30 / 56
契約と契約後 ーブリジットー
しおりを挟む
今日もブリジットは自分を完璧に磨き上げる。
身だしなみを整えると厨房に朝ごはんを食べに行く。
厨房のシェフのダンはブリジットとカトリとマリーで親子だと、そして何らかの理由でブリジットだけ冷遇されている。
そう思っているらしかった。
「たくさんお食べ。」
そう言っていつも食事を出してくれた。
ブリジットが街に出なくなった頃、図書室の目立たぬところにアベルの学園の教科書がまとめて置いてあるのを見つけた。
朝食の後は教科書を見ながら勉強をする。
どんなに眠くても同じ時間に起き、このルーティンをこなしていく。
それが自分を守る事だと信じていた。
寝室には机はない。
ドレッサーを机にしたり、ベッドサイドチェストを机にしたりしていた。
しかしその夜はベッドに寝転び、テキストやノートを広げていた。
正直わからなすぎてだらけていた。
テキストを手に入れたからと言ってわからないものはわからないのだ。
そして教えてくれる人などいない。
「離婚したら慰謝料は学園の授業料に使おうかしら。」
確か寮もあったはずだ。
いやそんなにはもらえないかな。
1人であれやこれや考えていると、珍しくドアがノックされる。
アベルだった。
ブリジットは身体がこわばった。
夜に夫が来訪するという事はそういう事だ。
「月のものが始まったと申し上げたと思いましたが。」
考える前に口が動いていた。
あんなのはもう二度としたくなかった。
しかしアベルはそんな事言われるとは思いもしなかった、という顔をした。
(何か急な用事があるのだろうか。)
ブリジットはいぶかしんだが、アベルを中にいれた。
外にずっと立たせているわけにはいかない。
中に招き入れてから座る椅子が無いことに気がつく。
ベッドくらいしかない。
そしてそのベッドには図書室から勝手に持ってきたアベルの教科書。
しまった、と慌ててベッドに行き片付ける。
「私の学園の教科書じゃないか。」
そういうとヒョイとアベルに取り上げられた。
さっと血の気が引いた。
「申し訳ありません。図書室で見つけて勝手に」
慌てて謝罪をする。
「ああ、文法がわからなかったのか。」
えっと驚いてアベルを見る。
「貸してごらん。」
そういってアベルはノートとペンを受け取ると教科書と一緒にベッドに広げた。
ブリジットが赤を入れたところを的確に説明してくれる。
いつのまにやら始まった講義にブリジットは隣に座った。
質問をすればアベルはわかりやすく教えてくれた。
(手紙の時みたい。)
ふとブリジットはそう思うと、そっとアベルの方を見た。
アベルに会う前は、会ったらこんな風に話してみたいと思っていた。
自分の知らない話をたくさん聞きたい。
そう思っていた。
ブリジットは落ち着かなくなって服をつまむと擦り合わせた。
「セドリックと同じところでつまずいてる。」
アベルはそういうと愉快そうに破顔した。
ブリジットは息を呑んだ。
サッと顔を背ける。
じわじわと顔が熱くなるのがわかる。
まさかブリジットに笑顔を見せると思わなかった。
不意をつかれた。
ブリジットはぎゅっと服を握りしめるとノートに集中した。
教えてもらった事を無心に書き留める。
と、自分の唇に何かが触れてる。
「え」
触れているのはアベルの指だった。
瞠目してアベルをみると、蕩ける様な目でブリジットを見ていた。
訳がわからずうろたえると、あっという間もなく唇を奪われた。
ちゅ、という音がやけに大きく聞こえた。
優しく髪を撫でられる。
真っ白だった頭がようやく回り出した頃、ブリジットはアベルの胸を押した。
びくともしない。
もっと強く押そうとした時だった。
バッと体が離される。
目の前のアベルは顔を背けていた。
「すまない。」
一言だけ言うと逃げるように出ていった。
残されたブリジットはしばらく茫然としていたが、おもむろに立ち上がるとキュッと口を引き結ぶ。
(誰かと間違えたんだわ。)
でなければあんな蕩ける様な目を自分に向ける訳がない。
事実アベルは謝っていたじゃないか。
また気が緩んでいた。
愛する気はないと言われたばかりではないか。
こんな事じゃダメだ。
ブリジットは気合いを入れ直した。
身だしなみを整えると厨房に朝ごはんを食べに行く。
厨房のシェフのダンはブリジットとカトリとマリーで親子だと、そして何らかの理由でブリジットだけ冷遇されている。
そう思っているらしかった。
「たくさんお食べ。」
そう言っていつも食事を出してくれた。
ブリジットが街に出なくなった頃、図書室の目立たぬところにアベルの学園の教科書がまとめて置いてあるのを見つけた。
朝食の後は教科書を見ながら勉強をする。
どんなに眠くても同じ時間に起き、このルーティンをこなしていく。
それが自分を守る事だと信じていた。
寝室には机はない。
ドレッサーを机にしたり、ベッドサイドチェストを机にしたりしていた。
しかしその夜はベッドに寝転び、テキストやノートを広げていた。
正直わからなすぎてだらけていた。
テキストを手に入れたからと言ってわからないものはわからないのだ。
そして教えてくれる人などいない。
「離婚したら慰謝料は学園の授業料に使おうかしら。」
確か寮もあったはずだ。
いやそんなにはもらえないかな。
1人であれやこれや考えていると、珍しくドアがノックされる。
アベルだった。
ブリジットは身体がこわばった。
夜に夫が来訪するという事はそういう事だ。
「月のものが始まったと申し上げたと思いましたが。」
考える前に口が動いていた。
あんなのはもう二度としたくなかった。
しかしアベルはそんな事言われるとは思いもしなかった、という顔をした。
(何か急な用事があるのだろうか。)
ブリジットはいぶかしんだが、アベルを中にいれた。
外にずっと立たせているわけにはいかない。
中に招き入れてから座る椅子が無いことに気がつく。
ベッドくらいしかない。
そしてそのベッドには図書室から勝手に持ってきたアベルの教科書。
しまった、と慌ててベッドに行き片付ける。
「私の学園の教科書じゃないか。」
そういうとヒョイとアベルに取り上げられた。
さっと血の気が引いた。
「申し訳ありません。図書室で見つけて勝手に」
慌てて謝罪をする。
「ああ、文法がわからなかったのか。」
えっと驚いてアベルを見る。
「貸してごらん。」
そういってアベルはノートとペンを受け取ると教科書と一緒にベッドに広げた。
ブリジットが赤を入れたところを的確に説明してくれる。
いつのまにやら始まった講義にブリジットは隣に座った。
質問をすればアベルはわかりやすく教えてくれた。
(手紙の時みたい。)
ふとブリジットはそう思うと、そっとアベルの方を見た。
アベルに会う前は、会ったらこんな風に話してみたいと思っていた。
自分の知らない話をたくさん聞きたい。
そう思っていた。
ブリジットは落ち着かなくなって服をつまむと擦り合わせた。
「セドリックと同じところでつまずいてる。」
アベルはそういうと愉快そうに破顔した。
ブリジットは息を呑んだ。
サッと顔を背ける。
じわじわと顔が熱くなるのがわかる。
まさかブリジットに笑顔を見せると思わなかった。
不意をつかれた。
ブリジットはぎゅっと服を握りしめるとノートに集中した。
教えてもらった事を無心に書き留める。
と、自分の唇に何かが触れてる。
「え」
触れているのはアベルの指だった。
瞠目してアベルをみると、蕩ける様な目でブリジットを見ていた。
訳がわからずうろたえると、あっという間もなく唇を奪われた。
ちゅ、という音がやけに大きく聞こえた。
優しく髪を撫でられる。
真っ白だった頭がようやく回り出した頃、ブリジットはアベルの胸を押した。
びくともしない。
もっと強く押そうとした時だった。
バッと体が離される。
目の前のアベルは顔を背けていた。
「すまない。」
一言だけ言うと逃げるように出ていった。
残されたブリジットはしばらく茫然としていたが、おもむろに立ち上がるとキュッと口を引き結ぶ。
(誰かと間違えたんだわ。)
でなければあんな蕩ける様な目を自分に向ける訳がない。
事実アベルは謝っていたじゃないか。
また気が緩んでいた。
愛する気はないと言われたばかりではないか。
こんな事じゃダメだ。
ブリジットは気合いを入れ直した。
135
あなたにおすすめの小説
あの、初夜の延期はできますか?
木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」
私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。
結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。
けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。
「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」
なぜこの人私に求婚したのだろう。
困惑と悲しみを隠し尋ねる。
婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。
関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。
ボツネタ供養の短編です。
十話程度で終わります。
もう一度、君を好きになる時間
なべぞう
恋愛
結婚後、夫とのすれ違いと孤独な生活の中で心身を壊し、若くして病死した女性・相沢美月。
後悔だけを残して人生を終えたはずの彼女は、目を覚ますと――大学時代へと時間が巻き戻っていた。
二度目の人生を得た美月は決意する。
「今度こそ、自分を大切にして生きる」と。
前の人生で結婚した元恋人・恒一との再会。
しかし、同じ未来を辿るつもりはない。
そんな中、前の人生では出会うことのなかった青年・三浦との出会いが、彼女の未来を少しずつ変えていく。
「我慢すること」が正解だと思っていた彼女は、二度目の人生で初めて自分の幸せを選び取る勇気を学んでいく。
――人は、やり直せたなら本当に幸せになれるのか?
失敗した人生をもう一度歩き直す、一人の女性の再生と恋、そして本当の愛を見つける物語
【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
【完結】お荷物王女は婚約解消を願う
miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。
それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。
アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。
今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。
だが、彼女はある日聞いてしまう。
「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。
───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。
それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。
そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。
※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。
※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。
嘘が愛を試す時 〜君を信じたい夜に〜
月山 歩
恋愛
サラとマリウス・ハンプトン侯爵夫婦のもとに、衝撃的な告白を携えた男が訪れる。「隠れてサラと愛し合っている。」と。
身に覚えのない不貞の証拠に、いくらサラが誤解だと訴えてもマリウスは次第に疑念を深めてゆく。
男の目的はただ一つ、サラを奪うこと。
*こちらはアルファポリス版です。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
君を自由にしたくて婚約破棄したのに
佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」
幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。
でもそれは一瞬のことだった。
「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」
なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。
その顔はいつもの淡々としたものだった。
だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。
彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。
============
注意)ほぼコメディです。
軽い気持ちで読んでいただければと思います。
※無断転載・複写はお断りいたします。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる