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29.その愛は本物?
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年に一度、学生主体で行われるダンスパーティー。その開催を数時間後に控えたホールはまだ準備中の慌ただしさと、これから始まる祝祭への期待が入り混じった独特の熱気に満ちていた。
壁際には色とりどりの花が飾られ、実行委員の学生たちが手際よく銀食器を並べている。
アルバートは約束の時間よりずいぶん早く着いてしまい、会場の隅で手持ち無沙汰にその様子を眺めていた。エリスとの関係は「友達」として再スタートしたばかり。今日のこのパーティーはその新しい関係を試される最初の舞台でもあった。
「アルバート」
不意に背後からかけられた静かな声。
アルバートはぎくりとして振り返った。
そこにいたのはリディア・クロフォードだった。ドレスアップもせず、いつもの学生服を着ている。
「……リディア」
「久しぶりね」
「僕に話しかけないでくれ。学園からの命令を忘れたのか」
アルバートは周囲を気にするように声を潜め、棘のある言葉で彼女を突き放した。リディアは怯むことなく、ただ無言で彼を見つめ続ける。アルバートは衝動的に彼女の腕を掴んだ。
「っ……!何をするの」
「二人でいるところを見られたらまずい。来てくれ」
半ば強引に人目のない控室へと彼女を連れて行く。扉を閉めると、ホールの喧騒が嘘のように遠ざかった。
「……何の用だ。君のせいで僕がどれだけ苦労したと思ってる」
「謝罪ならもう十分にしたつもりよ。今日はそのために来たんじゃない」
「じゃあ何なんだ。僕をまだ苦しめ足りないのか」
「違う。どうしてもあなたに聞かなければいけないことがあったの」
リディアは掴まれた腕をそっと振りほどき、彼と向き合った。
「私たちはもう長いこと口も聞いていないのに、どうして教室ではあんなに何度も目が合うの?」
「……気のせいだろう。自意識過剰じゃないか?」
「いいえ、気のせいじゃないわ。私があなたを見ているからわかるの。あなたも私を見ている。私が視線を送ると、あなたはいつも……何か言いたそうな顔をして、それから慌てて目を逸らす」
「君がじっと見てくるから視線を感じて振り向くだけだ」
「本当にそう?あなたは嘘をつく時、少しだけ早口になるのね」
「……用がないなら帰ってくれ。もうすぐエリスが来る」
「そうね。二人には幸せになってほしいと心から願ってた。エリスさんにも謝ってあなたを許してほしいと伝えた。でも……」
リディアは言葉を切り、アルバートの瞳をまっすぐに覗き込んだ。
「今のあなたはとても辛そうに見える。エリスさんと一緒にいる時のあなたは本当に幸せなの?」
「……何を馬鹿なことを言っているんだ」
「馬鹿なことじゃないわ。私にはそうは見えないもの。どこか無理をして自分を偽っているようにしか……。ねえ、アルバート。あなたは本当にエリスさんのことを愛しているの?」
「当たり前だろう!僕はエリスを愛している。だからこそ僕は変わらなければならないんだ!君との過ちを償って……!」
「償うことと愛することは違うわ」
「何が言いたい!」
「あなたはただ、エリスさんに許されたいだけじゃないの?失った信頼を取り戻して『善良なアルバート・レヴィン』に戻りたいだけじゃない?それは愛じゃない。あなたのプライドを守るためのただの自己満足よ」
「……黙れ」
「あの日……旧校舎でのこと。あなたは私に何て言ったか覚えてる?」
リディアは一歩、アルバートに近づいた。
「『君といると癒される』って。『エリスの嫉妬や束縛から解放されて息ができる』って……。あの言葉は全部嘘だったの?」
「……っ!」
アルバートはリディアを睨みつけた。
その瞳は怒りよりも狼狽の色が濃く浮かんでいる。
「あの時のことは……僕の一時の気の迷いだと言ったはずだ!」
「……あなたは私の前でだけ、本当の自分を見せてくれた。誰にでも優しい完璧な王子様じゃない、弱くて、ずるくて、寂しがり屋の……ただの男の子の顔を。私は……そんなあなたが好きだった」
リディアの指がそっとアルバートの頬に触れようとする。アルバートはそれを払いのけるように大きく後ずさった。
「……君と話すことは何もない。もう二度と僕の前に現れないでくれ」
「アルバート……!」
「エリスを悲しませるわけにはいかないんだ。彼女の信頼を取り戻し、今度こそ彼女を幸せにすると決めたんだ!」
彼は一方的にそう言い放つとリディアに背を向けた。
「待って、アルバート!」
リディアの呼び止める声も聞かずにアルバートはその場を去ってしまった。静まり返った部屋に彼女の小さな呟きだけが虚しく響いた。
「……嘘つき。一番自分に嘘をついているのはあなたよ……」
壁際には色とりどりの花が飾られ、実行委員の学生たちが手際よく銀食器を並べている。
アルバートは約束の時間よりずいぶん早く着いてしまい、会場の隅で手持ち無沙汰にその様子を眺めていた。エリスとの関係は「友達」として再スタートしたばかり。今日のこのパーティーはその新しい関係を試される最初の舞台でもあった。
「アルバート」
不意に背後からかけられた静かな声。
アルバートはぎくりとして振り返った。
そこにいたのはリディア・クロフォードだった。ドレスアップもせず、いつもの学生服を着ている。
「……リディア」
「久しぶりね」
「僕に話しかけないでくれ。学園からの命令を忘れたのか」
アルバートは周囲を気にするように声を潜め、棘のある言葉で彼女を突き放した。リディアは怯むことなく、ただ無言で彼を見つめ続ける。アルバートは衝動的に彼女の腕を掴んだ。
「っ……!何をするの」
「二人でいるところを見られたらまずい。来てくれ」
半ば強引に人目のない控室へと彼女を連れて行く。扉を閉めると、ホールの喧騒が嘘のように遠ざかった。
「……何の用だ。君のせいで僕がどれだけ苦労したと思ってる」
「謝罪ならもう十分にしたつもりよ。今日はそのために来たんじゃない」
「じゃあ何なんだ。僕をまだ苦しめ足りないのか」
「違う。どうしてもあなたに聞かなければいけないことがあったの」
リディアは掴まれた腕をそっと振りほどき、彼と向き合った。
「私たちはもう長いこと口も聞いていないのに、どうして教室ではあんなに何度も目が合うの?」
「……気のせいだろう。自意識過剰じゃないか?」
「いいえ、気のせいじゃないわ。私があなたを見ているからわかるの。あなたも私を見ている。私が視線を送ると、あなたはいつも……何か言いたそうな顔をして、それから慌てて目を逸らす」
「君がじっと見てくるから視線を感じて振り向くだけだ」
「本当にそう?あなたは嘘をつく時、少しだけ早口になるのね」
「……用がないなら帰ってくれ。もうすぐエリスが来る」
「そうね。二人には幸せになってほしいと心から願ってた。エリスさんにも謝ってあなたを許してほしいと伝えた。でも……」
リディアは言葉を切り、アルバートの瞳をまっすぐに覗き込んだ。
「今のあなたはとても辛そうに見える。エリスさんと一緒にいる時のあなたは本当に幸せなの?」
「……何を馬鹿なことを言っているんだ」
「馬鹿なことじゃないわ。私にはそうは見えないもの。どこか無理をして自分を偽っているようにしか……。ねえ、アルバート。あなたは本当にエリスさんのことを愛しているの?」
「当たり前だろう!僕はエリスを愛している。だからこそ僕は変わらなければならないんだ!君との過ちを償って……!」
「償うことと愛することは違うわ」
「何が言いたい!」
「あなたはただ、エリスさんに許されたいだけじゃないの?失った信頼を取り戻して『善良なアルバート・レヴィン』に戻りたいだけじゃない?それは愛じゃない。あなたのプライドを守るためのただの自己満足よ」
「……黙れ」
「あの日……旧校舎でのこと。あなたは私に何て言ったか覚えてる?」
リディアは一歩、アルバートに近づいた。
「『君といると癒される』って。『エリスの嫉妬や束縛から解放されて息ができる』って……。あの言葉は全部嘘だったの?」
「……っ!」
アルバートはリディアを睨みつけた。
その瞳は怒りよりも狼狽の色が濃く浮かんでいる。
「あの時のことは……僕の一時の気の迷いだと言ったはずだ!」
「……あなたは私の前でだけ、本当の自分を見せてくれた。誰にでも優しい完璧な王子様じゃない、弱くて、ずるくて、寂しがり屋の……ただの男の子の顔を。私は……そんなあなたが好きだった」
リディアの指がそっとアルバートの頬に触れようとする。アルバートはそれを払いのけるように大きく後ずさった。
「……君と話すことは何もない。もう二度と僕の前に現れないでくれ」
「アルバート……!」
「エリスを悲しませるわけにはいかないんだ。彼女の信頼を取り戻し、今度こそ彼女を幸せにすると決めたんだ!」
彼は一方的にそう言い放つとリディアに背を向けた。
「待って、アルバート!」
リディアの呼び止める声も聞かずにアルバートはその場を去ってしまった。静まり返った部屋に彼女の小さな呟きだけが虚しく響いた。
「……嘘つき。一番自分に嘘をついているのはあなたよ……」
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