上 下
27 / 45

かわいくなんかありません ②

しおりを挟む


「それは無理です。わたくしは――」

 説明しようと口を開いたのに、彼はわたしの言葉を聞く気はないようで、また勝手にしゃべりはじめた。

「ああ、素晴らしい。成人で、結婚できる年齢なのに幼いままなんて、本当に理想的だ。女の子はみんな、年を取らずにかわいいままでいればいいのにね」

 わたしはたしかに童顔で、実年齢よりも若く見えるみたいだけれど、それでも心は普通の十八歳の女性だ。
 そんな中身を知らずに、外見だけで判断されることもよくある。
 でも、ここまで自分の理想に当てはめて、思い込まれることはなかった。

 デリックはわたしを見つめて、にこにこと笑っていた。子どもの機嫌を取るような、少し高い声で話しかけてくる。

「怖くないよ。優しくしてあげる。僕は小さな女の子を泣かせるようなことはしないから、安心してね」

 デリックの腕が背中に回った。髪をなでながら抱きしめてくる。

「……っ」

 自分より力が強くて、話の通じない男。
 体が細かく震えてきた。
 恐ろしい。抵抗しようと思うのに、恐怖で体が強ばって動けない。

 デリックは子どもを相手にするように、わたしの頭を繰り返しなでた。

「僕がお人形さんみたいに、ずうっとかわいがってあげるからね」
「……いや……」
「ミルドレッドは、お姉さまとは全然違うね。あんなに女くさいのは気色が悪いよね」

 そうささやいて、わたしの髪に頬をこすりつける。

 気色悪いのは、こちらのほうだ。
 一方でそんな恐怖や不快な気持ちとは別に、わたしは彼の言葉に大きなショックを受けていた。

(やっぱりみんな、わたしとお姉さまを比べるのね……)

 小柄で童顔なわたしと、すらりと背が高くて女性らしい体型の姉。
 同じ血を引くことが丸わかりの、よく似た金髪碧眼だからこそ、わたしはいつも姉と比べられてきた。

 ――姉のアレクシスのように、大人っぽい女性になりたい。

 それはずっと抱いてきた劣等感だった。
 クリストフも、最初はわたしを子ども扱いしていた。

 でも、わたしはクリストフの妻として認めてもらえるようにがんばった。媚薬はやりすぎだったかもしれないけど、彼の居心地のいい家を作って安らいでもらえるように。

 クリストフの言葉を思い出す。

『ミルドレッドが見かけ以上に大人であることはよくわかった』

 そして抱こうとしてくれて……結果はうまく行かなかったけど、彼は認めてくれた。妻にふさわしい大人にはなり切れていないかもしれないけれど、幼く見えるところが魅力だなんて言わなかった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【R18】大人のおもちゃ屋。魔導具(性具)で女の子たちをパワーアップ。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:432

ロリコンな俺の記憶

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:3,436pt お気に入り:15

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

BL / 連載中 24h.ポイント:569pt お気に入り:299

貧乏子爵令息のオメガは王弟殿下に溺愛されているようです

BL / 連載中 24h.ポイント:7,064pt お気に入り:3,303

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,202pt お気に入り:456

処理中です...