義兄の邪魔にならないよう、結婚して家を出ようとしただけなのに。

鷲井戸リミカ

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「その格好は、どういうことだ」
「も、申し訳ありません!」

 慌てて服を調えようとしたが、なぜか片腕をつかまれた。こんなみっともない格好でお説教を受ける羽目になろうとは。

「そもそも、なぜこんな夜会に参加している。大した内容ではないから、参加せずともよいと伝えておいただろう」
「……いまだ婚約も調わぬ身ですから、侯爵家の役に立てるように自分を売り込もうかと思いまして」
「……侯爵家は、お前の婚姻ひとつで左右されるほどやわではない」

 政略結婚の駒にされていない。それは本来ならば喜ぶべきこと家族の優しさなのだろう。義兄への想いを隠して、結婚という形で家を出て行こうとしているのはジャレッドのわがままだ。後ろ暗い気持ちがあるせいか、義兄を直視できずにうつむいた。

「やれやれ。それでは質問を変えよう。ジャレッド、濃紺は嫌いか?」
「え? いいえ。濃紺は俺の好きな色です」
「では、白金は?」
「もちろん白金も好きですよ。一体何の確認になのでしょうか?」

 ヴィンセントに何を問われたのかわからず、ジャレッドは首を傾げる。目の前の麗人は、苛立たし気に髪をかきあげた。怒りのせいだろうか瞳の色が普段よりもさらに強くきらめいている。俺のお月さまは、今日も綺麗だな。説教されているというのに、ジャレッドはただただ見惚れていた。

「なるほど。無自覚ということか。それならば、思い出させてやろう」

 義兄が指を鳴らせば、どういう仕組みなのか空中にとある男の姿が映った。先ほどの夜会で、ジャレッドが声をかけた男だ。

「銀髪に青い瞳」

 義兄はそれだけ言って軽く手を振れば、男の姿は一瞬でかき消えた。

「次」

 再び義兄の合図に合わせて、別の男の姿が映る。こちらも先ほどの夜会で声をかけた顔だ。

「黒髪に紫の瞳」

 次から次へと、見覚えのある姿が映っては消えていく。そのたびに義兄であるヴィンセントが髪色と瞳の色を声に出していたが、ひよこの雌雄判別でもあるまいし、何の意味があるのだろうか。ますます不思議そうな顔をするジャレッドに、義兄が不愉快そうに眉を寄せた。

「これでもまだ、気が付かないのか?」
「ええと、一体何がですか?」
「お前は、濃紺の髪や白金の瞳の者には、ひとりも声をかけていない。それ以外の人間は、爵位や年齢、美醜にかかわらず、ひととおり、それこそ誰でもいいとばかりに声をかけているというのに。それは、わたしの存在が気に食わないという意味だろうか?」
「ど、どうして、そういう話になるのですか!」

 義兄の言葉に、ジャレッドは思わずめまいがした。
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