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17.あからさまな嘘
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昼休みを迎えた教室は誰もがアルバートの噂話に夢中だったが、お昼ご飯を一緒に食べる友人たちは誰もその話題に触れようとはしない。
同情を含んだ視線がかえって私を逃げ場のない気持ちにさせた。その時、教室の入り口が不自然なほど静かになった。
「エリス、見て……」
「うそ、なんでアルバートがここに……」
友人たちの声に顔を上げると、そこにはやつれた顔のアルバートが立っていた。
彼は他の生徒には目もくれず、まっすぐ私の席へと歩いてくる。クラス中の視線が集まるのを感じた。
「エリス、少し話せるかい?」
私は静かに頷き席を立った。
二人で教室を出て、中庭へと向かう。
廊下ですれ違う誰もが私たちを遠巻きに眺め、ひそひそと言葉を交わしていた。
「ひどい噂が広まっているみたいだ。君の耳にも入ってしまっただろう? 本当に申し訳ない……」
「……」
「まったく、誰がこんな酷いことを……。人気者は辛いよ。ちょっと親切にしただけで、あらぬ噂を立てられてしまうんだから。僕たちの仲を妬んだ誰かの仕業に違いない」
アルバートの見え透いた嘘にもう何の感情も抱かなかった。例の木陰が見える場所で、私はぴたりと足を止める。
「アルバート」
「なんだい? 信じてくれるんだろう、エリス。僕とリディアは本当に何もない。君も知って……」
「あなたと別れたいの」
「……今、なんて……?」
予想外の言葉だったのか、アルバートはぽかんと口を開けて固まった。
「な、何を言っているんだい? 別れる? なぜそんなことを……」
「もう、あなたを信じられないから」
「待ってくれ! あの根も葉もない噂のせいかい!? まさか君まで僕を疑うのか? 僕があんな下劣な噂を流されて、一番傷ついているっていうのに!」
彼は必死な形相で私の肩を掴んだ。
その力に私はびくともしない。
「僕が愛しているのは君だけだ! 卒業したら結婚しようってあの約束も忘れてしまったのかい!?」
愛している。結婚。
その音色はもう心に届かない。
この目で見た彼の裏切りを突きつける勇気はなかった。
ピアノの椅子で恍惚としていたあの顔。
あの下卑た声が耳の奥で反響する。
この目で見たのだと、この耳で聞いたのだと突きつけてやりたかった。でも、あの汚らわしい光景を言葉にするだけで自分の口まで汚れてしまう気がした。
言葉を飲み込み、ぐっと唇を噛み締める私を前にアルバートはわずかに安堵したような表情を見せた。沈黙を迷いだと都合よく解釈したらしい。
「……ごめん、今は君も混乱しているんだろう。僕も少し冷静になるべきだった」
彼は気まずそうに視線を逸らすと、掴んでいた私の肩からそっと手を離した。
「……また今度、ちゃんと話そう。二人きりで落ち着いてゆっくりと。それまで僕を信じて待っていてほしい」
「……」
「じゃあ、また……」
アルバートはそれだけ言うと早足に消えていった。遠ざかっていく背中をただ黙って見送る。
言えなかった。
けれどもうそれでよかった。
別れの言葉は確かに私の口から告げたのだから。それだけで十分だった。
同情を含んだ視線がかえって私を逃げ場のない気持ちにさせた。その時、教室の入り口が不自然なほど静かになった。
「エリス、見て……」
「うそ、なんでアルバートがここに……」
友人たちの声に顔を上げると、そこにはやつれた顔のアルバートが立っていた。
彼は他の生徒には目もくれず、まっすぐ私の席へと歩いてくる。クラス中の視線が集まるのを感じた。
「エリス、少し話せるかい?」
私は静かに頷き席を立った。
二人で教室を出て、中庭へと向かう。
廊下ですれ違う誰もが私たちを遠巻きに眺め、ひそひそと言葉を交わしていた。
「ひどい噂が広まっているみたいだ。君の耳にも入ってしまっただろう? 本当に申し訳ない……」
「……」
「まったく、誰がこんな酷いことを……。人気者は辛いよ。ちょっと親切にしただけで、あらぬ噂を立てられてしまうんだから。僕たちの仲を妬んだ誰かの仕業に違いない」
アルバートの見え透いた嘘にもう何の感情も抱かなかった。例の木陰が見える場所で、私はぴたりと足を止める。
「アルバート」
「なんだい? 信じてくれるんだろう、エリス。僕とリディアは本当に何もない。君も知って……」
「あなたと別れたいの」
「……今、なんて……?」
予想外の言葉だったのか、アルバートはぽかんと口を開けて固まった。
「な、何を言っているんだい? 別れる? なぜそんなことを……」
「もう、あなたを信じられないから」
「待ってくれ! あの根も葉もない噂のせいかい!? まさか君まで僕を疑うのか? 僕があんな下劣な噂を流されて、一番傷ついているっていうのに!」
彼は必死な形相で私の肩を掴んだ。
その力に私はびくともしない。
「僕が愛しているのは君だけだ! 卒業したら結婚しようってあの約束も忘れてしまったのかい!?」
愛している。結婚。
その音色はもう心に届かない。
この目で見た彼の裏切りを突きつける勇気はなかった。
ピアノの椅子で恍惚としていたあの顔。
あの下卑た声が耳の奥で反響する。
この目で見たのだと、この耳で聞いたのだと突きつけてやりたかった。でも、あの汚らわしい光景を言葉にするだけで自分の口まで汚れてしまう気がした。
言葉を飲み込み、ぐっと唇を噛み締める私を前にアルバートはわずかに安堵したような表情を見せた。沈黙を迷いだと都合よく解釈したらしい。
「……ごめん、今は君も混乱しているんだろう。僕も少し冷静になるべきだった」
彼は気まずそうに視線を逸らすと、掴んでいた私の肩からそっと手を離した。
「……また今度、ちゃんと話そう。二人きりで落ち着いてゆっくりと。それまで僕を信じて待っていてほしい」
「……」
「じゃあ、また……」
アルバートはそれだけ言うと早足に消えていった。遠ざかっていく背中をただ黙って見送る。
言えなかった。
けれどもうそれでよかった。
別れの言葉は確かに私の口から告げたのだから。それだけで十分だった。
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