?

ドタドタドタドタドタドタドタッバタンッ

「葛城さん!患者が目を覚ましたって?!」
「はい、舞さんが」
白衣の若いお医者さん?
う、頭が。

「君、え~と?」
笹川 舞さがわまいさんです」
医者が私の名前を確認し、看護師さんが答えた。

「そうだ、舞さん。私が見えるかい?」
「…あ、はい。あの」

「何か、覚えているかな?」
「わ、分かりません」

「分からない、か。君は、まる一週間、意識不明だったんだ」
「え?なん、で」

医者は椅子に座り、私の顔にライトを当てながら顔を近づける。
「君、腹部を鋭利な刃物で刺されたんだよ。覚えてない?」

「え?分かりません。本当に覚えてないです」

カチッ
「ん、瞳孔の反応は問題ない」
医者は、ライトを消して、少し下がる。
刃物って、何で?
分からない。

「取り敢えず大丈夫そうだ。明日にはICUを出れる。そしたら、また話そう」

医師は立ち上がると、看護師に何か言って部屋を出て行った。
看護師さんは、部屋のカーテンを開けて、また直ぐに来ますね、って言って出て行った。

窓の外は階が高いのか、景色がかなり先まで見える。手前に土手と川が見え、河川敷では野球だろうか?人々が球技をしている。


変だな、私、ガレージの中にいたのに…
ガレージ?
私、何でガレージの中に居たんだろう。



◆◇◇◇◇



間もなく私は体調が改善し、一般病棟に移った。
その後、入院した経緯を聞いたら、15日以上行方不明の末、祖父のガレージで重傷を負って発見されたと聞かされた。
第一発見者は、親友の白井 千鶴しらいちづると弟の了君。
そして、二人が雇った探偵らしい。


「有り難う、千鶴ちづる。貴女が私の命の恩人だと聞いたわ」
「ううん、貴女が助かったのは、ほとんど偶然だった。でも、助かって本当によかった、良かったよう、舞~~っ!」

私が一般病棟に移ってから、白井しらい姉弟が面談に来てくれた。
千鶴ちづるは、涙目になりながら、私が助かった事を喜んでくれた。

「だけど先輩。怪我を負った事とか、その前の事とか、何も覚えてないの?」
千鶴ちづるの弟、了君が言った。

怪我を負った前後の事?
そもそも、ガレージに入った事すら、覚えていないのに、前後の事って?
「分からないの。本当に何も覚えてなくて、私、どうしちゃったんだろ?」

本当に、私、なにをやってたの?

「そっか、でも私達の事は、判るんだよね?、それでいいかなーっ」
千鶴ちづるが、なんか頷きながら一人、納得してる。

「姉ちゃん、あんな事があったのに、それでいいの?」
あんな事?
了君が何か言ってるけど、何の事?

「了君、あんな事って、一体……」
「あ、先輩、実は、モガッ?!」

あ、千鶴ちづるが、ニコニコしながら了君の口を塞いだ?

「モガッ?モガモガッモガーッ!モガ?!」
「はーい、了。ちょっと、黙ろうか?」

いいのかな、了君、真っ赤になってるけど。

「ねぇ、千鶴ちづる。了君、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと口が軽いから、この位が丁度いいのよ」

「モガーッ?!!!」
なおも、了君の顔を手のひらで押さえる千鶴ちづる
ねぇ、息が出来ないんじゃない?

ガクッ
あ、了君、落ちた。

「ああ、了?どうしたの!?」
「いや、どうしたのじゃないし」

何なの、この姉弟。

ガチャッ
「たくっ、この忙しい時に、いまさら見つかったって!」
「?!」
その時、ドアを開けて入ってきたのは、やや白髪中年、私の今の保護者、叔父の笹川 嘉一さがわよしかずだった。

「おら、この家出娘!家出した挙げ句、怪我までしやがって、今さら出てくんじゃねぇよ。全く迷惑この上ないじゃないか!」
「あ、う!?」
叔父が、私の右手を掴む。
い、痛い?!

叔父は中小企業の社長で、何度か父に会社の運営資金の借金を願い出て、断られた経緯がある。
その時に、家に来ていたので顔は知っていた。
そして、私の両親が交通事故で亡くなると、どういう訳か私の後見人になっていた。

その後、叔父夫婦とその子供達が、家に入り込み、私の部屋もその子供達に取られ、両親の思い出のある家に、私の居場所は無くなったのだった。

「ちょっと!まい叔父おじだか、あじだか知らないけれど、なんて言い草なの!」

千鶴ちづるが、私と叔父の間に割って入った。叔父が、掴んでいた私の手を離す。

「何だ、お前は!?」

「何だって、何よ!?あたしはまいの友達です。貴方、叔父でまいの保護者なんでしょ?まいは、何者かに重傷を負わされ、生死の境をさ迷った。そして、やっと治って起き上がれるようになったまいに、保護者が最初にかける言葉がって、おかしいでしょ!」

「う、うるさい。この小娘が!」
あ、叔父が手を上げた!
千鶴ちづるが打たれる?!

ガシッ
「ぐっ、なんだ!?」
あ、誰か、知らない男の人が、振り上げた叔父の腕を掴んだ?!

「おっと。あんた、それ以上やると傷害罪が適用されるぜ」
「な、何だ、貴様!?」
なんか、トレンチコートを着て、ニット帽を被った20代の男?が、叔父に対峙してる。

小五郎こごろうさん!」
「よう、白井 あね、大丈夫か?」

なんか、千鶴ちづるが知ってる人?みたいだ。
男は、叔父の腕を持ったまま、叔父を病室のドアの前に押し出した。
「き、貴様、私にこんな事をして?!」

「ここは病室だ。うるさい人は出て行ってもらおうか」
「く、まい、また来るぞ!!」

バタンッ、ドアを激しく閉めて、叔父は出て行った。
「ふん、三流小悪党だな」

「ちょっと、探偵屋さん?ちゃんと払うって言ったよね?いまさら、なんなのさ?」
「白井 弟《おとうと》、探偵ってのは、最後までその結果に責任を持つのさ。捜し人が重傷で見つかったんだ。その捜し人がその後、どうなったか。ちゃんと確認が必要なんだ」

その男の人は、手に持っていた花束を私の前に掲げた。
「無事、手術が成功して良かったな。生きてさえいれば、いつか良い事があるさ」

「……あ、有り難う御座います」

私が花束を受けとると、男はニヤリとして、背中を見せた。
「それじゃあな」

「ちょ、ちょっと、待ってよ!」
男は、病室から出て行こうとして、了君に呼び止められた。

「なんだ?」
「あの宝石は、どうしたのさ?」

なんの話しだろう?
宝石?

「あれか?本来、有るべき場所に戻したさ」
「はぁ?有るべき場所って、あれ、先輩のもんだろう。先輩に返すのが本来しゃないか」

先輩?私の事だよね?

「あれは、イギリス王室のものだ」
「は?答えになってないんだけど!」

「ちょっと、了。いい加減にしなさい。小五郎こごろうさんは、ちゃんと依頼をこなしてくれた。それでいいのよ」

依頼?
千鶴ちづるがあの男の人に、何かを依頼したって事?
そういえば、探偵って言ってたけど。

ガチャッ
「ああ、そうだ。あの宝石、【天使の涙】の成功報酬が入ったから、お前らの依頼料、特別ににしてやる。じゃあな」
バタンッ、男は去り際に、なんか話して出て行った。

千鶴ちづるは、目をキラキラさせて見送っており、了君は、頬を膨らませて怒っている。
いったい、何なのかしら?
千鶴ちづる、その、どういう事?」

千鶴ちづるは、私の方を見ると、真顔で私に聞いた。
まいは姿見の事、中学時代の事、覚えてる?」

「姿見?中学時代?何の事?」
何の話しよ?

私の言葉に、顔を見合わせる二人。
何なのよう?
「あ、覚えてないならいいの。たいした話しじゃないから」

「先輩、ホルトさんって知らないよね?」
「了!」
了君が、私を下から見上げるようにして、聞いてくる。
ホルト?

「ん~っ、外国人かな?知らないよ」

「なら、いいや」
「了!まい、ごめんね。何でもないから」
いや、この段階で何でもないと言われても、スッゴク気になるんだけど。
どうしたらいいか、返答に困る。

ガチャッ
「はい、面会時間は終わりです」
そこに、女性看護師さんが入ってきた。

「あ、それじゃ、また来るから」
「先輩、早く治ってね」

「うん、二人共、有り難う」
白井姉弟は、手を振りながら出て行った。

それにしても、姿見って何だっけ?


◆◇◇◇


その後、病院を退院した私は、叔父夫婦との確執の末、高校の寮に入る事にした。

叔父は金銭を渋ったが、奨学金の利用を伝え、卒業後は就職するとして家を出た。


▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩


『ジーク、私、お姫様、に、憧れ、てるの。ジークの、婚、約者、、な、んて』

『ああ、婚約者どころか、王妃にしてやる。だから、良くなってくれ、マイ!』



▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩



ガバッ、私はベッドから飛び起きた。
はっ、い、今の、何?

ピッ、ピッ、ピッ、ポーン

『午前5時55分になりました。早朝の天気をお伝えいたします。今日の天気は、降水確率事態は20%と低めで晴れが続きますが、午後は寒冷前線が通り、突発的な雷雨が発生する変わり易い天気になる見込みで、念のために折り畳み傘…』

カチッ

「…………夢…?」

私は、ラジオを消し、背伸びをする。
何だろう?
疲れてるのかな。
でも、随分リアルな夢だった。
けど……

「あの金髪のイケメン、格好良かった」

外国のテレビ番組でも、思い出したのかな。
まあ、いいか。


ビンポーン


インターフォン?
きょうは、日曜日の筈。
こんな時間に、誰だろう?
私は、インターフォンのボタンを押した。

「はい、どちら様?」

『た、大変だよ、まい!あなたのお爺さんのガレージ、叔父さんがブルトーザーで壊し始めてるよ。姿見が壊れちゃう!』

千鶴ちづる?今、開けるよ」
私がドアを開けると、千鶴ちづるは私の腕を掴んで言った。

「姿見、壊される前に運びだすの!行くよ」

「ちょ、ちょっと待ってよ。なんの事だか、判らないんだけど」

「貴女、忘れてるの。このままだと、一生後悔するよ。だから、姿見を確保しにいくの!あ、ガレージの鍵、持ってるよね」
「一生、後悔?ガレージの鍵?」

はあ、この白井 千鶴しらいちづる、超常現象オタクで時々、突拍子もない事をするけど、今回は極めつけだ。
全く、私がガレージの鍵なんか、持っている訳ないのに。

「ええと、そうだ。ガレージの鍵、失くさない様に、学生証の裏に張り付けてあるって、前に言ってたよね!」
「え、ええ!?」

そんなの、知らない。
でも、無い事を証明できれば、このウルサイ友人から解放されるか。
私は、学生カバンにキーホルダーの様に付けてある、学生証を取り出した。
そして、裏を見る。

え?!
本当に有った???

学生証の裏には、確かに何処かの鍵が張り付けてあった。
「あった……!?」
「ああ、良かった。ほら、直ぐに行くよ!」

「う、ええ?!」

私は、千鶴ちづるに引っ張られるまま、祖父のガレージに向かった。


◆◇◇◇◇


ガレージは、周りの土が掘られ始めており、小型のブルトーザーが放置されていた。
けれどガレージは、まだ無傷だ。

ガレージの前では、了君が待っていた。
「姉ちゃん、先輩、遅いよぅ!」

まい、鍵を」
「あ、うん」
カチャッ、カチ

「開いた」
「開けるよ!」
ガラガラガラーッ

三人で、一気にシャッターを開けると、薄暗いガレージ奥に光る物が見える。
「あれかな?」
「きっと、そうだよ!まい
「先輩、早く運び出そう!」

その光る物は、千鶴ちづるの言う通り、私の身の丈もある姿見だった。
その後、三人でなんとか、ガレージの外に運び出した私達は、運送業者を頼んで私の寮の部屋に運んで貰った。

そして、今、三人でその姿見を眺めている。
了君が言った。
「ん~、なんか変だよ」

「変?あんたの頭の事?」
「姉ちゃん、頭の事はブーメランだよ」
ニコニコしていう千鶴ちづるに、了君がムッとして返す。
何してんのかな?

「ほーっ、表に出ようか、了」
「いや、姉ちゃん。事実なんだけど」
「ちょっと、ここ私の部屋!」

姉弟喧嘩は、他所でやってよ。

「それで、何処が変なの、了君?」
「あ、分かった!ほら、装飾品の部品が1個、足らないんだ」

「装飾品の部品?」
「ほら、先輩が時間かけて、修復してたヤツだよ。先輩を見つける際に、1個、手前に落ちてたじゃん。多分、それだ!」

「私を見つける際?」
「ああ、そういえば、小五郎こごろうさんが何か、拾ってたわね」
千鶴ちづるが、顎に手を置き、思い出しながら言った。

「あーーっ、あんにゃろだ!先輩の宝石と一緒に持っていきやがったんだ!!」

「了君、前から聞こうと思ってたんだけど、その宝石ってなんなの?」
「あ、と、それは…」
なんでそこで、口ごもる訳?

ぱんっ
何?千鶴ちづるが手を叩いて、目をキラキラさせてる?
「おほーっ、なら、さっそく小五郎こごろう様に会いにいきましょう!」

小五郎こごろう様?会いに行くって何処へ??」

小五郎こごろう様のお住まい、上野のアメ横よ!」


◆◇◇◇◇


ガタン、ガタン、ガタン、ガタンッ

山手線の音が凄い間近に聞こえる。

私達が向かったのは、アメ横にある、とある雑居ビルの三階だった。
千鶴のテンションの高さに圧倒され、結局、上野まで来てしまった私は、なおも手を引いて先を行く千鶴に酷く困惑している。

ビーッ
三階の部屋の前、千鶴がインターホンのボタンを押す。




ドアを開けた男に、ニコニコして駆け寄る千鶴ちづる

「よう、久しぶりだな」
小五郎こごろうさん、おひさです」

武智 小五郎たけちこごろう、27歳。
上野のアメ横で探偵業を行う、しがない個人経営者だ。
随分と小綺麗な部屋だけど、千鶴ちづるとは随分と打ち解けて話してる。
前に千鶴ちづるが、何かを依頼した時からの知り合いみたいだけど、何を依頼したのか、千鶴ちづるは教えてくれなかった。

「引っ越すんですか?」
「ああ、金が入ったからな。これでこことはオサラバだ。まあ、座れ。茶ぐらい、出してやる」
小五郎こごろうは立ち上がり、簡易キッチンに向かう。


「その金、先輩のお陰かもしれないのに……」
なんか、了君がぶつぶつ言ってる。
まあ、いいか。

けど、私、なんでこの姉弟について来たんだろ?
あんな姿見なんか、どうでもいいのに……。

(どうでもいい…本当に?)

「え?」
「先輩、どうかしたの?」

「う、ううん、大丈夫よ」
何、今の?!
私が考えた事?

間もなく、お茶を持って小五郎こごろうが戻ってきた。

「それで?今日はどうした」
小五郎こごろうは、千鶴ちづるに聞いた。

「あの、まいを見つけた日に、小五郎こごろうさんが何か拾わなかったかなって、思いまして」
「あの日にか?そうだなぁ?」

小五郎こごろうは、おもむろに立ち上がると、睨む了君を横目に、掛かっていたトレンチコートのポケットをまさぐる。
「ああ、あった、あった、あの姿見の部品」

小五郎こごろうが出して来た物、それは、小さな花を模したタイルの様な部品だった。

ドクンッ

「あ、ああアあ、ああ?!」

まい?」
「先輩!?」
「なんだ、どうした?」






━━━━━全てを思いだした━━━━━━







私は、その部品を彼から引ったくると、駆け足で階段を降りていく。
後ろで千鶴ちづる達が叫んでいるけど、私は止まれない。





帰らなければ。


本来、私がいるべき場所に……



待っていて。


今からいくわ。





ジーク。



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