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媚薬じゃなかった!? ③
しおりを挟む「ライリーは見ていないわね。あの子、最近かくれんぼに夢中で。乳母の部屋に隠れているかもしれないわ」
「そうですか、では確認してきます」
デリックはそう返事をしながらも、まだわたしのことをじっと見ている。
「あの、奥さま、そちらの方は……」
「ああ、初めてだったわね。妹のミルドレッドよ。ミルドレッド、こちらは息子の新しい家庭教師のデリック。前の方が辞めたので、エイベル男爵家のご子息に来てもらったのよ」
貴族の三男や四男が、位が上の貴族に雇われることはよくある。家を継ぐ長男やそれを支える次男は別として、三男以降は彼のように手に職をつけて働くことが多いのだ。
「……ミルドレッド、さま……」
「よろしくお願いいたします」
彼の視線が、なんだか粘っこくて気持ち悪い。一見穏やかそうな普通の男性なんだけど。
わたしが顔をそむけて姉と話をしようとすると、デリックは食い下がるように言葉を続けた。
「ミルドレッドさまは、ライリーさまとお会いになったことはごさいますか?」
「え? ええ、もちろん。でも、二か月ぶりかしら」
「私が家庭教師を始めたのはひと月ほど前なので、ちょうど入れ違いでしたね」
「そうですか」
「あの年ごろの子どもは、日に日に成長して変わっていきます。早く会いたいでしょう。よろしければ一緒に探しに行きませんか?」
ライリーが生まれたとき、わたしは十四歳。ちょうど社交界にデビューした年だった。
デビュタントへの出席は、大人への仲間入りの宣言とみなされる。つまり、『この娘は婚約が可能です』というお披露目なのだ。
十四歳のころ、わたしはもうクリストフへの恋心を自覚していた。デビュタント以降は、クリストフ以外の男性からの目線をいかにして避けるかが、ひとつの課題だった。
それに協力してくれたのが妊娠中のアレクシスで、わたしはそのころから姉とより仲良くなったのだ。
ライリーは姉との絆の象徴のような存在で、だから甥っ子には格別な思いがある。
「うーん、そうねえ」
当時のことを思い出したら、早くライリーに会いたくなってきた。
「お姉さま、わたしもライリーを探しに行ってもいいかしら」
アレクシスは軽く首をかしげた。
「じゃあ、その間に夕食の手配をしてくるわ。今夜はクリストフさまも交えて、ディナーにしましょう」
「まあ、うれしい! 侯爵家の料理長の腕は素晴らしいものね」
「あなたは食いしん坊ね」
くすくすと笑い合って、わたしたちはそこでいったん別れた。
わたしはデリックのあとについて、ライリーの乳母の部屋に向かった。
かわいい甥っ子はどのくらい大きくなったかしら。久しぶりに会うのが楽しみだ。
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