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16.広まる噂
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あの日からアルバートとは距離を取り、学園内でも彼がいそうな場所を避けて歩くようになった。気持ちをうまく整理できずにいたから。
「エリス、大丈夫? 最近アルバートと会ってないみたいだけど何かあったの?」
「ううん、何でもないわ。ちょっとお互い忙しいだけよ」
心配してくれる友人たちに曖昧に笑って誤魔化すのが精一杯だった。
そんな日々が数日続いたある朝、教室に足を踏み入れた私は空気がいつもと違うことに気づいた。クラスメイトたちがひそひそと声を潜め、何かを噂している。その中心にはアルバートとリディアの名前があった。
「ねえ、聞いた? アルバートのこと……」
「まさか……。けど見たっていう子がいるのよ」
「相手はリディア・クロフォードさんでしょ? 旧理科準備室で、二人で……その、ふしだらなことをしてたって……」
稲妻が体を直撃したかのような衝撃。
囁かれる言葉があの日見た光景を生々しく蘇らせる。
顔が青ざめるのが自分でもわかった。
「エリス……!? 大丈夫!?」
「ご、ごめん……。ちょっと気分が悪くて……」
友人の声も耳に入らないまま、教室を飛び出した。向かう先は一つしかなかった。
噂の出どころはあの場にいたもう一人の人物に違いない。案の定、レオは屋上のフェンスに寄りかかってぼんやりと空を眺めていた。
息を切らしながら彼の前に仁王立ちする。
「レオ! あなたが言いふらしたんでしょ!」
「あ? 何がだよ」
「とぼけないで! アルバートとリディアさんのこと! 教室中、その話で持ちきりよ! あの日のこと、知ってるのは私とあなたしかいないじゃない!」
私の怒声にもレオは淡々とこちらを一瞥するだけだった。
「ああ、あの下世話な噂か。ずいぶん盛り上がってるみたいじゃねえか。で、それが何で俺の仕業になるんだよ。俺じゃねえって」
「嘘よ! じゃあ、他に誰がいるっていうの!?」
「落ち着けって。俺がそんな面倒なことすると思うか? 大体、お前が一番傷つくってわかってて、わざわざ追い討ちかけるような真似するかよ」
「……え?」
当たり前のように言われた言葉に私は思わず詰まる。レオは大きくため息をつくと、フェンスから体を離した。
「よく考えろ。あいつら、あれが初めてだったと思うか?」
「どういう……こと?」
「俺たちが見たのは、たまたまその日だっただけだ。きっと常習犯だったんだよ。一回や二回じゃない。だから俺たち以外の誰かに見られた。それだけのことだろ」
「……そんな」
「それかあの女がわざとバラしたのかもな。お前から王子様を奪うために外堀から埋めてる最中ってわけだ」
レオの冷静な分析が私の激情を冷ましていく。そうだ、あの二人の慣れた様子は一度や二度のものではなかったはず。あの甘い言葉も、あの卑猥な行為もきっと私が知らないだけで何度も繰り返されていたのだ。
「……そう、なのね……」
怒りの行き場を失い、その場に立ち尽くす。
そんな私をレオは黙って見ていた。
どれくらい時間が経っただろうか。
私は俯いていた顔をゆっくりと上げた。
「……私ね、もう決めたの」
「……何をだよ」
「アルバートと別れる」
「……そうか」
レオは短く相槌を打った。
彼の表情はいつもと変わらない。
「もう、あの人の顔をまともに見られない。彼がくれた言葉も、一緒に過ごした時間も、全部……あの光景で汚されちゃったから。信じてた自分が……馬鹿みたい」
ぽろりと涙が一粒だけ頬を伝う。
私がそれを乱暴に拭うと、レオはふいと視線を逸らした。
「……それでいいんじゃねえの」
「……うん」
「最初からお前には不釣り合いだったんだよ、あんな見かけだけの王子様は」
「……ひどい言い方」
「事実だろ」
軽口を叩きながらも、その声にはつたない優しさが滲んでいた。張り詰めていた心の糸が少しだけ緩むのを感じる。
「ありがとう、レオ」
「は?」
「あの時も、今も……隣にいてくれてありがとう」
素直な感謝の言葉にレオは一瞬だけ目を見開いた後、バツが悪そうに頭をガシガシと掻いた。
「……勘違いすんな。俺はただ、お前の不幸が最高の娯楽だって言っただけだ。王子様を振るお姫様なんて滅多に見れないからな。……って、そろそろチャイム鳴るぞ」
屋上に吹く朝の風が熱くなった私の頬を冷ましていく。
まるで感傷に浸るのはもう終わりだと告げているかのように。
「エリス、大丈夫? 最近アルバートと会ってないみたいだけど何かあったの?」
「ううん、何でもないわ。ちょっとお互い忙しいだけよ」
心配してくれる友人たちに曖昧に笑って誤魔化すのが精一杯だった。
そんな日々が数日続いたある朝、教室に足を踏み入れた私は空気がいつもと違うことに気づいた。クラスメイトたちがひそひそと声を潜め、何かを噂している。その中心にはアルバートとリディアの名前があった。
「ねえ、聞いた? アルバートのこと……」
「まさか……。けど見たっていう子がいるのよ」
「相手はリディア・クロフォードさんでしょ? 旧理科準備室で、二人で……その、ふしだらなことをしてたって……」
稲妻が体を直撃したかのような衝撃。
囁かれる言葉があの日見た光景を生々しく蘇らせる。
顔が青ざめるのが自分でもわかった。
「エリス……!? 大丈夫!?」
「ご、ごめん……。ちょっと気分が悪くて……」
友人の声も耳に入らないまま、教室を飛び出した。向かう先は一つしかなかった。
噂の出どころはあの場にいたもう一人の人物に違いない。案の定、レオは屋上のフェンスに寄りかかってぼんやりと空を眺めていた。
息を切らしながら彼の前に仁王立ちする。
「レオ! あなたが言いふらしたんでしょ!」
「あ? 何がだよ」
「とぼけないで! アルバートとリディアさんのこと! 教室中、その話で持ちきりよ! あの日のこと、知ってるのは私とあなたしかいないじゃない!」
私の怒声にもレオは淡々とこちらを一瞥するだけだった。
「ああ、あの下世話な噂か。ずいぶん盛り上がってるみたいじゃねえか。で、それが何で俺の仕業になるんだよ。俺じゃねえって」
「嘘よ! じゃあ、他に誰がいるっていうの!?」
「落ち着けって。俺がそんな面倒なことすると思うか? 大体、お前が一番傷つくってわかってて、わざわざ追い討ちかけるような真似するかよ」
「……え?」
当たり前のように言われた言葉に私は思わず詰まる。レオは大きくため息をつくと、フェンスから体を離した。
「よく考えろ。あいつら、あれが初めてだったと思うか?」
「どういう……こと?」
「俺たちが見たのは、たまたまその日だっただけだ。きっと常習犯だったんだよ。一回や二回じゃない。だから俺たち以外の誰かに見られた。それだけのことだろ」
「……そんな」
「それかあの女がわざとバラしたのかもな。お前から王子様を奪うために外堀から埋めてる最中ってわけだ」
レオの冷静な分析が私の激情を冷ましていく。そうだ、あの二人の慣れた様子は一度や二度のものではなかったはず。あの甘い言葉も、あの卑猥な行為もきっと私が知らないだけで何度も繰り返されていたのだ。
「……そう、なのね……」
怒りの行き場を失い、その場に立ち尽くす。
そんな私をレオは黙って見ていた。
どれくらい時間が経っただろうか。
私は俯いていた顔をゆっくりと上げた。
「……私ね、もう決めたの」
「……何をだよ」
「アルバートと別れる」
「……そうか」
レオは短く相槌を打った。
彼の表情はいつもと変わらない。
「もう、あの人の顔をまともに見られない。彼がくれた言葉も、一緒に過ごした時間も、全部……あの光景で汚されちゃったから。信じてた自分が……馬鹿みたい」
ぽろりと涙が一粒だけ頬を伝う。
私がそれを乱暴に拭うと、レオはふいと視線を逸らした。
「……それでいいんじゃねえの」
「……うん」
「最初からお前には不釣り合いだったんだよ、あんな見かけだけの王子様は」
「……ひどい言い方」
「事実だろ」
軽口を叩きながらも、その声にはつたない優しさが滲んでいた。張り詰めていた心の糸が少しだけ緩むのを感じる。
「ありがとう、レオ」
「は?」
「あの時も、今も……隣にいてくれてありがとう」
素直な感謝の言葉にレオは一瞬だけ目を見開いた後、バツが悪そうに頭をガシガシと掻いた。
「……勘違いすんな。俺はただ、お前の不幸が最高の娯楽だって言っただけだ。王子様を振るお姫様なんて滅多に見れないからな。……って、そろそろチャイム鳴るぞ」
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まるで感傷に浸るのはもう終わりだと告げているかのように。
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