【完結】裏切り王子様とからかい幼馴染~気づけば私の心は一人に奪われていました~

遠野エン

文字の大きさ
26 / 37

26.夜空の下で

しおりを挟む
週末の夜、アルバートは「君にどうしても見せたいものがある」と私を誘い出した。
彼にエスコートされ、馬車に乗り込む。
しばらく無言のまま揺られていると、アルバートに話しかけられた。

「体調はもう本当に大丈夫? 無理はしていないかい?」
「ええ、もうすっかり平気よ。心配してくれてありがとう」
「……そうか。よかった」

それきり会話は途切れ、沈黙が再び二人を包む。馬車に揺られながら、窓の外を流れる夜の景色をただ黙って見つめる。
隣に座るアルバートの緊張した横顔が視界の端に映った。やがて馬車が止まり、彼に促されるまま外へ降り立つと、澄んだ夜の空気が頬をかすめた。
緩やかな坂を上りきった丘の上。
そこに広がっていたのは手が届きそうなほど近くに瞬く、満点の星空だった。
頭上には数えきれないほどの星が瞬き、銀色の砂を撒いたように夜空を埋め尽くしている。

「ここは僕だけが知っている秘密の場所なんだ。君にこれをどうしても見せたかった」

アルバートは一歩近づくと、星空を見上げる私の瞳をまっすぐに覗き込んだ。

「僕の気持ちはこの星空のように変わらない。君への想いは本物なんだ。あんな過ちを犯してしまったけれど……どうかもう一度、僕を信じてほしい」

熱のこもった声。
私はゆっくりと彼に視線を返した。

「アルバート。ここへ来るまでずっと考えていたの。あなたのこと、私たちのこと……」
「エリス……」
「あなたが心から反省してくれているのはもう十分に伝わった。毎日お見舞いに来てくれたことも……感謝してる」
「じゃあ……!」

期待に輝く彼の瞳を前に、首を横に振った。

「でもね、ごめんなさい。私たちはもう元の恋人同士には戻れない」

彼の瞳から瞬く間に光が失われていく。

「一度失ってしまった信頼は元には戻らないの。壊れてしまったガラス細工はもう二度と元通りにはならない」
「……」

アルバートは声を発することもできず、唇を噛みしめていた。その悲しみに染まった顔を見るのは私の胸をも締めつけた。

「でもね、あなたがしてくれたこと全部を憎んだまま生きていくのは嫌だから。……だから提案があるの」
「……提案?」
「恋人としては無理だけど……その代わり友達としてなら、もう一度やり直してもいいと思ってる」

アルバートは私をただ見つめていた。

「……友達……として……?」
「ええ。ゼロから。いいえ、マイナスからのスタートかもしれないわね。もう一度、もう一度“あなた”という人を知りたいの。それでいいのなら」

星空の下で時間が止まったかのような間が流れた。
やがて彼が出した答えは……

「……わかった。それ以外に君のそばにいられる方法はないんだね」

彼はそっと私の手を包み込んだ。

「ありがとう、エリス。友達として……ううん、君のそばにいることを許してくれて。必ず君の信頼を取り戻してみせる。どんなに時間がかかっても」

私はその手を振り払うことはしなかった。
満天の星空の下、私たちは恋人としての関係に終わりを告げ、新しい関係を始める。夜空に輝く無数の星々だけがその瞬間を静かに見守っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

オネエな幼馴染と男嫌いな私

麻竹
恋愛
男嫌いな侯爵家の御令嬢にはオネエの幼馴染がいました。しかし実は侯爵令嬢が男嫌いになったのは、この幼馴染のせいでした。物心つく頃から一緒にいた幼馴染は事ある毎に侯爵令嬢に嫌がらせをしてきます。その悪戯も洒落にならないような悪戯ばかりで毎日命がけ。そのせいで男嫌いになってしまった侯爵令嬢。「あいつのせいで男が苦手になったのに、なんであいつはオカマになってるのよ!!」と大人になって、あっさりオカマになってしまった幼馴染に憤慨する侯爵令嬢。そんな侯爵令嬢に今日も幼馴染はちょっかいをかけに来るのでした。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

俺の可愛い幼馴染

SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。 ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。 連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。 感想もご自由にどうぞ。 ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。

好きじゃない人と結婚した「愛がなくても幸せになれると知った」プロポーズは「君は家にいるだけで何もしなくてもいい」

佐藤 美奈
恋愛
好きじゃない人と結婚した。子爵令嬢アイラは公爵家の令息ロバートと結婚した。そんなに好きじゃないけど両親に言われて会って見合いして結婚した。 「結婚してほしい。君は家にいるだけで何もしなくてもいいから」と言われてアイラは結婚を決めた。義母と義父も優しく満たされていた。アイラの生活の日常。 公爵家に嫁いだアイラに、親友の男爵令嬢クレアは羨ましがった。 そんな平穏な日常が、一変するような出来事が起こった。ロバートの幼馴染のレイラという伯爵令嬢が、家族を連れて公爵家に怒鳴り込んできたのだ。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

処理中です...