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13.猫との再会
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レオに腕を引かれるまま、私たちは人気のない校舎の裏手へと歩いていた。
「本当に……この先にいるのかしら」
「さあな。だが火のない所に煙は立たねえだろ」
「もし、誰もいなかったら……あなた、どうしてくれるのよ」
「そん時はそん時だ。勘違いだったって笑ってやる」
軽口とは裏腹に、私を掴むレオの手には力がこもっていた。やがて、蔦の絡まる旧理科準備室の前にたどり着いた。
窓に明かりはなく、人の気配は全くしない。
静寂だけが私たちを包んでいた。
「……誰もいないじゃない」
私は安堵と自己嫌悪が入り混じった声で呟いた。
「ほら、やっぱりあなたの見間違いよ!アルバートはそんなことする人じゃないわ!」
「……チッ。あっちの方かもしれねえ」
「もういい! もう帰りましょう! こんなことしてるなんてアルバートに知られたら……私、最低よ。恋人を疑って、こんな……!」
レオを振り払い、踵を返そうとしたその時。
「にゃあ」
足元から猫の鳴き声が聞こえた。
見ると、この間公園で手当てしたあのぶち猫が私の足にすり寄ってきたのだ。
「あ……! あなた、この間の……! こんな所にいたのね! よかった、傷はもう痛まない?」
私が優しく声をかけると、猫は興味なさそうに尻尾をぱたりと揺らしただけだった。
「ブッチ!」
「……は? ブッチ……だと? ブチ柄だからブッチかよ。お前のそのネーミングセンス、壊滅的だな」
「い、いいでしょ別に! 可愛くて覚えやすいじゃない!」
「初等部生でももうちょい捻るぞ」
「うるさいわね!」
突然、ブッチはくるりと向きを変え、数歩先でこちらを振り返る。そしてまた「にゃあ」と鳴くと、使われなくなった空き教室の方へととことこ歩いて行った。
ブッチは教室の古びた扉の前でぴたりと足を止め、ちょこんと座り込んだ。まるで「ここだよ」とでも言うように。
その時、教室の窓から微かな光が漏れていることにレオが気づいた。
「……おい、静かにしろ」
「え?」
レオは素早く私の口を右手で塞ぐと、左手の人差し指を自分の唇に当てた。そして、促すように背中を押し、音を立てないようにゆっくりと窓際へとにじり寄っていく。心臓が早鐘を打つ。嫌な予感が全身を駆け巡った。
レオは汚れた窓ガラスをそっと指で拭うと、中の様子を窺った。そして、私の方を無言で振り返り、顎で「見ろ」と示す。
震える足で一歩前に出て、恐る恐るその窓から中を覗き込んだ。
教室の真ん中に置かれた一台のピアノ。その椅子に二つの影がぴったりと寄り添っていた。
――――アルバートとリディア。
次の瞬間、私の目に飛び込んできたのは、悪夢としか思えない衝撃的な光景だった。
「本当に……この先にいるのかしら」
「さあな。だが火のない所に煙は立たねえだろ」
「もし、誰もいなかったら……あなた、どうしてくれるのよ」
「そん時はそん時だ。勘違いだったって笑ってやる」
軽口とは裏腹に、私を掴むレオの手には力がこもっていた。やがて、蔦の絡まる旧理科準備室の前にたどり着いた。
窓に明かりはなく、人の気配は全くしない。
静寂だけが私たちを包んでいた。
「……誰もいないじゃない」
私は安堵と自己嫌悪が入り混じった声で呟いた。
「ほら、やっぱりあなたの見間違いよ!アルバートはそんなことする人じゃないわ!」
「……チッ。あっちの方かもしれねえ」
「もういい! もう帰りましょう! こんなことしてるなんてアルバートに知られたら……私、最低よ。恋人を疑って、こんな……!」
レオを振り払い、踵を返そうとしたその時。
「にゃあ」
足元から猫の鳴き声が聞こえた。
見ると、この間公園で手当てしたあのぶち猫が私の足にすり寄ってきたのだ。
「あ……! あなた、この間の……! こんな所にいたのね! よかった、傷はもう痛まない?」
私が優しく声をかけると、猫は興味なさそうに尻尾をぱたりと揺らしただけだった。
「ブッチ!」
「……は? ブッチ……だと? ブチ柄だからブッチかよ。お前のそのネーミングセンス、壊滅的だな」
「い、いいでしょ別に! 可愛くて覚えやすいじゃない!」
「初等部生でももうちょい捻るぞ」
「うるさいわね!」
突然、ブッチはくるりと向きを変え、数歩先でこちらを振り返る。そしてまた「にゃあ」と鳴くと、使われなくなった空き教室の方へととことこ歩いて行った。
ブッチは教室の古びた扉の前でぴたりと足を止め、ちょこんと座り込んだ。まるで「ここだよ」とでも言うように。
その時、教室の窓から微かな光が漏れていることにレオが気づいた。
「……おい、静かにしろ」
「え?」
レオは素早く私の口を右手で塞ぐと、左手の人差し指を自分の唇に当てた。そして、促すように背中を押し、音を立てないようにゆっくりと窓際へとにじり寄っていく。心臓が早鐘を打つ。嫌な予感が全身を駆け巡った。
レオは汚れた窓ガラスをそっと指で拭うと、中の様子を窺った。そして、私の方を無言で振り返り、顎で「見ろ」と示す。
震える足で一歩前に出て、恐る恐るその窓から中を覗き込んだ。
教室の真ん中に置かれた一台のピアノ。その椅子に二つの影がぴったりと寄り添っていた。
――――アルバートとリディア。
次の瞬間、私の目に飛び込んできたのは、悪夢としか思えない衝撃的な光景だった。
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