32 / 35
椿芽エーデルワイス
32話 危機は脱し平穏へ
しおりを挟む「ほらほらー、早く来てー!」
「椿芽、走るとコケるぞー!」
響が注意するものの、椿芽はお構いなしで先を走り出す。それを追いかけるように響が歩き出し、俺たちもそれについていく。
BBQエリアから少し歩いたところにある動物ふれあいコーナー。ここは椿芽と若狭さんが行きたがっていた場所だ。男子3人は文句ひとつ言わずついて行く。まあ、やらかし組には文句を言う権利なんてないけどな。
ふれあい動物村と書かれた看板が見え、俺たちは入口でスタッフさんの説明を受けて中へ入った。
「いろんな動物がいるね、朱音ちゃん!」
「そうだな。つ、椿芽!あれ見ろ!モルモットだ!」
「モルモット!?」
目を輝かせる2人は、モルモットがいるエリアへと一直線に向かう。そのテンションに若干圧倒されつつも、俺はエリア全体を見渡した。アルパカ、うさぎ、羊など、さまざまな動物がいて、それぞれ触れ合えるようフェンスや柵が工夫されている。
「お?」
ふと、小さな緑の小屋を見つける。そこには「餌やり200円」と書かれていて、俺は財布から小銭を取り出し、募金箱に400円を入れて餌袋を2つ手に取った。これを持って、みんなのいるところへ向かう。
「か゛わ゛い゛い゛……」
「椿芽、よだれ、よだれ!」
椿芽がモルモットの可愛さに完全にやられているのを、若狭さんが必死にフォローしている。俺はその様子を苦笑いで見つつ、手に持っていた餌袋を2人に差し出した。
「2人とも、餌やりのお菓子あっちで見つけたんだけど、どう?」
「え? いいの?」
「いいのか貰って……」
「まあ、さっきの詫びってことで。詫びにしては安すぎるものだけどな」
「ううん、ありがとう!」
「そうか。では受け取る。ありがとう」
詫びとしては大したものじゃないが、2人とも素直に受け取ってくれた。
「どーぞ……」
『厶キュキュ……プイプイ……』
椿芽は小さなスコップ状の餌やり道具でモルモットに餌をあげる。モルモットは小さな体を懸命に動かして、可愛らしく餌を食べていた。
「か゛わ゛い゛い゛……」
その姿に再び悶絶する椿芽。
「は゛あ゛あ゛……」
若狭さんも負けじと濁音まみれの声を漏らしながら、満足そうに餌をあげている。俺はその様子に思わず苦笑いした。餌袋を2人に渡して正解だったな。
「……ん?」
ふと、隣にいるはずの響がいなくなっていることに気づく。辺りをキョロキョロと見回すと、少し離れたところにいるのを見つけた。
「あ、いた」
その場を離れ、響がいる場所へ向かう。
「どうかしたか……?」
「……ん? ああ、こいつを見てた」
響が目を向けていたのは、うさぎだった。俺も横に並んで、そのうさぎを眺める。
「うさぎだな」
「ああ……。でさ、このうさぎの名前なんだけど」
「うん」
「みーくんって名前らしい」
「そうだな」
「いや、昔、俺のことをみーくんって呼んでた子がいたなって思い出してさ」
「神野の“か”でも響の“ひ”でもなく、“み”を選ぶとは。そいつ、なかなかのセンスだな」
「だよな……俺もそこ選ぶかって思ったわ」
その話をしていると――
ガタン!!
「うわ!! どしたの、朱音ちゃん!」
「な、なんでもない! コケただけだ……」
「なかなかダイナミックにコケたな……」
椿芽たちがこちらに向かってくる途中、若狭さんが盛大に転んだらしい。
「平気か……?」
響が心配そうに手を差し出す。
「き、気にしゅるな……!」
「噛んでるぞ……」
「う、うるさい!」
若狭さんは恥ずかしそうにしながらも響の手を取って立ち上がり、ジャージについた土を払い落としていた。
「まだアルパカとか羊とかもいるみたいだし、見て回ろうぜ」
俺は若干、若狭さんを気遣いながらも、この話題から早く逸らすべく提案した。
「おお……」
その後、小型犬がいる広場に立ち寄った俺は、何匹ものトイプードルやミニチュアダックスに囲まれ、餌を与えながら頭を撫でていた。やっぱり犬はいい。いや、犬は至高だ……。
「ねえ、悟くん」
「ん?」
ふと、椿芽がこちらに歩み寄ってきて声をかけてきた。
「ひーくん見なかった?」
「いや、またあいつどっか行ったのか……」
さっきも知らぬ間に別の場所へ行っていたし、まったく落ち着きのないやつだ。
「うん。それでね、朱音ちゃんもいなくて……」
「若狭さんも……?」
思わず眉をひそめる。あいつがどっか行くのはともかく、若狭さんまで行方不明とは意外だ。真面目で目立った行動をしないタイプだと思っていたけど、こういう場面で抜けるとはな……。
「2人でどこかに行くって感じでもなさそうだよな、あの組み合わせ」
「うん……」
椿芽が心配そうにうなずく。
「とりあえず、そこにいる鈴木も呼んで、どこ行ったか探すか」
「うん」
俺の提案に頷くと、椿芽は鈴木の方へ向かう。俺は犬を撫でていた手を止め、少し重い腰を上げた。
「ったく、なんだってこんなところで迷子みたいなことになるんだよ……」
小声でぼやきながらも、残りのメンバーで行方不明の2人を探すことにした。
0
あなたにおすすめの小説
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。
エース皇命
青春
高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。
そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。
最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。
陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。
以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。
※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
※表紙にはAI生成画像を使用しています。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。
バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件
沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」
高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。
そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。
見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。
意外な共通点から意気投合する二人。
だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは――
> 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」
一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。
……翌日、学校で再会するまでは。
実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!?
オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる