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23.それぞれのお見舞い
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雨でぐっしょりと濡れたアルバートが妹に促されるまま私の部屋へ入ってきた。その疲弊した姿に私は静かにシーツを握りしめる。
「エリス……」
彼はベッドのそばまで来ると、ためらうことなくその場に膝をつき深く頭を下げた。
「本当に……本当にすまなかった。君が倒れたと聞いて……僕のせいだ。僕が君を追い詰めたんだ」
「……」
「僕は本当に愚かだった。君というかけがえのない存在を自分の手で壊してしまって……失って初めて、君がどれだけ僕のすべてだったかを思い知った」
「……」
「どんな罰でも受ける。でもこれだけは信じてほしい。もう二度と君を傷つけるようなことはしない。君の心を裏切るような真似は絶対にしない。だから……どうか、僕の償いを見守ってはくれないだろうか。君の信頼を取り戻せるまで僕はなんだってするから」
私は何も答えなかった。
ただ、床に額をこすりつけんばかりに謝罪を続ける彼の震える背中を見つめているだけだった。
***
その日を境にアルバートは毎日私の家を訪れるようになった。初めはマリベルが鬼のような形相で睨みつけていたけれど、彼は何も言わずにただ頭を下げ、私の部屋へ来た。
「……また来たの」
「……うん。邪魔にならないようにすぐに帰るから」
彼は無理に話しかけたり、許しを請うたりはしない。私が本を読んでいれば静かにページをめくる音に耳を傾け、私が眠っていれば息を潜めてそこにいる。ただ部屋の隅の椅子に座って、同じ空間で時間を過ごすだけ。
ふと喉の渇きを覚えて小さく咳をすると、彼は立ち上がり、テーブルの上の水差しからグラスに水を注いでそっと差し出した。
「……ありがとう」
「……ああ」
ある日の午後、マリベルが呆れたようにため息をついた。
「お姉様、まだあの人を部屋に入れてるの? 少し良くなったからって油断しすぎよ」
「……何もしてこないわ。ただ座っているだけ」
「それが余計に気味が悪いんじゃない!どうせ同情を買おうっていう魂胆よ!」
妹の言うこともわかる。
けれど静かにそこにいるだけのアルバートの姿は以前の自信に満ちた王子様とはまるで別人だった。ただひたすらに私の回復だけを祈っているように見えた。
彼が毎日持ってくる小さな花束が窓辺で少しずつ増えていく。白いフリージア、淡いピンクのスイートピー、そして今日は小さな青い勿忘草。
その日の夕方、彼が帰り支度をしながら初めて静かに語りかけた。
「僕にできることがこれくらいしか思いつかなくて……。ただ……君が元気になるところをこの目で見届けたいだけなんだ」
「……」
「それ以上のことはもう望まないから。君が僕を許さなくてもいい。君が僕の顔を二度と見たくないと言うなら、明日からはもう来ない」
私はしばらく黙っていたが、やがて小さな声で答えた。
「……明日も天気だといいわね」
彼の瞳がみるみるうちに潤んでいくのをただ静かに見つめていた。彼が帰った後、部屋には勿忘草の微かな甘い香りが残っていた。
そっとそれに指で触れる。
憎かったはずなのに。
あの裏切りは決して許せないはずなのに。
――――それでも彼のひたむきな姿に、頑なだった心が少しずつ変化していくのを否定できなかった。
「にゃあ」
突然、窓の外から短い鳴き声が聞こえた。
「え……?」
驚いて目を向けると、窓枠にひょいと軽やかに飛び乗ってくる猫の姿があった。
「ブッチ!どうしてこんなところに?私の部屋、二階よ?」
窓を開けるとブッチは得意げに尻尾を揺らした。その小さな背中に一枚のカードがリボンでそっと結びつけられているのに気づく。
「これは……?」
そっとリボンをほどき、二つ折りのカードを開く。そこに書かれていたのは一言だけの走り書きのような無愛想な文字。
『寝てばっかだと太るぞ』
「……ふふっ」
思わず小さな笑い声が漏れた。
堪えようとしてもくすくすと肩が揺れる。
心配なら心配だって素直に書けばいいのに。
「届けてくれてありがとう、ブッチ。あなた本当に賢い子ね」
頭を撫でてあげるとブッチは気持ちよさそうに喉を鳴らした。
「エリス……」
彼はベッドのそばまで来ると、ためらうことなくその場に膝をつき深く頭を下げた。
「本当に……本当にすまなかった。君が倒れたと聞いて……僕のせいだ。僕が君を追い詰めたんだ」
「……」
「僕は本当に愚かだった。君というかけがえのない存在を自分の手で壊してしまって……失って初めて、君がどれだけ僕のすべてだったかを思い知った」
「……」
「どんな罰でも受ける。でもこれだけは信じてほしい。もう二度と君を傷つけるようなことはしない。君の心を裏切るような真似は絶対にしない。だから……どうか、僕の償いを見守ってはくれないだろうか。君の信頼を取り戻せるまで僕はなんだってするから」
私は何も答えなかった。
ただ、床に額をこすりつけんばかりに謝罪を続ける彼の震える背中を見つめているだけだった。
***
その日を境にアルバートは毎日私の家を訪れるようになった。初めはマリベルが鬼のような形相で睨みつけていたけれど、彼は何も言わずにただ頭を下げ、私の部屋へ来た。
「……また来たの」
「……うん。邪魔にならないようにすぐに帰るから」
彼は無理に話しかけたり、許しを請うたりはしない。私が本を読んでいれば静かにページをめくる音に耳を傾け、私が眠っていれば息を潜めてそこにいる。ただ部屋の隅の椅子に座って、同じ空間で時間を過ごすだけ。
ふと喉の渇きを覚えて小さく咳をすると、彼は立ち上がり、テーブルの上の水差しからグラスに水を注いでそっと差し出した。
「……ありがとう」
「……ああ」
ある日の午後、マリベルが呆れたようにため息をついた。
「お姉様、まだあの人を部屋に入れてるの? 少し良くなったからって油断しすぎよ」
「……何もしてこないわ。ただ座っているだけ」
「それが余計に気味が悪いんじゃない!どうせ同情を買おうっていう魂胆よ!」
妹の言うこともわかる。
けれど静かにそこにいるだけのアルバートの姿は以前の自信に満ちた王子様とはまるで別人だった。ただひたすらに私の回復だけを祈っているように見えた。
彼が毎日持ってくる小さな花束が窓辺で少しずつ増えていく。白いフリージア、淡いピンクのスイートピー、そして今日は小さな青い勿忘草。
その日の夕方、彼が帰り支度をしながら初めて静かに語りかけた。
「僕にできることがこれくらいしか思いつかなくて……。ただ……君が元気になるところをこの目で見届けたいだけなんだ」
「……」
「それ以上のことはもう望まないから。君が僕を許さなくてもいい。君が僕の顔を二度と見たくないと言うなら、明日からはもう来ない」
私はしばらく黙っていたが、やがて小さな声で答えた。
「……明日も天気だといいわね」
彼の瞳がみるみるうちに潤んでいくのをただ静かに見つめていた。彼が帰った後、部屋には勿忘草の微かな甘い香りが残っていた。
そっとそれに指で触れる。
憎かったはずなのに。
あの裏切りは決して許せないはずなのに。
――――それでも彼のひたむきな姿に、頑なだった心が少しずつ変化していくのを否定できなかった。
「にゃあ」
突然、窓の外から短い鳴き声が聞こえた。
「え……?」
驚いて目を向けると、窓枠にひょいと軽やかに飛び乗ってくる猫の姿があった。
「ブッチ!どうしてこんなところに?私の部屋、二階よ?」
窓を開けるとブッチは得意げに尻尾を揺らした。その小さな背中に一枚のカードがリボンでそっと結びつけられているのに気づく。
「これは……?」
そっとリボンをほどき、二つ折りのカードを開く。そこに書かれていたのは一言だけの走り書きのような無愛想な文字。
『寝てばっかだと太るぞ』
「……ふふっ」
思わず小さな笑い声が漏れた。
堪えようとしてもくすくすと肩が揺れる。
心配なら心配だって素直に書けばいいのに。
「届けてくれてありがとう、ブッチ。あなた本当に賢い子ね」
頭を撫でてあげるとブッチは気持ちよさそうに喉を鳴らした。
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