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守られるべき弱者

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 ダンジョン攻略当日。私と三賢者の御三方で試練の洞窟に入る。

 王国でも指折り数えられる程度しかないSランクのダンジョンだが、同じくSランクの祠をすでに踏破しているパーティーだ。少し苦戦はするかもしれないが、何とかクリアできることだろう。

「さっさと鎧を手に入れてのんびりしたいな」
「そうねー。別に鎧なんてなくてもあるは最強だけどね」

 後ろで勇者様と聖女様様が腕を組んで引っ付いている。賢者様はその少し下がったところに立っていた。

「勇者様。ダンジョンに入ります臨戦態勢を」
「はいはいこれが俺の臨戦態勢だ。さっさと行くぞ」

 何故か私に対していら立ちを隠さない勇者様。何か粗相をしたのだろうか。

 1階層。中に入ると異様な冷たさを肌で感じる。温度ではない。ただならぬ殺気がダンジョン中に充満していた。

 これがSランクのダンジョン。冷や汗が頬を流れる。

 接敵。少し遠くに赤い目をした狼のような魔物がいた。ウルフ系?よく平地の魔物の討伐に行くが、それよりも一回り大きい。

 その魔物はこちらに気付くとオォォォンと遠吠えのように叫び、こちらに走ってくる。

「勇者様援護を」
「おう。いっぱい来るからしっかり引き付けろよ」
「え?」

 突っ込んできた狼の攻撃を盾で弾き、剣を振るう。

 ガキンッ!と剣が弾かれる。毛が硬すぎる!

「おらぁ!!」

 ザンッ!と弾かれて宙に浮いていた狼を勇者様は両断する。

「はっはー!!これが勇者の力だ!!」
「素敵よーアル!!」

 これが聖剣・・・あの硬い魔物を一刀両断とは恐れ入る。

 安心したのもつかの間、タタタタタッと大量の足音が洞窟の奥から聞こえ・・・。

「なっ!?」

 さっきと同じ狼。数は見えるだけで12体。まだ奥から気配がする。

「来たぞ。今の要領で頼むわ」
「はい?」

 この数を抑え込めと?さすがの私でもそれは・・・。

 なんて考えている場合ではない!?

「くっ!?」

 1匹目、突っ込んできた狼をさっきと同じように上へと弾く
 2匹目を足で遠くへ蹴り飛ばす
 3匹目剣で噛みつきをぎりぎり防ぐ
 4匹目足に噛みつかれる
 5匹目剣を持っていた腕に噛みつかれる

「勇者様!賢者様!援護を・・・」

 6匹目に頭から突進されるが何とか踏みとどまる。

 ようやく勇者様が動き、私に噛みついている狼を切り殺す。

 7匹目突っ込んでくる途中で賢者様の魔法で吹き飛ばされる。

「多すぎる!?」
「死なない限りアンジュが治してくれるから気にせず行け」

 勇者様が後ろからそう言うが・・・。

 いくら守護騎士とは言っても、死への恐怖やけがの痛みはあるんだぞ!?

 結局防ぎきれず、数多の狼に噛みつかれる。急所だけは庇っていたので死ぬことはないが、あまりの噛みつきの強さに骨がきしみ、牙の鋭さに肉が切られていく。

 そして私への攻撃に夢中になっている狼を、このクズ男は淡々と斬っていく。

 剣の振り方も稚拙で、剣術を知らない子供が振ったほうがましなレベルだ。
 

 私の血で辺りの地面がが赤く染まるころ、ようやく最後の狼を倒し終る。

「アンジュ」
「任せて!人を守りし女神様よ、我に人を癒す奇跡の力を・・・パーフェクトヒール!!」

 聖女が放った魔法が私を包み、血は止まり、怪我が治っていく・・・が

「せい・・じょさま・・・いったいなにを・・・」
「何って最上級の回復魔法を?」

 そこで私は気を失った。









 目を開くとそこは宿のベットの上だった。

「おう。起きたかカタリー」
「お前は・・・」
「お前を救った勇者様だろ?忘れたのか?」

 どの口でそんなことを・・・。しかし体に力が入らない。今すぐこいつを殴りたいのに・・・。

「カタリーが復帰するまで攻略はおあずけだな」

 私が復帰したところで、到底踏破できるとは思えない。
 1階層であれなのだ。それが全10層?絶望的だろう。

「聖女様は?彼女のヒール、あれだけの回復魔法なら使った本人が疲労するはず・・・」
「アンジュ?ピンピンしてたぞ?今もジュエリー店で買い物しに行ったし」

 あれだけの怪我をなおす回復魔法、それを代償無し?ありえない・・・。ならばどういうことか。

 その代償を私が払った可能性が高い。ヒールをかけられた瞬間いきなり脱力感に見舞われた。
 まるで力が消えていくような感覚・・・。

「そんなことより・・・カタリー俺といいことしねぇ?」
「は?」

 ガバッと布団をはがされ、私の服に手をかけるクズ。

「やめっ!」
「最初は嫌々言うんだよな。エリーもそうだったし。どうせすぐに従順になる」

 体に力が入らない・・・こんな屑にやられるくらいならいっそ舌でも噛み切って・・・!
 
 バンッ!とドアが開く音がし・・・。

「サンダーバレッド」

 バシーンという音が鳴り、私を襲おうとしていたクズが気絶する。

「賢者様?」
「エリーでいい。私は賢者だけど・・・戦闘には向かない雑魚・・・」
「どういうこと?」
「ここは危険・・・移動する」
「でも私は体が動かなくって・・・」
「フィジカルブースト」

 エリーの魔法が私を包む。動かなかった体が少し動くようになる。

「あんまり持たない。馬車まで頑張って」

 即座にベットから起き上がり、クズの顔を思いっきり踏み込んでからエリーと共に外へ向かう。

 宿から出るとすぐそこに馬車が止まっていた。
 そこに乗りこみ、座席に腰を下ろす。

「それじゃあ聞かせてもらいましょうか・・・なんであなた達レベルのパーティーが祠を踏破できたのか・・・それにあのクズの事も」
「まず祠の件。あれは一人の剣士が踏破した。私たちはそれに着いて行ったに過ぎない」
「はい?」

 ただの剣士が?ありえない。嘘にしては稚拙すぎる。

「これは私が・・・パーティーを組む前の話から始まる・・・」



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 冒険者学校に通うことになって一年。賢者賢者と持て囃されてはいたけど、私は極端に魔力が低かった。一般の魔術師の十分の一くらいしかない。
 その代わりと言ってはなんだが、魔法の習熟は早かった。
 王国のあらゆる攻撃魔法を一年で会得し、周りもその事実に驚き、私を伝説の賢者と言うようになった。

 笑える。なにせ大魔法なんて撃とうものなら、一発で魔力切れで倒れ、エンチャントやバフ魔法は込められる魔力が少ないため持続しない。
 手数がいくら増えようが、それを使いこなせない上辺だけの賢者だった。

 しかし冒険者ギルドには試験がある。
 その試験とはダンジョン攻略だ。低レベルのダンジョンを踏破し、その最奥にあるダンジョンコアを破壊して、その証拠として破壊したコアを持って帰る。
 これが出来ないと冒険者学校を卒業できない。
 冒険者学校を卒業したら、魔法院という魔法を研究する施設に入るのが私の目標だった。

 しかし・・・賢者様と組むなんて恐れ多いと誰もパーティーは組んでくれなかった・・・。

 焦った私は魔力を回復してくれるマナポーションを買い込み、ソロでダンジョンを攻略することとなった。


 結果から言うと惨敗だった。3階層でマナポーションも尽き、大量のゴブリンに囲まれた。
 後頭部を殴られ、私は意識が朦朧となり・・・微かに最後に見た景色は・・・


 多数のゴブリンの首が刎ねられる瞬間だった。




 目を覚ますと、冒険者ギルドの医務室のベットの上だった。
 そこにいたのは喋れない剣士のレン。私が起きたことに気付いて、人を呼びに行った。
 やってきたのは医務室の先生と・・・勇者のアルフレッド、そこにベッタリくっついた聖女のアンジュだった。

「大丈夫かいエリー。俺がもう少し遅かったら死んでたぞ」

 心配そうに私に声をかけたのが勇者。

「一応私がヒールを使ったからけがは大丈夫だと思うけど・・・」
「そうですね。後遺症もなさそうですし。良かったですね賢者様。たまたま勇者様が攻略に入って」
「全くその通りだよな」

 レンはボーっと黙ってみているだけだった。まるで興味のないものを見る様に。
 
「ありがとう勇者様・・・そっちの後ろの人は?」
「ん?ああアンジュの幼馴染だよ。言葉もしゃべれない野蛮人だが、壁としては役に立つからな。犬とかそう言うもんだと思っていいぜ」
「そう」

「それよりエリー。俺のパーティーに入らないか?三賢者が揃ったパーティーなんて歴史に残るぜ!俺と居れば死ぬ危険もないしな!」
「もー。私がいるのに他の女の子をナンパするの?」
「いいじゃねえか。ちゃんとアンジュも愛すからよ!」
「仕方ない人ねーまったく・・・エリー。勇者様の誘いを断るわけないよね?」

 ね?と圧力をかけてくるアンジュ。どうせこのままだとここを卒業できない。ならばと思い。

 私はこのパーティーに入ることにした。

 このパーティーはとにかく楽だった。ダンジョンの敵は全てレンが処理してくれる。レンで対応できない敵を強い勇者様が倒すのだろう。そう思っていた。

 冒険者ギルドを無事卒業しても、この楽な暮らしを捨てることはできなかった。
 
 しばらくして私の命を救ってくれた勇者様に身を委ね、快楽におぼれ、思考をしなくなった。
 
 どうせレン程度が倒せる魔物しか現れない。勇者様の手を煩わせることもない。

 Sランクのダンジョンなんて言われている試練の祠でさえ、レン程度で倒せる魔物しかいない。勇者様の出番がないではないか。




 そして勇者様は聖剣を手にし、最強にさらに磨きがかかり、とうとうレンをパーティーから追放した。



 追放した当初は、三賢者の歴史に名を残すパーティーに、言葉も話せない野蛮人がいることは不名誉だと思っていた。だから賛成したし、間違ったことはしていないと思っていた。



 結果私は間違いを悟った。


 そもそも私を救ったのはレンであり、レンの強さに甘えて何もしなかったのが勇者と聖女・・・そして私だった。

 レンがお荷物なんかではなかった、レンにとって、私たちこそが守るべき弱者であり、ただの荷物扱いだったのだ。
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