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かわいくなんかありません ②
しおりを挟む「それは無理です。わたくしは――」
説明しようと口を開いたのに、彼はわたしの言葉を聞く気はないようで、また勝手にしゃべりはじめた。
「ああ、素晴らしい。成人で、結婚できる年齢なのに幼いままなんて、本当に理想的だ。女の子はみんな、年を取らずにかわいいままでいればいいのにね」
わたしはたしかに童顔で、実年齢よりも若く見えるみたいだけれど、それでも心は普通の十八歳の女性だ。
そんな中身を知らずに、外見だけで判断されることもよくある。
でも、ここまで自分の理想に当てはめて、思い込まれることはなかった。
デリックはわたしを見つめて、にこにこと笑っていた。子どもの機嫌を取るような、少し高い声で話しかけてくる。
「怖くないよ。優しくしてあげる。僕は小さな女の子を泣かせるようなことはしないから、安心してね」
デリックの腕が背中に回った。髪をなでながら抱きしめてくる。
「……っ」
自分より力が強くて、話の通じない男。
体が細かく震えてきた。
恐ろしい。抵抗しようと思うのに、恐怖で体が強ばって動けない。
デリックは子どもを相手にするように、わたしの頭を繰り返しなでた。
「僕がお人形さんみたいに、ずうっとかわいがってあげるからね」
「……いや……」
「ミルドレッドは、お姉さまとは全然違うね。あんなに女くさいのは気色が悪いよね」
そうささやいて、わたしの髪に頬をこすりつける。
気色悪いのは、こちらのほうだ。
一方でそんな恐怖や不快な気持ちとは別に、わたしは彼の言葉に大きなショックを受けていた。
(やっぱりみんな、わたしとお姉さまを比べるのね……)
小柄で童顔なわたしと、すらりと背が高くて女性らしい体型の姉。
同じ血を引くことが丸わかりの、よく似た金髪碧眼だからこそ、わたしはいつも姉と比べられてきた。
――姉のアレクシスのように、大人っぽい女性になりたい。
それはずっと抱いてきた劣等感だった。
クリストフも、最初はわたしを子ども扱いしていた。
でも、わたしはクリストフの妻として認めてもらえるようにがんばった。媚薬はやりすぎだったかもしれないけど、彼の居心地のいい家を作って安らいでもらえるように。
クリストフの言葉を思い出す。
『ミルドレッドが見かけ以上に大人であることはよくわかった』
そして抱こうとしてくれて……結果はうまく行かなかったけど、彼は認めてくれた。妻にふさわしい大人にはなり切れていないかもしれないけれど、幼く見えるところが魅力だなんて言わなかった。
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