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IFストーリー聖女さん
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私には生まれた時からずっと隣にいてくれる人がいる。
いつしか一緒に居るのが当たり前になった。私の言う事を聞いてくれるのが当然だと勘違いした。
いつだってそう。無くなって初めて気づくのだ。本当に自分にとって大切なものは・・・。
レンが両親を失って、それと同時に声まで失って・・・私の前から消えてしまって10年。
両親は言う『あの子は魔物へとその身を落としたの。だから関わってはだめ』と。
そう毎日毎日洗脳のように繰り返し私に言う。
最初は納得していたが、年を重ねるごとに寂しさを感じた。
まるで私の心の真ん中に、ぽっかりと穴が開いているように感じる。
いつも通り両親の畑仕事を手伝う。天啓を授かる日が近い、どうせ農民と言われて、この仕事を引き継ぐ。村の適当な男性と結婚し、死ぬまで畑をいじり続けるんだろう。
そのことに対して別に何も思わない。作物を育てることにやりがいも感じるし、この仕事は嫌いではない。
ただただやりようのない寂しさ。これだけが私にとっての悩みだ。
その時、ちらりと見えたボロボロの男の子が、足を引きづりながら歩いている姿が見える。
その男の子は、今は廃屋となりつつあり、レンの家族たちが住んでいた家に足を踏み入れる。
それを見た私は・・・―――――――。
畑仕事をやめ、すぐにその男の子の元へと向かった。
「どこに行くつもりだアンジュ!」
背後から父の声がする。
それを無視し、私はレンの家に駆けこむ。
私が家の中に入ると、男の子はベットの上に体を投げ出し、目を瞑って眠っていた。
「レン・・・なの?」
そっとその男の子に近づく。泥にまみれた顔、衣服には乾いてこびりついたおびただしい血の跡。
自分の服の袖で男の子の顔を優しく拭うと・・・あの頃より少し大人びたレンの顔がそこにあった。
目が熱くなる、なんでだかわからないけど、涙が止まらない。
「レン・・・どこ行ってたのよ・・・寂しかったんだから・・・」
レンを起こさないようそっと抱きしめ、涙を流す。
「見つけた・・・私の・・・大切な・・・」
私が父に連れ戻されるまで、ずっとレンの側で泣き続けた。
あの日から私は家に軟禁された。レンと関わってしまったから。両親が言うには、レンがこの村を出て行くまで家に居ろという事だ。
レンはもうすぐこの村から出て行くそうだ。
私はそれまでに、この家を出ないといけない。レンと共に村から出て行くために・・・。
私は自分の部屋に閉じ込められている。鍵がかけられ、食事の時だけその扉が開く。
窓もない、トイレは父か母のどちらかが同伴する。
気持ちの悪いほどの徹底ぶりだった。
私は既に両親のことを家族だとは思っていない。帰ってきたレンを見た日、私は自分の足りなかったものを知った。まるで曇っていた空が、雲一つない晴天になったかのように晴れやかな気持ちになった。
そしてとうとう明日、レンが村を出て行くらしい。
私は自分の部屋の壁を破壊する。木でできた壁を壊すために、毎日傷を付け続け、ようやく人一人ギリギリ通れるだけの穴をあけることができた。
レンが村を出ると言われた当日、こっそり家を抜け出し、レンの家に向かう。
私がそこで見たものは、手錠をかけられ、男性に連れていかれるレンの姿だった。
どう見ても、レンが自らこの村を出て行くようには見えない。
「わ・・・私が何とかしなきゃ・・・!」
ひとまず武器になりそうなものを、っと思いレンの家に入り、長剣と短剣を抱え、レンの後を隠れながら追う。
たどり着いたのは村の中心。小さな噴水がある広場だった。
そこには人が群がっていた。自分の両親の姿も見える。
人々の中心にあるのは簡易的な首つり台。その台の上にレンが立たされる。
「だめーーーーーー!!」
後先など考えず、人をかき分け、レンの体を押さえていた男性に体ごとぶつかる。
「うおっ!?」
体勢を崩し、尻もちをつく男性。
即座にレンの手を引き、逃げようとするが、あっという間に見物人の人々に囲まれる。
「アンジュ!!どうしてここにいるんだっ!!」
父親の怒鳴り声が聞こえる。
「どいてっ!!」
胸に抱いていた長剣をレンに預け、短剣を鞘から貫き、両手で握って前に突き出す。
戦い方なんて知らない。きっとすぐに押さえつけられるだろう。
だけど・・・ここで引いたら一生後悔する!そう感じていた。
短剣を持ち震える私を鼻で笑いながら近づいて来る大人たち。私を押さえつけるために手を振りかざし、殴りつけようとする。
しかしその手が、私に触れることはなかった。
手錠をしたままレンは剣を握り、鞘の付いたままの剣を振り、大人たちを倒していく。
暴れまわるレン。それを止めようと大人たちが群がるが、全くレンは止まらない。
大人たちはたまらず村に滞在している冒険者を呼んでくるが・・・。
「・・・断る。俺らはあの子の両親に世話になったんだ。恩人の宝物に剣を向けるわけにはいかねぇ」
そういって冒険者達は帰っていく。
もはや大人たちは戦意を喪失し、レンに怯え、距離を取る。
レンは長剣を、呆然としていた私に渡す。
「レン・・・?」
レンの目が語っていた。
大人たちの言っていることは間違っていないと、自分は親の仇を取るために、獣になった。
だから・・・
レンは両ひざをつき、顔を伏せる。
私はレンから預かった長剣を鞘から貫き、振りかぶる。そして―――。
カツーンッと剣先が地面を叩く音と共に・・・レンの手錠を斬った。
顔をあげたレンは首を傾げ不思議そうに私を見る。狙うのはここだぞ?と言わんばかりに首の後ろ側をトントンと叩く。
「できるわけないでしょレン・・・」
跪くレンをそっと抱きしめる。
「私と一緒にこの村を出ましょう?私を守ってくれるんでしょうレン?」
私の背中にレンの手が回される。
戸惑う周りの人々をよそに、私たちはしばしお互いの体温を感じ合っていた。
その後、冒険者の人たちの手助けで、私たちは近くの街へと移動した。生活の為のお金は、レンが狩る魔物の素材を売って日々過ごしている。
そして今日は天啓を授かる日。各村や町にある教会にて、天啓を授かることができる。
この街でレンは無口な少年を演じている。喋れないことがばれれば、この街からも追放されるからだ。
この街の教会は小さく、天啓を授かりに来たのは私とレンだけだった。
「貴方は剣士の天啓を授かったようですね。おめでとうございます」
教会のシスターさんが優しくレンにそう言った。
「おじさんと同じ天啓ね!良かったねレン!」
少しうれしそうに頷くレン。
「次は貴女ね」
私はそうシスターに言われ、前に出る。
私は願う。もう農民でいいなんて思わない。僧侶が理想。もしくは魔術師か剣士がいい。
レンの隣にいるためには、戦えない職ではだめだから・・・。
両手を組み、シスターの前に跪く。
「貴方の天啓は・・・っ!?・・・聖女です」
「聖女・・・?あの伝説の?」
「ええ・・・とても強力な天啓です。しかし・・・未熟な身であればその力を発揮することができません」
「どうすればいいの!!」
その力があれば、ずっとレンと一緒に居れる。私がレンを助けることができる。
守ってもらうばかりじゃない。私だってレンを守ってあげたいのだから。
「聖女様は教会の総本部にて、特別な訓練を受けます。想像を絶する内容の為、辞退する人も過去にいました。それでも―――」
「行きます!!レンも連れて行っていいんですよね?」
シスターは傍らにいるレンをじっと見る。そして私を見て・・・。
「ええ・・・もちろんです。では総本部には連絡しておきましょう。全ての準備はこちらで致します。必要な物だけ持って、明日もう一度協会にお越しください」
シスター笑顔で私たちにそう言った。
教会のマザーに招かれ、聖女の試練を受ける。
何が訓練だ。これは一種の拷問ではないか・・・。虐げられた人々の痛みや悲しみ、苦しみを追体験するという地獄のような内容だった。
でも・・・。
夢の中でも微かにレンの温かみを掌に感じる。それだけで私は前を向ける。頑張れる。乗り越えられる。
長い時間耐え続け、途中で夢が途切れ、目が覚める。
もう試練は終わりなのかな?と思って目を開けると・・・。
目の前には知らない男がいた。何故か私を抱っこしている。
「誰よあんた」
「目を覚ましたのかい聖女アンジュ」
ぎざったらしい笑みを浮かべる男。
「俺は勇者アルフレッド。君を救いに――」
「あんたのことなんてどうでもいいから、降ろしなさいよ」
ピタッと男の動きが止まる。
「ひどい言いようだね。君を地獄の拷問から救ったというのに」
そう言いながらようやく私の事を地面に降ろす。
「頼んでないことを勝手にやって感謝されると思ってるのかしら?迷惑よ」
再び動きが止まる男。ぴくぴくと男のこめかみが動く。
「僕は勇者だ。美しい聖女である君は僕と共にいるべきだと思うんだけど?」
「は?関係ないでしょ。あんたみたいなきざったらしい男ごめんよ」
「そうか・・・だったら俺好みに調教するしかなさそうだな」
男は剣を抜き、私に向かって剣を突きつける。
「安心して、殺しはしないよ。まずは君の主人誰なのかを躾けるだけさ」
「ふん。脅しのつもりかしら・・・あんたなんかより強い人が、あなたの後ろにいるわよ?」
「は?勇者の俺より強い・・・っ!?」
キィン!!と剣と剣が打ち合う音がする。
咄嗟に振り向きガードした男に、レンが剣を打ち込んでいた。
レンは後ろに飛び、再び男との距離を開ける。
「てめぇっ!さっきの攻撃を受けて・・・なぜ動ける!」
レンは答えない。目を輝かせ、真っすぐに男を見る。
「チッ!勇者の俺に真っ向から勝てるの思ってんのか!!」
レンは答えない。剣で語れと言っているかのように、剣をゆらゆらと揺らす。
「まぁいい・・・どうやら聖女にとって大切な人みたいだしな。こいつを殺せば少し素直になるだろう」
男は剣を両手で握り、顔の横に剣を立てる様にして構える。
「死ね!!薄汚い平民風情!!」
私にはその戦闘は見えなかった。次の瞬間に見たのは、剣がクルクルと宙を舞い、地面に刺さる様子だった。
「ふっ・・・」
笑みを浮かべる男・・・私は首を傾げる。
「その剣と両手、あなたのだと思うんだけど?」
「は?・・・ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
男の両手首から血が噴き出す。レンはその血を浴びない様にすでに少し離れた所に立っていた。
「お・・おれの・・・てがあああぁぁぁっぁあいてぇええぇぇぇぇぇ」
地面を転げまわる男。それを無視しレンが私に駆け寄ってくる。
申し訳なさそうな顔をし、私に頭を下げるレン。
「何を謝ってるのレン?マザーの元に戻りましょう」
レンの手を取り、レンの来た方向へと歩き出す。
「おれのて!!おれのてをなおしてくれぇぇぇぇ!!たのむぅぅ」
芋虫のように這いつくばり、涙と鼻水とよだれを垂れ流しながら懇願してくる男。
仕方ないので私は魔法を紡ぐ。
「パーフェクトヒール」
男の両手は元の戻り、流した血も元通りに戻っている事だろう。
男自身の力を代償に回復させた。私は補助しただけ。馬鹿に過ぎた力は必要ない。これで少しはおとなしくなってくれるといいのだけど。
「行きましょうレン。こいつにはもう何もできないわ」
自身の手を頬ずりしている男を尻目に、私とレンはマザーの元へと帰っていった。
マザーの元に帰ってやり直しかと思ったけど、もう大丈夫との事だった。
その後、私はレンと冒険者学校に通い、冒険者となる。
勇者とやらと再会したけど、流石にレンにビビって近づいてくることはなかった。
それと賢者のエリーちゃんと仲良くなった。彼女は冒険者にならず、魔法学院で頑張っているらしい。
そして私とレンは・・・。
「ねぇレン。ちょっと私とキスしましょう」
隣にいるレンは首を傾げ・・・まあ別にいいけどと首を前に振る。
既にレンとは夫婦として過ごしている。今更キスくらいでは照れない。
わたしはレンと唇を重ね、口を開きレンの口内に舌を入れる。絡ませるのではなく・・・喉の奥をつつく様に・・・。
「・・・あっは」
「?」
シュゥゥ・・・と何かが蒸発し消えていく音が、レンの喉から聞こえる。私は舌を戻し、唇を離す。
「レンの声が出ない原因。外側から見えないから内側かなーと思ったから・・・どう話せる?」
「ん・・・あ・・・は・・・な・・せ・・そう」
「良かったわ」
レンはおもむろに私を抱きしめる。
レンから抱きしめられるのは珍しい。嬉しくって、私もレンの背中に手を回す。
「大好きよレン。愛してる・・・私の大切な人・・・」
「おれ・・・も・・・あい・・・して・・る・・・」
「うふふ・・・んっ・・・」
そっとレンと唇を交わす。
今夜は眠れそうにないわね。
いつしか一緒に居るのが当たり前になった。私の言う事を聞いてくれるのが当然だと勘違いした。
いつだってそう。無くなって初めて気づくのだ。本当に自分にとって大切なものは・・・。
レンが両親を失って、それと同時に声まで失って・・・私の前から消えてしまって10年。
両親は言う『あの子は魔物へとその身を落としたの。だから関わってはだめ』と。
そう毎日毎日洗脳のように繰り返し私に言う。
最初は納得していたが、年を重ねるごとに寂しさを感じた。
まるで私の心の真ん中に、ぽっかりと穴が開いているように感じる。
いつも通り両親の畑仕事を手伝う。天啓を授かる日が近い、どうせ農民と言われて、この仕事を引き継ぐ。村の適当な男性と結婚し、死ぬまで畑をいじり続けるんだろう。
そのことに対して別に何も思わない。作物を育てることにやりがいも感じるし、この仕事は嫌いではない。
ただただやりようのない寂しさ。これだけが私にとっての悩みだ。
その時、ちらりと見えたボロボロの男の子が、足を引きづりながら歩いている姿が見える。
その男の子は、今は廃屋となりつつあり、レンの家族たちが住んでいた家に足を踏み入れる。
それを見た私は・・・―――――――。
畑仕事をやめ、すぐにその男の子の元へと向かった。
「どこに行くつもりだアンジュ!」
背後から父の声がする。
それを無視し、私はレンの家に駆けこむ。
私が家の中に入ると、男の子はベットの上に体を投げ出し、目を瞑って眠っていた。
「レン・・・なの?」
そっとその男の子に近づく。泥にまみれた顔、衣服には乾いてこびりついたおびただしい血の跡。
自分の服の袖で男の子の顔を優しく拭うと・・・あの頃より少し大人びたレンの顔がそこにあった。
目が熱くなる、なんでだかわからないけど、涙が止まらない。
「レン・・・どこ行ってたのよ・・・寂しかったんだから・・・」
レンを起こさないようそっと抱きしめ、涙を流す。
「見つけた・・・私の・・・大切な・・・」
私が父に連れ戻されるまで、ずっとレンの側で泣き続けた。
あの日から私は家に軟禁された。レンと関わってしまったから。両親が言うには、レンがこの村を出て行くまで家に居ろという事だ。
レンはもうすぐこの村から出て行くそうだ。
私はそれまでに、この家を出ないといけない。レンと共に村から出て行くために・・・。
私は自分の部屋に閉じ込められている。鍵がかけられ、食事の時だけその扉が開く。
窓もない、トイレは父か母のどちらかが同伴する。
気持ちの悪いほどの徹底ぶりだった。
私は既に両親のことを家族だとは思っていない。帰ってきたレンを見た日、私は自分の足りなかったものを知った。まるで曇っていた空が、雲一つない晴天になったかのように晴れやかな気持ちになった。
そしてとうとう明日、レンが村を出て行くらしい。
私は自分の部屋の壁を破壊する。木でできた壁を壊すために、毎日傷を付け続け、ようやく人一人ギリギリ通れるだけの穴をあけることができた。
レンが村を出ると言われた当日、こっそり家を抜け出し、レンの家に向かう。
私がそこで見たものは、手錠をかけられ、男性に連れていかれるレンの姿だった。
どう見ても、レンが自らこの村を出て行くようには見えない。
「わ・・・私が何とかしなきゃ・・・!」
ひとまず武器になりそうなものを、っと思いレンの家に入り、長剣と短剣を抱え、レンの後を隠れながら追う。
たどり着いたのは村の中心。小さな噴水がある広場だった。
そこには人が群がっていた。自分の両親の姿も見える。
人々の中心にあるのは簡易的な首つり台。その台の上にレンが立たされる。
「だめーーーーーー!!」
後先など考えず、人をかき分け、レンの体を押さえていた男性に体ごとぶつかる。
「うおっ!?」
体勢を崩し、尻もちをつく男性。
即座にレンの手を引き、逃げようとするが、あっという間に見物人の人々に囲まれる。
「アンジュ!!どうしてここにいるんだっ!!」
父親の怒鳴り声が聞こえる。
「どいてっ!!」
胸に抱いていた長剣をレンに預け、短剣を鞘から貫き、両手で握って前に突き出す。
戦い方なんて知らない。きっとすぐに押さえつけられるだろう。
だけど・・・ここで引いたら一生後悔する!そう感じていた。
短剣を持ち震える私を鼻で笑いながら近づいて来る大人たち。私を押さえつけるために手を振りかざし、殴りつけようとする。
しかしその手が、私に触れることはなかった。
手錠をしたままレンは剣を握り、鞘の付いたままの剣を振り、大人たちを倒していく。
暴れまわるレン。それを止めようと大人たちが群がるが、全くレンは止まらない。
大人たちはたまらず村に滞在している冒険者を呼んでくるが・・・。
「・・・断る。俺らはあの子の両親に世話になったんだ。恩人の宝物に剣を向けるわけにはいかねぇ」
そういって冒険者達は帰っていく。
もはや大人たちは戦意を喪失し、レンに怯え、距離を取る。
レンは長剣を、呆然としていた私に渡す。
「レン・・・?」
レンの目が語っていた。
大人たちの言っていることは間違っていないと、自分は親の仇を取るために、獣になった。
だから・・・
レンは両ひざをつき、顔を伏せる。
私はレンから預かった長剣を鞘から貫き、振りかぶる。そして―――。
カツーンッと剣先が地面を叩く音と共に・・・レンの手錠を斬った。
顔をあげたレンは首を傾げ不思議そうに私を見る。狙うのはここだぞ?と言わんばかりに首の後ろ側をトントンと叩く。
「できるわけないでしょレン・・・」
跪くレンをそっと抱きしめる。
「私と一緒にこの村を出ましょう?私を守ってくれるんでしょうレン?」
私の背中にレンの手が回される。
戸惑う周りの人々をよそに、私たちはしばしお互いの体温を感じ合っていた。
その後、冒険者の人たちの手助けで、私たちは近くの街へと移動した。生活の為のお金は、レンが狩る魔物の素材を売って日々過ごしている。
そして今日は天啓を授かる日。各村や町にある教会にて、天啓を授かることができる。
この街でレンは無口な少年を演じている。喋れないことがばれれば、この街からも追放されるからだ。
この街の教会は小さく、天啓を授かりに来たのは私とレンだけだった。
「貴方は剣士の天啓を授かったようですね。おめでとうございます」
教会のシスターさんが優しくレンにそう言った。
「おじさんと同じ天啓ね!良かったねレン!」
少しうれしそうに頷くレン。
「次は貴女ね」
私はそうシスターに言われ、前に出る。
私は願う。もう農民でいいなんて思わない。僧侶が理想。もしくは魔術師か剣士がいい。
レンの隣にいるためには、戦えない職ではだめだから・・・。
両手を組み、シスターの前に跪く。
「貴方の天啓は・・・っ!?・・・聖女です」
「聖女・・・?あの伝説の?」
「ええ・・・とても強力な天啓です。しかし・・・未熟な身であればその力を発揮することができません」
「どうすればいいの!!」
その力があれば、ずっとレンと一緒に居れる。私がレンを助けることができる。
守ってもらうばかりじゃない。私だってレンを守ってあげたいのだから。
「聖女様は教会の総本部にて、特別な訓練を受けます。想像を絶する内容の為、辞退する人も過去にいました。それでも―――」
「行きます!!レンも連れて行っていいんですよね?」
シスターは傍らにいるレンをじっと見る。そして私を見て・・・。
「ええ・・・もちろんです。では総本部には連絡しておきましょう。全ての準備はこちらで致します。必要な物だけ持って、明日もう一度協会にお越しください」
シスター笑顔で私たちにそう言った。
教会のマザーに招かれ、聖女の試練を受ける。
何が訓練だ。これは一種の拷問ではないか・・・。虐げられた人々の痛みや悲しみ、苦しみを追体験するという地獄のような内容だった。
でも・・・。
夢の中でも微かにレンの温かみを掌に感じる。それだけで私は前を向ける。頑張れる。乗り越えられる。
長い時間耐え続け、途中で夢が途切れ、目が覚める。
もう試練は終わりなのかな?と思って目を開けると・・・。
目の前には知らない男がいた。何故か私を抱っこしている。
「誰よあんた」
「目を覚ましたのかい聖女アンジュ」
ぎざったらしい笑みを浮かべる男。
「俺は勇者アルフレッド。君を救いに――」
「あんたのことなんてどうでもいいから、降ろしなさいよ」
ピタッと男の動きが止まる。
「ひどい言いようだね。君を地獄の拷問から救ったというのに」
そう言いながらようやく私の事を地面に降ろす。
「頼んでないことを勝手にやって感謝されると思ってるのかしら?迷惑よ」
再び動きが止まる男。ぴくぴくと男のこめかみが動く。
「僕は勇者だ。美しい聖女である君は僕と共にいるべきだと思うんだけど?」
「は?関係ないでしょ。あんたみたいなきざったらしい男ごめんよ」
「そうか・・・だったら俺好みに調教するしかなさそうだな」
男は剣を抜き、私に向かって剣を突きつける。
「安心して、殺しはしないよ。まずは君の主人誰なのかを躾けるだけさ」
「ふん。脅しのつもりかしら・・・あんたなんかより強い人が、あなたの後ろにいるわよ?」
「は?勇者の俺より強い・・・っ!?」
キィン!!と剣と剣が打ち合う音がする。
咄嗟に振り向きガードした男に、レンが剣を打ち込んでいた。
レンは後ろに飛び、再び男との距離を開ける。
「てめぇっ!さっきの攻撃を受けて・・・なぜ動ける!」
レンは答えない。目を輝かせ、真っすぐに男を見る。
「チッ!勇者の俺に真っ向から勝てるの思ってんのか!!」
レンは答えない。剣で語れと言っているかのように、剣をゆらゆらと揺らす。
「まぁいい・・・どうやら聖女にとって大切な人みたいだしな。こいつを殺せば少し素直になるだろう」
男は剣を両手で握り、顔の横に剣を立てる様にして構える。
「死ね!!薄汚い平民風情!!」
私にはその戦闘は見えなかった。次の瞬間に見たのは、剣がクルクルと宙を舞い、地面に刺さる様子だった。
「ふっ・・・」
笑みを浮かべる男・・・私は首を傾げる。
「その剣と両手、あなたのだと思うんだけど?」
「は?・・・ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
男の両手首から血が噴き出す。レンはその血を浴びない様にすでに少し離れた所に立っていた。
「お・・おれの・・・てがあああぁぁぁっぁあいてぇええぇぇぇぇぇ」
地面を転げまわる男。それを無視しレンが私に駆け寄ってくる。
申し訳なさそうな顔をし、私に頭を下げるレン。
「何を謝ってるのレン?マザーの元に戻りましょう」
レンの手を取り、レンの来た方向へと歩き出す。
「おれのて!!おれのてをなおしてくれぇぇぇぇ!!たのむぅぅ」
芋虫のように這いつくばり、涙と鼻水とよだれを垂れ流しながら懇願してくる男。
仕方ないので私は魔法を紡ぐ。
「パーフェクトヒール」
男の両手は元の戻り、流した血も元通りに戻っている事だろう。
男自身の力を代償に回復させた。私は補助しただけ。馬鹿に過ぎた力は必要ない。これで少しはおとなしくなってくれるといいのだけど。
「行きましょうレン。こいつにはもう何もできないわ」
自身の手を頬ずりしている男を尻目に、私とレンはマザーの元へと帰っていった。
マザーの元に帰ってやり直しかと思ったけど、もう大丈夫との事だった。
その後、私はレンと冒険者学校に通い、冒険者となる。
勇者とやらと再会したけど、流石にレンにビビって近づいてくることはなかった。
それと賢者のエリーちゃんと仲良くなった。彼女は冒険者にならず、魔法学院で頑張っているらしい。
そして私とレンは・・・。
「ねぇレン。ちょっと私とキスしましょう」
隣にいるレンは首を傾げ・・・まあ別にいいけどと首を前に振る。
既にレンとは夫婦として過ごしている。今更キスくらいでは照れない。
わたしはレンと唇を重ね、口を開きレンの口内に舌を入れる。絡ませるのではなく・・・喉の奥をつつく様に・・・。
「・・・あっは」
「?」
シュゥゥ・・・と何かが蒸発し消えていく音が、レンの喉から聞こえる。私は舌を戻し、唇を離す。
「レンの声が出ない原因。外側から見えないから内側かなーと思ったから・・・どう話せる?」
「ん・・・あ・・・は・・・な・・せ・・そう」
「良かったわ」
レンはおもむろに私を抱きしめる。
レンから抱きしめられるのは珍しい。嬉しくって、私もレンの背中に手を回す。
「大好きよレン。愛してる・・・私の大切な人・・・」
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