変人令息は悪女を憎む

くきの助

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契約と初夜 ーブリジットー

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「愛する事はない。」

はっきりと宣言された。

寝室に訪れたことには驚いたが、胸が高鳴ったのも事実だった。
ブリジットはこの期に及んでまだ期待してしまっていた。

「白い結婚などと主張されると面倒だからな。」

アベルはそんなブリジットの考えを見透かしたように、吐き捨てるように言った。

「純潔でもないのだからさっさとすましてしまおう」

そう言われて怖くなった。

どうしよう、純潔だと言おうかと口を開きかけるとそれを見越したかのように口を塞がれた。


それからのブリジットはまるで操り人形のようだった。
相手の動きに合わせてパタパタと動き、ただただ痛みに耐えていた。
そんな時間は明け方まで続き最後は気を失っていた。




ふと、土と草の匂いがした。
故郷の匂いだ、とブリジットは微笑んだ。
大きな手が自分の髪を撫でている。

ブリジット

(父様だわ。私ヒステマラ領に帰ってきたのね。)

ブリジット

返事をしたいけど疲れてしまって口が動かない。
けれど優しく呼ぶ声にホッとする。

(よかった。父様。怒っていないのね。)

反対を押し切り王都に行き、醜悪な二つ名をつけられたかと思えば、勝手に契約を中断し、隣国で結婚した。
セドリックが全ての報告を両親にしてくれたが、両親がどう言っていたのかなんて知る前に国を出た。

ブリジットは両親に会うのがすっかり怖くなっていた。


ビジイ

サラサラと髪をすいたり、撫でたりしていたが
しばらく黙ったあと遠慮がちに囁くように言われた。

なあに……

答えたいのに口が重く声が出ない……。





「どうして……」

声がしてブリジットはハッと目が覚めた。

横に上半身裸のアベルがいて、ブリジットの足元を見ていた。
ブリジットが起きたことに気が付いたらしく、ぎこちなくブリジットの方を見る。

真っ青な顔をブリジットに向け
「君は…まさか……純潔だったのか?」

震えるような声で問われたブリジットは上半身を少し起こし先ほどまでアベルが見ていたであろう自分の足元を見た。

純潔の証で自分の足とシーツが汚れているのが見えた。

ここでそうです、と言えればよかったのだろうか。
しかしブリジットには言えなかった。

「月のものですわ。昨夜申し上げようとしたのに、アベル様は随分急いていらしたようで。」

意地もあった。
カラカラになった喉を振り絞って出した声は図らずも悪女っぽい言い方になった。

そう言われたアベルはカッと頬を赤らめると、タオルをベットに乱暴に置き、シャツを奪うように取り上半身裸のまま荒々しく出ていった。


まだ早朝だろうか。
ほぼ眠っていない事になる。
体がだるく、痛みもある。

ブリジットはアベルが置いていったタオルに手を伸ばした。
アベルが使ったあとのタオルだろうか。
そのタオルで自分の汚れた足を拭き体を拭いた。

体がきれいになると服を着てシーツを洗う。
真っ赤に汚れたシーツをメイドに洗ってもらうのは恥ずかしかった。

シーツを取り替え枕をボンとベッドに置いた。

もう一度持ち上げボン、と置く。

「もう」
ボン

「もう!もう!」
ボン ボン

「もう!もう!もう!」
ボン ボン ボン

「もおお!」
ボスン!

最後はブリジットの顔が枕に飛び込んだ。

「止まってよ……もう」

みるみるうちに枕が濡れていく。
涙を拭わなければ泣いていないと言わんばかりに枕に強く顔を押し付ける。

「ううっ」

強く唇を噛んでいると言うのに声が漏れた。

別に理想の初夜があったわけではない。
期待などとっくに自分から追い出した。
とはいえ恋心を抱いた相手との初夜。
少し夢を見てしまった。

しかし初めての口付けは余計な事を言わぬように塞がれただけ。
離婚が不利にならぬために、呆気なく純潔は散らされた。

何を泣いているんだ。
全部自分の嘘のせいじゃないか。

馬鹿な夢を見たせいで、嘘がとうとう自分を喰べ始めたと思った。
油断した。
情けなかった。

願いは虚しく涙はずっと溢れるばかり。

早く止まれ

じゃないと

本当にみじめな女みたいだ。

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