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24.登校再開
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体調が回復し久しぶりに制服に袖を通し登校した日――――。教室の扉を開けた私を友人たちの温かい声が包み込んだ。
「エリス! よかった、もう大丈夫なの!?」
「顔色がまだ少し悪いわよ。無理しちゃだめだからね!」
「本当に心配したんだから!」
口々に気遣ってくれる友人たちに私は「ありがとう、もう平気よ」と微笑みかけた。私の不在の間、アルバートとリディアの噂はいつの間にか下火になっていたらしい。誰もがその話題を避けてくれているのがわかった。
休み時間。
友人たちとの会話が一段落し席を立った。
向かった先は廊下の突き当りにある女子トイレ。手を洗いながらふと鏡を見ると、背後で静かにドアが開く音がした。
鏡の中に映り込んだ姿に思わず動きを止める。そこに立っていたのはリディア・クロフォードだった。
彼女は俯きがちにこちらへ歩み寄ると、私の数歩手前で足を止めた。蛇口から流れ落ちる水音だけが気まずい沈黙を埋めている。
やがて蛇口をひねって水を止めると、リディアは顔を上げた。
「エリスさん……。少しだけお話できませんか」
静かな空間にか細い声が響く。
私は黙って頷いた。
他にどんな言葉を返せばいいのか分からなかったから。
二人で向かったのは人気のない校舎の裏手。
湿った壁の蔦が重苦しい空気を助長しているようだった。リディアは私の前に立つと突然、頭を下げた。
「……本当にごめんなさい!」
「顔を上げて、リディアさん。もう終わったことよ」
「……私のせいであなたを深く傷つけてしまった……。アルバートはただ……失恋で傷心だった私を気遣ってくれただけなの。私が弱さに負けて彼の優しさにすがってしまって……」
「…………」
「だから……お願い、エリスさん」
リディアは懇願するように私の服の袖へと指を伸ばしかけ、
「お願い……アルバートを許してあげて……! あなたを失ってから彼、ずっと苦しんでいるの。食事も喉を通らないみたいで……。……悪いのは全部私なんです!」
思いもよらない言葉だった。
アルバートを許してほしいと彼の共犯者であった彼女が涙ながらに訴えてくるなんて。
「……どうしてそれをあなたが頼むの?」
「だって……彼を救えるのは世界中であなたしかいないから……! どうか、お願い……!」
彼女の必死な瞳から目を逸らすことしかできなかった。重い心を引きずって一人で教室へ戻る途中、廊下の角で不意に誰かとぶつかりそうになった。
「……あっ」
「……エリス」
ばったりと鉢合わせたのはアルバートだった。
「体は……もう大丈夫なのかい?」
「ええ……おかげさまで」
「そうか……よかった。顔が見られて安心したよ」
会話が途切れ、ぎこちないさが漂う中、先にそれを破ったのは彼だった。
「あの、エリス」
「……何?」
「もし……これから何か困ったことがあったら僕に言ってほしい。どんな些細なことでもいい。君が僕を許さなくても構わないから。僕は……ただ君の力になりたい。友達としてでも……ううん、それ以下でもいい。だから、どうか……」
彼はそれ以上何も言わず、私の横をすり抜けていった。
『許してあげて』
『力になりたい』
二人の言葉が私の心の中で重く渦巻いていた。
「エリス! よかった、もう大丈夫なの!?」
「顔色がまだ少し悪いわよ。無理しちゃだめだからね!」
「本当に心配したんだから!」
口々に気遣ってくれる友人たちに私は「ありがとう、もう平気よ」と微笑みかけた。私の不在の間、アルバートとリディアの噂はいつの間にか下火になっていたらしい。誰もがその話題を避けてくれているのがわかった。
休み時間。
友人たちとの会話が一段落し席を立った。
向かった先は廊下の突き当りにある女子トイレ。手を洗いながらふと鏡を見ると、背後で静かにドアが開く音がした。
鏡の中に映り込んだ姿に思わず動きを止める。そこに立っていたのはリディア・クロフォードだった。
彼女は俯きがちにこちらへ歩み寄ると、私の数歩手前で足を止めた。蛇口から流れ落ちる水音だけが気まずい沈黙を埋めている。
やがて蛇口をひねって水を止めると、リディアは顔を上げた。
「エリスさん……。少しだけお話できませんか」
静かな空間にか細い声が響く。
私は黙って頷いた。
他にどんな言葉を返せばいいのか分からなかったから。
二人で向かったのは人気のない校舎の裏手。
湿った壁の蔦が重苦しい空気を助長しているようだった。リディアは私の前に立つと突然、頭を下げた。
「……本当にごめんなさい!」
「顔を上げて、リディアさん。もう終わったことよ」
「……私のせいであなたを深く傷つけてしまった……。アルバートはただ……失恋で傷心だった私を気遣ってくれただけなの。私が弱さに負けて彼の優しさにすがってしまって……」
「…………」
「だから……お願い、エリスさん」
リディアは懇願するように私の服の袖へと指を伸ばしかけ、
「お願い……アルバートを許してあげて……! あなたを失ってから彼、ずっと苦しんでいるの。食事も喉を通らないみたいで……。……悪いのは全部私なんです!」
思いもよらない言葉だった。
アルバートを許してほしいと彼の共犯者であった彼女が涙ながらに訴えてくるなんて。
「……どうしてそれをあなたが頼むの?」
「だって……彼を救えるのは世界中であなたしかいないから……! どうか、お願い……!」
彼女の必死な瞳から目を逸らすことしかできなかった。重い心を引きずって一人で教室へ戻る途中、廊下の角で不意に誰かとぶつかりそうになった。
「……あっ」
「……エリス」
ばったりと鉢合わせたのはアルバートだった。
「体は……もう大丈夫なのかい?」
「ええ……おかげさまで」
「そうか……よかった。顔が見られて安心したよ」
会話が途切れ、ぎこちないさが漂う中、先にそれを破ったのは彼だった。
「あの、エリス」
「……何?」
「もし……これから何か困ったことがあったら僕に言ってほしい。どんな些細なことでもいい。君が僕を許さなくても構わないから。僕は……ただ君の力になりたい。友達としてでも……ううん、それ以下でもいい。だから、どうか……」
彼はそれ以上何も言わず、私の横をすり抜けていった。
『許してあげて』
『力になりたい』
二人の言葉が私の心の中で重く渦巻いていた。
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