20 / 37
20.元恋人の謝罪
しおりを挟む
重苦しい空気がリビングに満ちていた。
ソファに私と両親、妹のマリベルが並んで座り、その向かい側には生気をなくしたアルバートと、彼の父であるルモンド氏が硬い表情で腰を下ろしている。誰一人として口を開かず、時計の秒針の音だけがやけに大きく響いていた。
沈黙を破ったのは私の父だった。
「さて、ルモンドさん。詳しいお話を伺いましょうか」
父の声にルモンド氏は深く頷き、隣に座る息子の肩を強く押した。
「アルバート。お前自身の口から洗いざらいすべてをお話しするんだ」
「……はい」
アルバートは俯いたまま、か細い声でぽつりぽつりと語り始めた。
「今日……放課後、学年主任の先生と担任の先生に生徒指導室へ呼び出されました」
「……」
「そこで……『同じ学年のリディア・クロフォードとの間に、学園の風紀を著しく乱す不適切な関係があったのではないか』と……」
「不適切ですって!?それどころの話じゃないでしょう!」
思わずマリベルが声を荒らげたが、父がこつと指でテーブルを一度叩いた音にぐっと言葉を飲み込んだ。アルバートはさらに声を小さくして続ける。
「実際に……僕たちの行為を目撃したという生徒から正式な報告が上がっている、と……問い詰められて……僕は……」
「……」
「もう、言い逃れはできないと観念して……すべてを話しました。リディアとは……その場の感情に流されて……エリスという大切な恋人がいながら、深い関係になってしまったこと……そして旧校舎の空き教室で……みだらな行為に及んだこと……すべてを白状しました」
私はアルバートから目を離さなかった。
ルモンド氏が重々しく口を開いた。
「学園からは厳重注意の処分が下されました。リディアさんとは接触を禁じられ、風紀を乱した罰として奉仕活動も課せられるとのことです。もちろん我が家でも厳しく罰する所存です」
話が終わるとルモンド氏はアルバートのうなじを鷲掴みにし、ソファから引きずり下ろした。そして抵抗する間もなく、その頭を床へと強く押し付けた。
「さあ!エリスさんに!そしてご家族の皆様に!心から!土下座してお詫び申し上げるんだ!」
「ぐっ……!」
アルバートは床に額をこすりつけ、絞り出すように叫んだ。
「エリスッ……!本当に……!本当に申し訳ありませんでした……! 僕は……どうかしていたんだ!君という、誰よりも素晴らしい恋人がいてくれたのに……なんて愚かで、許されないことを……!」
むせび泣きながら顔を上げたアルバートは、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、
「もう二度とあんな過ちは犯さない!リディアとは金輪際、言葉を交わすことすらしないとここに固く誓う!だから……!だからどうか……!どうかもう一度だけ僕にチャンスをくれないか!? 君を失いたくないんだ、エリス!僕には君だけが必要なんだ!卒業したら結婚するという約束もあれは嘘じゃない!僕の本心だったんだ!」
「アルバート」
その声にアルバートの懇願がぴたりと止まる。リビングにいる全員の視線が私に集中した。
「あなたの謝罪は受け取ります。お父様までお越しになってこうして頭を下げてくれたこと……その誠意は理解しました」
「じゃあ、エリス……!許して……」
「でも私たちの関係はもうおしまい」
「そ、そんな……どうして……!僕はもう過ちは犯さないとここで誓ったのに……!」
「過ちを犯したからというだけじゃないわ。私の信頼を……あなたはあなた自身の言葉と行動で粉々に打ち砕いたの。粉々になったものはもう二度と元には戻らない」
そっと何もない自分の胸元に手をやった。
「あなたが私にくれたものは、もう全部、私の心の中にはないの」
「そん……な……嘘だろ、エリス……」
アルバートは力なくその場にへたり込んだ。
まっすぐに彼の目を見つめて最後の言葉を告げた。
「今までありがとう、アルバート。あなたの恋人でいられて幸せだった時も確かにありました。それももう過去のこと。さようなら」
そのきっぱりとした響きにアルバートはもう何の言葉も返せなかった。
やがてルモンド氏が諦めたように深く息を吐き、ゆっくりと立ち上がった。
「……息子がしでかしたことの重大さを考えれば当然の結果です。エリスさん。あなたの賢明なご判断、そのお気持ち、しかと受け止めました。この度は息子の愚行により皆様に与えたご心痛、重ねてお詫び申し上げます」
彼はアルバートの腕を乱暴に掴んで無理やり立たせる。
「行くぞ、アルバート。これ以上、皆様にご迷惑をおかけするんじゃない」
力なく引きずられるようにしてアルバートはリビングを後にする。玄関のドアを開ける直前、彼は最後に一度だけ私の方を振り返った。
その目は取り返しのつかない後悔と絶望に濡れていたけれど、私がその視線に応えることはなかった。
ソファに私と両親、妹のマリベルが並んで座り、その向かい側には生気をなくしたアルバートと、彼の父であるルモンド氏が硬い表情で腰を下ろしている。誰一人として口を開かず、時計の秒針の音だけがやけに大きく響いていた。
沈黙を破ったのは私の父だった。
「さて、ルモンドさん。詳しいお話を伺いましょうか」
父の声にルモンド氏は深く頷き、隣に座る息子の肩を強く押した。
「アルバート。お前自身の口から洗いざらいすべてをお話しするんだ」
「……はい」
アルバートは俯いたまま、か細い声でぽつりぽつりと語り始めた。
「今日……放課後、学年主任の先生と担任の先生に生徒指導室へ呼び出されました」
「……」
「そこで……『同じ学年のリディア・クロフォードとの間に、学園の風紀を著しく乱す不適切な関係があったのではないか』と……」
「不適切ですって!?それどころの話じゃないでしょう!」
思わずマリベルが声を荒らげたが、父がこつと指でテーブルを一度叩いた音にぐっと言葉を飲み込んだ。アルバートはさらに声を小さくして続ける。
「実際に……僕たちの行為を目撃したという生徒から正式な報告が上がっている、と……問い詰められて……僕は……」
「……」
「もう、言い逃れはできないと観念して……すべてを話しました。リディアとは……その場の感情に流されて……エリスという大切な恋人がいながら、深い関係になってしまったこと……そして旧校舎の空き教室で……みだらな行為に及んだこと……すべてを白状しました」
私はアルバートから目を離さなかった。
ルモンド氏が重々しく口を開いた。
「学園からは厳重注意の処分が下されました。リディアさんとは接触を禁じられ、風紀を乱した罰として奉仕活動も課せられるとのことです。もちろん我が家でも厳しく罰する所存です」
話が終わるとルモンド氏はアルバートのうなじを鷲掴みにし、ソファから引きずり下ろした。そして抵抗する間もなく、その頭を床へと強く押し付けた。
「さあ!エリスさんに!そしてご家族の皆様に!心から!土下座してお詫び申し上げるんだ!」
「ぐっ……!」
アルバートは床に額をこすりつけ、絞り出すように叫んだ。
「エリスッ……!本当に……!本当に申し訳ありませんでした……! 僕は……どうかしていたんだ!君という、誰よりも素晴らしい恋人がいてくれたのに……なんて愚かで、許されないことを……!」
むせび泣きながら顔を上げたアルバートは、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、
「もう二度とあんな過ちは犯さない!リディアとは金輪際、言葉を交わすことすらしないとここに固く誓う!だから……!だからどうか……!どうかもう一度だけ僕にチャンスをくれないか!? 君を失いたくないんだ、エリス!僕には君だけが必要なんだ!卒業したら結婚するという約束もあれは嘘じゃない!僕の本心だったんだ!」
「アルバート」
その声にアルバートの懇願がぴたりと止まる。リビングにいる全員の視線が私に集中した。
「あなたの謝罪は受け取ります。お父様までお越しになってこうして頭を下げてくれたこと……その誠意は理解しました」
「じゃあ、エリス……!許して……」
「でも私たちの関係はもうおしまい」
「そ、そんな……どうして……!僕はもう過ちは犯さないとここで誓ったのに……!」
「過ちを犯したからというだけじゃないわ。私の信頼を……あなたはあなた自身の言葉と行動で粉々に打ち砕いたの。粉々になったものはもう二度と元には戻らない」
そっと何もない自分の胸元に手をやった。
「あなたが私にくれたものは、もう全部、私の心の中にはないの」
「そん……な……嘘だろ、エリス……」
アルバートは力なくその場にへたり込んだ。
まっすぐに彼の目を見つめて最後の言葉を告げた。
「今までありがとう、アルバート。あなたの恋人でいられて幸せだった時も確かにありました。それももう過去のこと。さようなら」
そのきっぱりとした響きにアルバートはもう何の言葉も返せなかった。
やがてルモンド氏が諦めたように深く息を吐き、ゆっくりと立ち上がった。
「……息子がしでかしたことの重大さを考えれば当然の結果です。エリスさん。あなたの賢明なご判断、そのお気持ち、しかと受け止めました。この度は息子の愚行により皆様に与えたご心痛、重ねてお詫び申し上げます」
彼はアルバートの腕を乱暴に掴んで無理やり立たせる。
「行くぞ、アルバート。これ以上、皆様にご迷惑をおかけするんじゃない」
力なく引きずられるようにしてアルバートはリビングを後にする。玄関のドアを開ける直前、彼は最後に一度だけ私の方を振り返った。
その目は取り返しのつかない後悔と絶望に濡れていたけれど、私がその視線に応えることはなかった。
105
あなたにおすすめの小説
心から信頼していた婚約者と幼馴染の親友に裏切られて失望する〜令嬢はあの世に旅立ち王太子殿下は罪の意識に悩まされる
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラ・ミローレンス・ファンタナルは虚弱な体質で幼い頃から体調を崩しやすく常に病室のベットの上にいる生活だった。
学園に入学してもアイラ令嬢の体は病気がちで異性とも深く付き合うことはなく寂しい思いで日々を過ごす。
そんな時、王太子ガブリエル・アレクフィナール・ワークス殿下と運命的な出会いをして一目惚れして恋に落ちる。
しかし自分の体のことを気にして後ろめたさを感じているアイラ令嬢は告白できずにいた。
出会ってから数ヶ月後、二人は付き合うことになったが、信頼していたガブリエル殿下と親友の裏切りを知って絶望する――
その後アイラ令嬢は命の炎が燃え尽きる。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
婚約破棄、ありがとうございます
奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。
裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます
nanahi
恋愛
婚約者ウィルとその幼馴染ベティに罠にはめられ、湖へ沈められた伯爵令嬢アミアン。一命を取り留め、公女として生まれ変わった彼女が見たのは、裏切り者の幸せな家庭だった。
アミアンは絶望を乗り越え、第二の人生を歩む決意をする。いまだ国に影響力を持つ先の王弟の大公女として、輝くほど磨き上げられていったアミアンに再会したウィルは激しく後悔するが、今更遅かった。
全ての記憶を取り戻したアミアンは、ついに二人の悪事を断罪する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる