義兄の邪魔にならないよう、結婚して家を出ようとしただけなのに。

鷲井戸リミカ

文字の大きさ
9 / 10

(9)

しおりを挟む
 どうやら、あの一瞬で転移魔術を行使していたらしい。当たり前のように高度な魔術を使ってみせる義兄はやはりすごいと感心していたら、そっとおとがいに手をかけられた。いつの間にか両腕の拘束は解けている。義兄に心を覗きこまれているような気がした。

「ジャレッド、お前はわたしが好きなのか?」
「初めて会った時から、好きでした」

 もう今さらだ。隠していたはずの本音は、もはやジャレッドの意志では止められないまま口からこぼれていく。

「ずっと、ずっと好きでした。でも、俺はもらわれてきた身だから、義兄上の邪魔にならないようにしなくちゃって。どうにか役に立てるようにならなくちゃって。だから、言うつもりなんてなかったんです。どうか、嫌いにならないでください」

 すがるようにヴィンセントの背中に手を回してしがみつけば、それに応えるように抱きしめられた。

「ああ、ジャレッド。すまない。わたしのほうこそ、嫉妬に目がくらんでしまっていた」
「義兄上?」
「お前はわたしの太陽だ。わたしが美しいとお前は言うが、それはお前が隣にいてくれるからだ。お前と出会ってから初めて、わたしの世界にあたたかな光が満ちたのだよ」

 早熟な天才と呼ばれていたが、ジャレッドに出会うまで生きる意味を見出せなかったのだと、ヴィンセントは懐かしむように笑ってみせた。何をやっても初見で完璧に習得してしまうヴィンセントにとって、この世界は無味乾燥なものでしかなかった。宮廷魔術師となり、塔に入って世界の深淵に触れれば何かが変わるかもしれないが、それまでに心が死んでしまいそうな気がする。そんな時に出会ったのがジャレッドだった。

 緊張した面持ちで侯爵家にやってきたジャレッドが、ヴィンセントを見てぱっと顔を輝かせた瞬間に、ヴィンセントの心臓は本当の意味で動き、全身に温かい血が通い始めたのだ。実の父親に、ジャレッドについては手出し無用だと釘をさし、何くれと世話を焼いていればつまらないと思っていた日々の暮らしも極彩色に彩られていく。そして気が付けば、ジャレッドがいない人生など考えられなくなっていた。

「ああ、ジャレッド。愛している。一目見た時から、お前を手に入れたくて仕方がなかった」

 あやすように何度も唇をついばまれ、ジャレッドはくすぐったさに身をよじる。あまりにも甘く優しい口づけ。口の中で歯列をなぞる義兄の舌に自分の舌を絡ませれば、身体を貫いたままのヴィンセントの雄が一段と大きくなる。自分の指では届かない部分を押し上げられて、一瞬頭が真っ白になりかけた。

「義兄上、動いてください。これ、もどかしくて、苦しいっ」
「ああ、もちろんだとも。だが、わたしのために身体を準備してくれたというのなら、隅々まで味合わせてもらってかまわないだろう?」

 先ほどまでの激しさとは一転、じれったくなるほどの緩慢さで抜き差しされ、ジャレッドは思わず腰をくねらせる。もっと強引に押し開かれても構わないから、早く高みに連れて行ってほしい。気持ちいいとはいえ、達せないまま延々と上り詰めた状態におかれて、ジャレッドはこらえきれずに義兄の背中に脚を回した。できるだけ深く繋がりたい。このままぐちゃぐちゃに犯してほしい。

「わたしの、ジャレッド」

 見ないようにしていた身体の中の欠けた部分が、ヴィンセントによってゆっくりと埋められていく。先ほどまでと同じ行為のはずなのに、どうしてこんなにも幸せなのか。奥まで挿しこまれた彼自身は苦しいほどの質量でありながら、泣きたくなるほど心地よくて、ジャレッドはもう寂しくなんてなかった。この世界に生まれて、それなりに楽しく生活してきたと思っていた。けれど、愛するひととの境目がわからないくらいに溶けあった今、ようやくジャレッドは完璧な幸せを手に入れたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される

木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

処理中です...