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19.突然の来訪者
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その夜、自室のベッドに横たわった私は天井を見つめていた。アルバートに別れを告げたものの、心はまだ鈍い痛みを抱えたまますっきりと晴れることはない。
コンコンと控えめなノックの音に続いて、マリベルが心配そうな顔で入ってきた。
「お姉様……大丈夫?」
「ええ、平気よ。ただ少し考え事をしてただけ」
「……私ね、お姉様に言わなきゃいけないことがあるの」
ベッドの端に座ったマリベルはぎゅっと自分の膝の上で拳を握りしめた。
その真剣な表情に黙って先を促す。
「アルバートのことよ。あいつがしたこと、ただの噂なんかじゃない。私、どうしても許せなくて……だから、動いたわ」
「動いたって……何を?」
「友達に協力してもらって、あの日の目撃者を見つけ出したの。旧校舎でアルバートとリディアがいかがわしいことをしていたのをはっきりと見たっていう子を」
「えっ……!?」
思いがけない言葉に鼓動が速まる。
あの光景を知っているのはやはり私とレオだけではなかった。
「その子にお願いしたの。『先生にすべてを話してほしい』って。最初は怖がっていたけど、友達も一緒に説得してくれて……今日、学園側に正式に報告してくれたわ」
「マリベル……あなた、そんなことを……」
「当たり前じゃない!お姉様がどれだけ傷つけられたと思ってるの!?あんな奴、野放しにしておいて、また他の誰かが同じ目に遭うなんて絶対にあっちゃいけない!あいつは罰を受けるべきなのよ!」
妹の強い眼差し。
それは私を思う純粋な怒り。
私が何かを言い返すより早く、階下から玄関の呼び鈴が鳴り響いた。
「あら、こんな夜更けにどなたかしら……」
母の訝しむ声が聞こえてくる。
私とマリベルは顔を見合わせた。
嫌な胸騒ぎがする。
やがて母の驚いたような短い悲鳴と、父の落ち着いた低い声が続いた。私たちが慌てて階段を駆け下りると玄関にいたのは……
「……アルバート……」
俯き、顔を上げられないアルバートとその隣で厳しい表情を浮かべた父親らしき壮年の男性。
その姿を目にした途端、マリベルが私をかばうように前に飛び出した。
「何の御用ですか!どの面下げて私たちの家に来たんですの!?」
「マリベル!」
「お姉様は黙ってて!お姉様をあんなに傷つけておいて、まだ何か用があるって言うの!?恥を知りなさい!今すぐ帰ってください!」
感情的に叫ぶマリベルの肩をいつの間にか背後に立っていた父が静かに掴んだ。
「マリベル、おやめなさい」
「でもお父様!この人たちは……!」
「お客様に対してあまりにも無礼だぞ」
父の厳しい言葉にマリベルは悔しそうに唇を噛んで押し黙る。静まり返った玄関でアルバートの父親らしき人が一歩前に出た。そして、ためらうことなく私たち家族の前で深く頭を下げた。
「夜分に突然の訪問、大変失礼いたします。アルバートの父、ルモンド・レヴィンと申します。この度は……私の監督不行き届きにより、息子がエリスさんのお心を深く傷つけるという、人としてあるまじき行いをしでかしてしまいました。父親として心よりお詫び申し上げます。誠に、誠に申し訳ございません!」
その真摯な謝罪に今度は母が言葉を失う。
ルモンド氏は顔を上げることなく、隣で縮こまっている息子の背中を強く叩いた。
「アルバート!お前も謝罪せんか!」
「……っ……もうしわけ……ありませんでした……」
蚊の鳴くような声で呟き、アルバートも形だけ頭を下げる。その姿に、再びマリベルの怒りが燃え上がりそうになったのを父の強い視線が制した。
父はルモンド氏に向き直ると、
「お顔をお上げください、ルモンドさん。謝罪のお言葉は確かにお聞きいたしました」
「……」
「詳しい事情をお聞かせいただけますでしょうか。ここで立ち話もなんです。さあ、どうぞ中へお入りください」
父の言葉に母もこくりと頷く。
「ええ、そうですね。リビングへどうぞ」
ルモンド氏は恐縮したように一度だけ顔を上げ、そして再び深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
重々しい空気を引きずったまま、レヴィン親子は我が家の居間へと通されていった。
コンコンと控えめなノックの音に続いて、マリベルが心配そうな顔で入ってきた。
「お姉様……大丈夫?」
「ええ、平気よ。ただ少し考え事をしてただけ」
「……私ね、お姉様に言わなきゃいけないことがあるの」
ベッドの端に座ったマリベルはぎゅっと自分の膝の上で拳を握りしめた。
その真剣な表情に黙って先を促す。
「アルバートのことよ。あいつがしたこと、ただの噂なんかじゃない。私、どうしても許せなくて……だから、動いたわ」
「動いたって……何を?」
「友達に協力してもらって、あの日の目撃者を見つけ出したの。旧校舎でアルバートとリディアがいかがわしいことをしていたのをはっきりと見たっていう子を」
「えっ……!?」
思いがけない言葉に鼓動が速まる。
あの光景を知っているのはやはり私とレオだけではなかった。
「その子にお願いしたの。『先生にすべてを話してほしい』って。最初は怖がっていたけど、友達も一緒に説得してくれて……今日、学園側に正式に報告してくれたわ」
「マリベル……あなた、そんなことを……」
「当たり前じゃない!お姉様がどれだけ傷つけられたと思ってるの!?あんな奴、野放しにしておいて、また他の誰かが同じ目に遭うなんて絶対にあっちゃいけない!あいつは罰を受けるべきなのよ!」
妹の強い眼差し。
それは私を思う純粋な怒り。
私が何かを言い返すより早く、階下から玄関の呼び鈴が鳴り響いた。
「あら、こんな夜更けにどなたかしら……」
母の訝しむ声が聞こえてくる。
私とマリベルは顔を見合わせた。
嫌な胸騒ぎがする。
やがて母の驚いたような短い悲鳴と、父の落ち着いた低い声が続いた。私たちが慌てて階段を駆け下りると玄関にいたのは……
「……アルバート……」
俯き、顔を上げられないアルバートとその隣で厳しい表情を浮かべた父親らしき壮年の男性。
その姿を目にした途端、マリベルが私をかばうように前に飛び出した。
「何の御用ですか!どの面下げて私たちの家に来たんですの!?」
「マリベル!」
「お姉様は黙ってて!お姉様をあんなに傷つけておいて、まだ何か用があるって言うの!?恥を知りなさい!今すぐ帰ってください!」
感情的に叫ぶマリベルの肩をいつの間にか背後に立っていた父が静かに掴んだ。
「マリベル、おやめなさい」
「でもお父様!この人たちは……!」
「お客様に対してあまりにも無礼だぞ」
父の厳しい言葉にマリベルは悔しそうに唇を噛んで押し黙る。静まり返った玄関でアルバートの父親らしき人が一歩前に出た。そして、ためらうことなく私たち家族の前で深く頭を下げた。
「夜分に突然の訪問、大変失礼いたします。アルバートの父、ルモンド・レヴィンと申します。この度は……私の監督不行き届きにより、息子がエリスさんのお心を深く傷つけるという、人としてあるまじき行いをしでかしてしまいました。父親として心よりお詫び申し上げます。誠に、誠に申し訳ございません!」
その真摯な謝罪に今度は母が言葉を失う。
ルモンド氏は顔を上げることなく、隣で縮こまっている息子の背中を強く叩いた。
「アルバート!お前も謝罪せんか!」
「……っ……もうしわけ……ありませんでした……」
蚊の鳴くような声で呟き、アルバートも形だけ頭を下げる。その姿に、再びマリベルの怒りが燃え上がりそうになったのを父の強い視線が制した。
父はルモンド氏に向き直ると、
「お顔をお上げください、ルモンドさん。謝罪のお言葉は確かにお聞きいたしました」
「……」
「詳しい事情をお聞かせいただけますでしょうか。ここで立ち話もなんです。さあ、どうぞ中へお入りください」
父の言葉に母もこくりと頷く。
「ええ、そうですね。リビングへどうぞ」
ルモンド氏は恐縮したように一度だけ顔を上げ、そして再び深く頭を下げた。
「……ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
重々しい空気を引きずったまま、レヴィン親子は我が家の居間へと通されていった。
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