堕落夫とは本日限りで離縁致します

遠野エン

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性根の腐ったお義母様には退場して頂きます

第10話 真相を暴く

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アンジェラの叫びがまだ耳の奥で反響している。

「『ヴォイド・リリー』よ!!」

私は黙ってアンジェラを見ていた。彼女自身が一番、その失言の意味をわかっている。口を押さえた指先が震え、視線だけが周囲を忙しくさまよう。

「……今、なんとおっしゃいましたか、お義母様」

あくまで淡々と確認する。責めもしない、責めているようには見せない。そのほうが言葉はよく届く。

「わ、私は……なにも……」
「私はオピシリンを盛ったと告白しました。おかしいですね」

主治医が眉根を寄せる。ハロルドが何かを察したように目を伏せた。

「ヴォイド・リリーとは――」

私は医師を見る。促すように急かすことなく。

「……摂取しても多くの場合は死に至らない。中毒症状と多少の吐血を伴うが、適切な処置を行えば数日で回復する。命に別状はない」

医師はそう答えた。私は頷き、アンジェラに向き直る。

「たまたまよ! そんなの、たまたま聞きかじっただけで――」
「よろしければその"聞きかじった"経緯をお話しいただけますか。どこで、誰から、何のために」

声を荒げない。むしろ少しだけ柔らかくする。逃げ場を塞ぐとき、人は自分から穴を掘ってくれる。アンジェラは口をぱくぱくと動かすだけで言葉にならなかった。

「……ともあれ」

私はそこで一度区切り、サロン全体に視線を巡らせた。

「今わかっている事実を整理いたしましょう」

手近なサイドテーブルからメモ用紙を取り、ペンを走らせる。これは自分の思考のためであり、同時に"見える証拠"を作るためでもある。

・私はオピシリンを盛ったと告白した
・医師の診断では奥方様は数日の安静で回復見込み
・オピシリンであれば致死量の摂取が唯一の治療法
・ヴォイド・リリーなら、派手な症状ののちに回復するのが通常
・奥方様はその名を自らの口から出した

紙をくるりと返し、皆に見えるように掲げる。

「……私の"自白"は取り消します。もともと"お義母様から証言を引き出すための虚偽"でしたから」
「オピシリンを使ったというのは嘘……ということなのか?」
「はい、その通りでございます」

レクシオが低く問う。怒りというより、状況を測りかねている声音だった。

正直に言えば虚偽の自白はここまで持てば十分だった。狙いはただひとつ。アンジェラを"恐怖"の只中に放り込み、彼女の口から自身が使った毒の名をしゃべらせること。

「では次にを確認しましょう」

私はハロルドのほうを見た。

「奥方様は倒れられてから今日まで外出なさいましたか?」
「いえ、サロンで倒れられてからはずっと静養のため奥の居室に。屋敷の外には一歩も出ておりません」
「そうですか」

予想通り。ならば次の問いは決まっている。

「粉末にしていたなら包みがなくてはならない。事の後、毒の粉末を包んでいた紙片をどう処理するか。ゴミ箱に捨てれば誰かが拾うかもしれない。家具の隙間や花瓶の下に隠しておけば、掃除をする使用人に見つかるリスクがある。ならば肌身離さず持ち歩くのが心理的に一番安心でしょう。アンジェラ様、服のを調べさせて頂けますでしょうか?」

アンジェラは露骨に顔色を変え、椅子の肘掛けを握りしめた。

「お待ちなさい!」

必死の調子で言う。

「女の服をそんなふうに勝手に調べるなんて――! 淑女への冒涜よ!」
「目的はただひとつです、お義母様」

私は淡々と返す。

「本当に毒が外部から持ち込まれたのか。それとも、この屋敷の内側――あるいはもっと限定すればによって用意されたのかどうか」

アンジェラの瞳が燃えるように私をにらむ。その視線を正面から受け止める。

「拒否なさるのであれば、それもひとつの回答です。『調べられては困るものがある』と、ここにいる全員の前で宣言なさるのと同義になりますが」
「黙りなさい!!」

裏返った怒声がサロンに響いた。自制心を失いかけた声。そこにあるのは貴族夫人の威厳ではなく、ただの追い詰められた人間の叫び。

そのとき、サロンの扉がノックもなく開いた。

「――そのあたりにしておけ」
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