義兄の邪魔にならないよう、結婚して家を出ようとしただけなのに。

鷲井戸リミカ

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 そして現在、学園を卒業し、ジャレッドは騎士団に入団していた。騎士服に身を包んだジャレッドのことを義兄は大変喜んでくれたので、それだけで騎士団に進んでよかったと思っていたりする。それにジャレッドの付与魔術は、宮廷魔術師となった義兄が研究を続けており、騎士団における付与魔術技術の向上にも大きく貢献していた。義兄の役に立つことは、ジャレッドにとって何よりの喜びなのだ。

 傍から見れば順風満帆な人生を送っているジャレッドだが、悩みがないわけではなかった。結婚適齢期だというのに、いつまでたっても婚約者が決まらないのである。結婚適齢期を過ぎてしまっては、さらに結婚は難しくなるだろう。元平民のジャレッドを馬鹿にする周囲の耳障りな雑音が、また耳に入るようになってきていた。

 義兄とジャレッドの仲はよいから、たとえ結婚が決まらずとも屋敷から追い出されることはない。だが、個人的に嫌なのだ。結婚し子どもをもうけ、幸せそうに暮らす義兄を見ながら生きていくなんて、胃に穴が空いてしまうに違いない。ヴィンセントの結婚相手も困惑することだろう。所詮自分は邪魔者なのだ。いつまでも血の繋がらない義弟が屋敷にいては、心休まる時間もないに違いない。夫婦間の不和の原因になるなどまっぴらごめんだ。

 なにより何かの拍子に自分の想いを義兄に吐露してしまったらと考えると恐ろしい。絶対に叶わないとわかっているのだから、家族としての繋がりだけは残しておきたかった。義兄の可愛いひとになれないのなら、一生可愛い弟でいたい。そう思うくらいには、ジャレッドは義兄に一途なのだ。

 それゆえジャレッドは、一生懸命婚活に励んでいた。こちらの世界では、大規模お見合いパーティーとも言うべき夜会が大々的に開催されている。いくら出自が卑しいとはいえ、現在は侯爵家の身内だ。騎士団員としてそれなりの地位についている。さすがに選り好みしなければ、なんとか相手を見つけられるだろう。さっさと結婚して屋敷を出て行けるのならば、この際誰でもいい。そう思っていたのだが。

(そんなに俺は不細工なのだろうか。顔を引きつらせて逃げださなくても……)

 一生懸命話しかけようとしたところで、すぐに距離を取られてしまう。学園で馬鹿相手に決闘を行った辺りから、他人から避けられていることには気が付いていた。無視されるわけではないが、明らかに警戒されている。例外は、義兄の周りにいる美青年たちくらいだろうか。まったくもって馬鹿馬鹿しい。自分が一体何をしたっていうんだ。急にどうでもよくなり、夜会の会場を抜けて休憩室で休ませてもらうことにした。堅苦しい格好も、もうたくさんだ。

「こんなところで何をしている!」
「ヴィンセント義兄上? 義兄上こそどうしてこんなところに? 挨拶周りは済んだのですか?」
「今はわたしが質問しているのだ。早く答えなさい」

 クラバットを外し、シャツのボタンも外してしまう。ついでにベルトも緩めて案内された部屋のソファーで寛いでいたら、なぜか怒気をにじませた義兄が飛び込んできた。
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