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影
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雨音が聞こえないのに、雨が降っていた。、そもそも雨など降っていないのかもしれない。なんせ朝になると、全てが消えていたのだから。
突然だが、私の友人である「水谷彩」は人間をやめて鳥になった。しかし、この事実を知るのは私だけで、他の人間は彩が人間をやめたことはおろか、「水谷彩」という存在すら忘れている。理由は分からないが、彩は屋上で話したあの日以来、自身の存在ごと何処かへ連れ去ってしまったようだ。
桜並木をまっすぐ進むと、小さな看板があります。それを頼りに歩くと、「ニンゲン動物園」という場所に着きます。私はそこで鳥として暮らしています。
ニンゲン動物園?何だ、それは。
彩が送ってきたと思われるこの手紙は今朝方、家の郵便受けにぽつんと投函されていた。手紙が入った封筒は、動物なのか人間なのか分らない、異様な生物のデザインが施されてあり、見ているだけでむせ返りそうな印象だった。化け物……という言葉で形容するのが一番自然かもしれない。毒々しいカラフルな色遣いが、不気味さを一層引き立てている。
そのうえ中身を取り出してみると、先ほどとはうって変わって今度は何の飾り気もない真っ白な便箋に、シンプルな文字が並んでいるだけである。この外と中身の変化のせいで、私の目はチカチカと信号のように点滅しそうになった。
不可解な封筒、謎の文章。
……やはり手紙の差出人は彩で間違いないようだ。怪しげな封筒のデザインといい、手紙の言葉といい、これはまぎれもなく彩そのものだ。具体的にどこの桜並木か語らない部分が彼女らしい。
あまり信用はできないが、絶対的な彩の手がかりが他にはない今、この手紙に全てをかけるしかなさそうだ。私は手紙を右手に持つと、近くにあった上着を羽織り、何かに誘われるように家を飛び出した。
桜並木がどこなのか、看板はどんなのだとか、そんなのは全く見当もつかなかったが、なぜか足だけがぐんぐんと進む。まるでそこまでの道のりを昔から知っているかのように、迷いもなく歩いて行く。
どろりと溶けだした太陽が溶岩のようにじりじりと、進む私の影を焼き付ける。空は雨など降っていない快晴。見慣れた景色にぼんやりと別れを告げながら、私は「ニンゲン動物園」を目指した。
場所が近くなって来たのか、次第に辺りは暗くなり、影法師がゆらゆらと闊歩する、異様な空間にいつの間にかたどり着いていた。往来に鎮座する無数の建物はまるで廃業した遊園地のような寂しい雰囲気を醸し出しており、神社の境内と思われる場所では、半透明の子供達が「かごめかごめ」を輪になって歌っていた。
なんだ?ここは。明らかに普通とは違う場所に出た私は、周りの様子に動揺しながらも足を進めた。靴の底がずぶずぶと、虚無な空間へと引きずり込まれてゆく。まるで一歩踏み出すごとに、この空間から自分が侵食されてくような気分だ。
私は侵食されて色を失ってゆく自分の体を必死につなぎ止めながら、真っ黒な闇の中へと向かった。呼吸が荒くなるほど歩いたのだから、そろそろ着いてもいいだろうに……
「あ!」
私が小さく声を上げると目の前には、待ち構えていたかのように巨大な建物がずっしりとそびえ建っていた。そこは馬鹿でかい箱のようで、入口にはカラフルな文字で「ニンゲン動物園」と書いてある。ただ、この賑やかな看板とは裏腹に、園内には私以外の人間が居ないせいか、動物園全体に不気味な印象を与えていた。
突然だが、私の友人である「水谷彩」は人間をやめて鳥になった。しかし、この事実を知るのは私だけで、他の人間は彩が人間をやめたことはおろか、「水谷彩」という存在すら忘れている。理由は分からないが、彩は屋上で話したあの日以来、自身の存在ごと何処かへ連れ去ってしまったようだ。
桜並木をまっすぐ進むと、小さな看板があります。それを頼りに歩くと、「ニンゲン動物園」という場所に着きます。私はそこで鳥として暮らしています。
ニンゲン動物園?何だ、それは。
彩が送ってきたと思われるこの手紙は今朝方、家の郵便受けにぽつんと投函されていた。手紙が入った封筒は、動物なのか人間なのか分らない、異様な生物のデザインが施されてあり、見ているだけでむせ返りそうな印象だった。化け物……という言葉で形容するのが一番自然かもしれない。毒々しいカラフルな色遣いが、不気味さを一層引き立てている。
そのうえ中身を取り出してみると、先ほどとはうって変わって今度は何の飾り気もない真っ白な便箋に、シンプルな文字が並んでいるだけである。この外と中身の変化のせいで、私の目はチカチカと信号のように点滅しそうになった。
不可解な封筒、謎の文章。
……やはり手紙の差出人は彩で間違いないようだ。怪しげな封筒のデザインといい、手紙の言葉といい、これはまぎれもなく彩そのものだ。具体的にどこの桜並木か語らない部分が彼女らしい。
あまり信用はできないが、絶対的な彩の手がかりが他にはない今、この手紙に全てをかけるしかなさそうだ。私は手紙を右手に持つと、近くにあった上着を羽織り、何かに誘われるように家を飛び出した。
桜並木がどこなのか、看板はどんなのだとか、そんなのは全く見当もつかなかったが、なぜか足だけがぐんぐんと進む。まるでそこまでの道のりを昔から知っているかのように、迷いもなく歩いて行く。
どろりと溶けだした太陽が溶岩のようにじりじりと、進む私の影を焼き付ける。空は雨など降っていない快晴。見慣れた景色にぼんやりと別れを告げながら、私は「ニンゲン動物園」を目指した。
場所が近くなって来たのか、次第に辺りは暗くなり、影法師がゆらゆらと闊歩する、異様な空間にいつの間にかたどり着いていた。往来に鎮座する無数の建物はまるで廃業した遊園地のような寂しい雰囲気を醸し出しており、神社の境内と思われる場所では、半透明の子供達が「かごめかごめ」を輪になって歌っていた。
なんだ?ここは。明らかに普通とは違う場所に出た私は、周りの様子に動揺しながらも足を進めた。靴の底がずぶずぶと、虚無な空間へと引きずり込まれてゆく。まるで一歩踏み出すごとに、この空間から自分が侵食されてくような気分だ。
私は侵食されて色を失ってゆく自分の体を必死につなぎ止めながら、真っ黒な闇の中へと向かった。呼吸が荒くなるほど歩いたのだから、そろそろ着いてもいいだろうに……
「あ!」
私が小さく声を上げると目の前には、待ち構えていたかのように巨大な建物がずっしりとそびえ建っていた。そこは馬鹿でかい箱のようで、入口にはカラフルな文字で「ニンゲン動物園」と書いてある。ただ、この賑やかな看板とは裏腹に、園内には私以外の人間が居ないせいか、動物園全体に不気味な印象を与えていた。
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